G大阪vs浦和の集団的対立。審判団の措置は適切だったのか【JFA会見取材】
2023年9月28日(木)13時0分 FOOTBALL TRIBE

日本サッカー協会(JFA)審判委員会は9月27日、東京都文京区のJFAハウスにてレフェリーブリーフィングを開催。9月24日に行われた明治安田生命J1リーグ第28節、ガンバ大阪対浦和レッズの一戦で、FWホセ・カンテ(浦和)の退場処分に繋がった集団的対立について説明した。
後半4分、浦和GK西川周作のゴールキックでプレーが再開され、ボールはG大阪が守るペナルティエリア付近へ。この直後のボールの奪い合いで、カンテがG大阪のDF黒川圭介のユニフォームを引っ張り転倒させる。荒木友輔主審がすぐさま笛を吹き、カンテのホールディングの反則をとった。
G大阪のフリーキックでプレー再開と思われたが、転倒させられたことに腹を立てた黒川がカンテを小突く。G大阪のFW宇佐美貴史もカンテに詰め寄り、これらをきっかけに両チームの選手たちによる対立が起きた。
この騒動のなか、カンテが宇佐美に頭突きを見舞ったことで、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)が介入。荒木主審によるオンフィールドレビュー(※)の結果、集団的対立のきっかけを作った黒川と宇佐美にイエローカード、頭突きに及んだカンテにはレッドカードが提示された。
※VARの提案をもとに、主審が自らリプレイ映像を見て最終の判定を下すこと。

「状況が落ち着くまでVARは様子を見る」
JFA審判マネジャーJリーグ担当統括の東城穣氏は、当該場面でVARがチェックしていた映像と、審判団による無線でのやり取り(音声)を報道陣に公開。そのうえで、集団的対立が起きた際のVAR介入の手順を説明している。
「こうした状況では、色々なことが起きます。(事が)大きくなるかもしれないので、状況(集団的対立)が落ち着くまでVARは様子を見るようにしています。(様子を見ずに)VARがすぐ映像チェックに入って、誰にレッドカードなのか、他に何か起きていないかを見にいってしまうと、(判定に)余計に時間がかかってしまうので」
また、東城氏は集団的対立時に主審がとるべき行動についても言及。対立の制止よりも、状況把握を優先するというのが鉄則のようだ。
「騒動の輪の中へ主審が入ってしまうと、巻き込まれて(全体の状況が)分からなくなる可能性があります。(対立が起きている場所から)距離をとって、副審とも(協力して)違う角度からそれぞれ監視するということになっています」
JFA審判委員会委員長の扇谷健司氏も、主審が集団的対立を制止しに行くことの危険性を指摘。「1対1の対立ならまだしも、(騒動に関わる)選手の人数が多くなったときにリスクがあるかと。(主審が)足を踏まれたり、背後で何かが起きて、(選手と)ぶつかってしまったりすることもあるんです」と補足している。
まずは騒動が収まるのを待ちつつ、全体の状況を把握する。これが審判員の間で徹底されている、集団的対立発生時の原則だ。

まずはフィールド上の審判が判断・判定
大前提として、主審が何も判定を下さずに、VARにジャッジを委ねることはできない。「見逃された重大な事象を除き、主審およびフィールドにいるその他の審判員は、常に判定を下さなければならない(反則の可能性があったが、罰則を与えなかった場合の判断を含む)。判定は、はっきりとした明白な間違いでない限り、変更することができない」と、現行の競技規則で謳われているからだ。
この大原則は、集団的対立が起きた今回のG大阪対浦和でも守られた。
VARが介入する前に、荒木主審はフィールド上の他の審判員との協議を経て、カンテと宇佐美、及び浦和の選手との対立が見られたMFダワン(G大阪)にイエローカードという判断を当初導き出している。この荒木主審の判定が、VARの松尾一氏に伝えられた。
荒木主審の判断・判定を受け、VARの松尾氏はオンフィールドレビューを進言。その結果、当初警告が与えられるはずだったダワンはお咎めなしとなり、宇佐美と黒川にイエローカード、カンテにレッドカードという判定に変わった。
「集団的対立では、(複数の選手に)いろいろなカードを出したり、(オンフィールドレビューの末に)カードを差し替える可能性があります。(VAR介入前に)主審がカードを出して、VARに呼ばれて映像を見に行って、その結果一度出したカードを取り消したり新たに追加したりすると、更なる混乱を招くリスクがある。ただ、だからと言って主審が(VAR介入前に)何も判定しないのはダメ。なので、現場の判断を必ず(VARに)伝えてくださいと。現場の判断をVARがチェックする形ですね」
集団的対立の判定手順を、東城氏はこのように説明している。カンテのファウルからその後のプレー再開まで10分以上の時間を要したが、適切な手順で妥当な判定が下された。

集団的対立は防げなかったのか
今回のレフェリーブリーフィングでは、カンテのホールディングの反則が警告の対象にならなかったことが話題に。荒木主審がカンテにイエローカードを即座に提示していれば、同選手やG大阪の選手たちのヒートアップを抑えられ、試合のコントロールに繋がったのではないか。こうした意見が報道陣から挙がった。
東城氏はこの意見に理解を示しつつも、カンテの反則とほぼ同時に集団的対立が起きてしまったことで、荒木主審の対応の難易度が上がってしまったと分析している。
「レフェリーとして、現場で(対立が起きる前に)まず何ができるのか。これは考えなければならないと思います。(カンテの反則シーンで荒木主審は)笛を吹いていますし、カードを出そうと思えば出せるので、その対応は(選択肢として)あったのかなと。ただ、対立が起きたことでカードを出す機を逸してしまった部分があるかもしれませんし、(騒動の輪の中へ主審が)入ることのリスクもあるので。『たられば』の話なので難しいですが、我々(審判委員会)で共有しなければいけない部分だと思います」
集団的対立を未然に防ぐためのゲームコントロールと、一つひとつの判定精度の向上。これは審判員にとって永久のテーマとなるだろう。