藤嶋健人は「ザ・ドラゴンズ」 根尾昂は「常に全肯定」 日中問題の専門家が中日問題を綴る…「残ドラ」著者・富坂聰さんに聞く
2025年5月28日(水)10時0分 スポーツ報知
小学館新書「人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた」を上梓した拓大教授の富坂聰さん(カメラ・加藤弘士)
現代中国のスペシャリストとして知られるジャーナリストで、拓大教授の富坂聰さんが「人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた」(小学館新書・税込み1056円)を上梓。プロ野球ファンを中心に話題を集めている。ドラファン歴半世紀。日中問題のエキスパートは、なぜ複雑な「中日(ファン)問題」について綴ろうとしたのか。一冊に込めた思いを聞いた。(加藤 弘士)
昨季は球団史上初の3年連続最下位に沈んだが、今季は井上新監督の中、まずは勝率5割を目指して奮闘するドラゴンズ。なぜ富坂さんは長年、中日ファンであり続けるのか。そんな問いに間髪入れず、こう言い切った。
「理由のない愛こそが至上なんですよ。愛知県生まれというのもありますが、生まれついた時から好きだったので、なぜかと言われても何とも言いようがないんですよね。だけど、どう考えても、中日のユニホームは全世界のどのユニホームよりも美しいと思っちゃうんです。ドジャースよりも爽やかですよね」
富坂さんは書く。「ドラゴンズは人生の理不尽さを学ぶ“教科書”である」と。様々な事象に疑問を抱きつつも、それを生きる上での学びに変えていく。応援歌の名曲「燃えよドラゴンズ!」の歌詞にも、こんなツッコミを入れた。
「『1番高木が塁に出て』の箇所ですよね。高木守道さんは通算2274安打を放っているし、1969年には24本塁打を記録しているんです。通算236本塁打ってすごいですよ。歴史に残るすごい打者です。でも『塁に出て』って謙虚すぎる(笑)。僕は『1番高木がツーベース』が語呂もいいのにと思っちゃう」
その背景をこう分析した。
「名古屋人って内弁慶なんですよ。すごいところを持っているはずなのに、妙に遠慮する。独特の分のわきまえ方があるんです。もっと自信を持っていこうよと思います。『塁に出て』じゃ寂しいと」
一時代を築いたショート・宇野勝については、中でも筆圧強く書かれる。1984年には37発で本塁打王に輝き、翌85年には41発を放った強打の遊撃手でありながら、常に1981年の『宇野ヘディング事件』が語り継がれ、正当な歴史的評価を得ていないと主張する。
「フライをヘディングしたのは同じ1981年、広島・山本浩二さんが4か月先だったはずです。僕は浩二さんの時に『おでこに当てた!』とびっくりしたんですよ。でも浩二さんはイケメンだし、法大からプロ入り後は苦労もして、中距離打者からホームランバッターに進化してね。腰痛に苦しみながら、ミスター赤ヘルとして奮闘してきて。そういう『物語』を背負っている人に対して、世間は笑っていいと思わないわけですよ。だけど、宇野のことはむちゃくちゃ笑う。これは違う。不公平だと」
現在進行形のドラゴンズにも熱い視線を注ぐ富坂さん。中でもお気に入りは愛知県出身、東邦から入団した藤嶋健人投手だ。中日濃度が濃すぎる藤嶋を「ザ・ドラゴンズ」と形容する。
「『ミスター・ドラゴンズ』っていうのはいるじゃないですか。サッカーで言えば10番みたいなね。だけどそれとは別に、心配で心配で我が子のように思ってしまうみたいな。藤嶋って地元の人だし、ガッツを見せてくれるし…それでも結果が出ない時って、あるじゃないですか。それをあんまり見たくない。だから心を揺さぶられるんですよ。打者では、上川誠二、仁村徹にも同じにおいを感じますね」
中日ファンが集まったら議論にならざるを得ない「根尾昂をどうするか問題」には、こう断言した。
「根尾はこのまま突っ走ってもらって、あとは全肯定するしかないんですよ。否定はないんです。もう全肯定ですよ。今後、どんな人生を歩んでも全肯定ですよ。投打の才能にあふれて、器用にこなせるからこそ、『資源分配』に迷いが生じるというのは、まさに人生の難しさそのものです。でも、今の根尾が一番素晴らしい。常に今を全肯定。私はNetflixの名作ドラマ以上のものを見せてもらっていると思っているんです。結末が全く分からない」
中日ファンであることの喜びと悲しみ。それはまさに生きていくことの喜びと悲しみそのものであると、富坂さんは結んだ。
「不如意なものですよね。自在にならない何か。でもこの『自在にならない何か』を人生に与えてくれているっていうのが、貴重なことなんです。本当に『ドラゴンズ、ありがとう』って感じです。今年はね。多分8月ぐらいまで全然目立たない感じですけど、夏からは中日がグワッと行きますよ。応援するのみです」