JSB1000マシンフォーカス:「まだまだ武器が足りない」。改造範囲が広いからこそ難しいGSX-R1000のバランス取り

2019年9月16日(月)6時0分 AUTOSPORT web

 ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内4メーカーがしのぎを削り合っている全日本ロードレース選手権JSB1000クラス。そんなJSB1000の車両をピックアップし、ライダーや関係者にマシンの強みや魅力を聞いていく。今回は、スズキのトップチームヨシムラスズキMOTULのスズキGSX-R1000にフォーカスする。


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 2015年の開幕戦以来、勝利から遠ざかっているスズキGSX-R1000。2016年には津田拓也(当時ヨシムラスズキシェルアドバンス)が粘り強いライディングでランキング2位につけたものの、未勝利だった。続く2017年、ヨシムラスズキMOTULは7代目となる新型を投入したが、津田は再び勝利なきランキング2位。2018年は表彰台に立つことなくランキング6位に沈んでしまった。

全日本ロードレース選手権第2戦鈴鹿のレース1で2位表彰台を獲得した渡辺一樹(ヨシムラスズキMOTUL)


 2019年はライダーのラインアップを一新し、中堅の渡辺一樹、そしてベテランの加賀山就臣という顔ぶれに。ここまでの全8レース中で、渡辺が第2戦鈴鹿で2位表彰台を獲得している。


 2001年のデビュー以来、GSX-R1000を丹念に熟成してきたスズキ。2017年に登場した7代目はエンジン、車体ともにMotoGPマシンGSX-RR直系のテクノロジーをふんだんに盛り込み、大幅なステップアップを果たしたモデルだ。量産車としてのパフォーマンスは一級品と言える。


 だが、全日本ロードレース選手権JSB1000クラスにおいてスズキはファクトリー活動を行っておらず、プライベーターの名門ヨシムラスズキMOTULがトップチームという位置づけだ。スズキとの連携は密接だが、マシン性能を存分に引き出すという点においてはホンダ、ヤマハの両ファクトリー陣営に水を空けられていることは否めない。


 1993年に全日本に初参戦して以来、現在に至るまで長きにわたってスズキのライダーとしてレースを戦い続けている加賀山は、今年で45歳。豊富な経験を携えてヨシムラ入りし、チームの支柱となっている。


「量産車のGSX-R1000はナチュラルなハンドリングで非常に評判がいい。僕自身もクセのない乗り味だと感じます」と加賀山。

ヨシムラスズキMOTULのスズキGSX-R1000 2019年仕様(右フロント)


「JSB1000仕様にも多少その傾向は受け継がれていますが、JSBは改造範囲が広く、量産車と同じパーツはメインフレームとエンジン部品の数点ぐらい。まったく別モノと言っていいと思います」


「量産車の出来栄えで言えば、GSX-R1000はライバル車にまったく負けていない。これは断言できます。でもJSB仕様のエンジンは量産車をはるかに超えるパワーが出ていますし、タイヤもハイグリップなスリックタイヤを履く。それに合わせたバランス取りをしなければなりません。その部分では、残念ながらまだライバル車に届いていない部分がある」


 バイクは非常に繊細な乗り物だ。例えば加賀山は「ハンドリングの素性の良さが、コーナリングスピードにつながっていない」と言う。いかにハンドリングが良くても、エンジンの出力特性やタイヤとのマッチングなどさまざまな要素によって、コーナリングスピードを損なってしまうことがあるのだ。

ヨシムラスズキMOTULのスズキGSX-R1000 2019年仕様(左フロント)


■突出した武器が必要なGSX-R1000


 ヨシムラのエンジニアを務めている戸井田剛は、「ライダーのコメントやデータ解析により、エンジン特性をさらに扱いやすくすることに力を注いでいます」と説明する。


「従来はピークパワーを重視して開発し、一定の成果はえられました。しかし、ただパワーが出ればいいというものではありません。闇雲なパワーは、スライドやウイリーを誘発しやすいといった弊害をもたらす可能性もあります」


「また、パワーアップに応じて車体部品も変えていかなければならない。パワーをより扱いやすくしながら車体とのマッチングを高めることが、目下の課題です」

ヨシムラスズキMOTULのスズキGSX-R1000 2019年仕様(右リヤ)


 それが加賀山の言う「バランス取り」の内訳だ。繊細なだけに簡単なことではなく、時間をかけながら微調整を続けなければならない。7代目GSX-R1000は、デビューイヤーこそ未勝利ながらランキング2位につけたものの、2シーズン目の2018年にバランスを崩した。立て直しの3シーズン目となった今年、すでに2位表彰台を得ていることは、苦境の中でも大きな1歩と言える。


「まだまだ武器が足りない」と加賀山。「レーシングマシンは、何かひとつ突出したパフォーマンスが欲しいんです。そこがまだ見付けられていない。ただ、どこかが突出すれば、またそこに合わせてバランスを取らなければならない。難しいんですよ」と苦笑いする。

ヨシムラスズキMOTULのスズキGSX-R1000 2019年仕様(左リヤ)


 スズキのMotoGPマシンGSX-RRは、明らかにハンドリングを武器としている。第12戦イギリスGPの最終ラップ・最終コーナーでマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)のインを突いて優勝をさらったアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)は、GSX-RRの旋回性能を鮮やかに見せつけた。


 加賀山は、「レース専用のMotoGPマシンと量産車ベースのJSB1000マシンを比べることはできません。コンセプトもまったく違う。でも、スズキのレース部門にハンドリングという武器に関する情報があるのは確か。ヨシムラのエンジニアはスズキとの連携も密なので、少しでも情報を生かしていけたら、とは思っています」


 昨年までの加賀山は、Team KAGAYAMAのオーナー兼ライダーとしてJSB1000に参戦していた。今年はTeam KAGAYAMAを“TK SUZUKI BLUE MAX”として存続させながらも、ライダーとしてはヨシムラ入りをしている。


「45歳にもなってトップチームに抜擢してもらえて、最先端のバイクに乗れるなんて、幸せなことですよ」と加賀山は笑う。


「昨年まではチーム全体を回すことと走りとを両立する必要があった。今年は走りに専念できる体制です。自分がライダーとしてもどこまでやれるか確かめたいし、今までの経験をチームに役立てられれば、とも思っています」


「レースで勝つには、モノだけではなく、経験に基づく判断、物事の進め方、メカニックの考え方や作業など、すべてを整える必要があります。今はヨシムラのやり方を学ばせてもらっている段階ですが、いずれは自分のアイデアも生かしてもらえればうれしいですね」


 戸井田も、「加賀山選手はスズキ車で26年もレースを続けている大ベテラン。彼の持つ豊富な引き出しを開発に生かせたら」と期待する。


 ところで、ヨシムラといえばエンドユーザーにとってはマフラーメーカーというイメージが強い。加藤陽平監督は、「JSB1000は音量が105dB以下でなければならず、昨年からは測定回転数も5500rpmに高められるなど、より厳しいレギュレーションが課せられています。その中でもさまざまな工夫を凝らすことで、最適な特性を発揮しています。マフラーの作り込みに関しては、ライバルのファクトリーチームにも決して負けていません」と力強い。


「我々のレース活動は、市販マフラーの先行開発といった意味合いが強いのは確か。レースで磨かれた技術は、将来的に市販のマフラー“サイクロン”にもフィードバックしていきます」


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