町田vs川崎Fで好ジャッジ。ファウルやDOGSOでない理由は【JFA会見】
2025年4月25日(金)16時0分 FOOTBALL TRIBE

日本サッカー協会(JFA)審判委員会は4月23日、東京都文京区のJFAハウスにてレフェリーブリーフィングを開催。4月6日に行われた明治安田J1リーグ第9節町田ゼルビアvs川崎フロンターレにおいて、町田のDF林幸多郎と川崎FのDF三浦颯太が交錯した場面について見解を発表した。
この試合の後半18分に、町田が速攻を繰り出す。味方FW西村拓真のパスを受けた林が相手最終ライン背後へ抜け出したところ、三浦が林の肩に手をかける。これにより林は敵陣ペナルティエリア手前で転倒したが、木村博之主審の笛は鳴らなかった。
林は相手GKと1対1の状況で倒されているため、ファウルと判定されれば決定的な得点機会の阻止(※DOGSO)に当てはまり、三浦にレッドカードが提示されるはずのこの場面。ここでは本ブリーフィングに登壇した元国際審判員の佐藤隆治氏(JFA審判マネジャーJリーグ担当統括)の見解や、相手選手を押さえるホールディングの反則の判定基準を紹介する。
(※)『Denying an Obvious Goal Scoring Opportunity』の略。

「相手選手にどれほど影響しているのかを判断」
佐藤氏は当該シーンの映像を流したうえで、木村主審のジャッジに言及。ノーファウル判定は受け入れられるとの見解を示している。
「スロー再生で1コマずつ見れば、ディフェンス(三浦)が左手で攻撃側(林)の右肩を掴んでいるようにも見えます。(相手選手を押す)プッシングの反則もそうですし、ホールディングの反則にも言えることとして、その行為に不用意さや無謀さがあるか、もしくは過剰な力が使われているか、その行為が相手選手にどれほど影響しているのかを判断します。ホールディング(相手選手を押さえる)という行為があっても、それを反則とするかどうかの判断にはレフェリーの主観が入ると思います」
「ディフェンスの左腕がオフェンスの肩に乗っていますけど、倒れるほどの影響があったのか。コンタクトプレーが許容されているサッカーという競技において、レフェリーがあの位置からその事象を見て、ファウルをとらないという判定をした。この判断は十分にアクセプトできる(受け入れられる)と考えています」
「もちろん、程度の問題はあります。引っ張り合いが強かったり、全くボールにプレーできない状況で(相手選手を)真後ろから引っ張っているということであれば、話は違います。そういうところをレフェリーが1つずつ見て、ファウルとするかどうかを判断する。我々(審判委員会)としては、この事象をノーファウルとしたことは十分にアクセプトできます。もしこれをファウルとした場合は、DOGSOのシチュエーションですので(三浦に)レッドカードという判断をしなければなりません」

筆者が感じた競技規則との矛盾
本ブリーフィングで筆者が感じたのは、ホールディングの反則に関する佐藤氏の解説と、現行のサッカー競技規則との矛盾だ。
競技規則の第12条では、ファウル判定の際にその行為の不用意さ、無謀さ、過剰な力の有無が主審によって考慮されるものと、原則としてこれらが考慮されないものの2つに分類されている。競技規則の文言は下記の通りだ。
サッカー競技規則第12条 ファウルと不正行為
競技者が次の反則のいずれかを相手競技者に対して不用意に、無謀に、または過剰な力で行ったと主審が判断した場合、直接フリーキックが与えられる。
- チャージする。
- 飛びかかる。
- ける、またはけろうとする。
- 押す。
- 打つ、または打とうとする(頭突きを含む)。
- タックルする、またはチャレンジする。
- つまずかせる、またはつまずかせようとする。
競技者が次の反則のいずれかを行った場合、直接フリーキックが与えられる。
- ハンドの反則を行う(自分のペナルティーエリア内でゴールキーパーが手や腕でボールに触れた場合を除く)。
- 相手競技者を押さえる。
- 身体的接触によって相手競技者の進行を遅らせる。
- チームリストに記載されている者もしくは審判員をかむ、またはこれらに向かってつばを吐く。
- ボール、相手競技者もしくは審判員に向かって物を投げる、または持った物でボールに触れる。
上記の通り、相手選手を押さえるホールディングの反則については、ファウル判定の際にその行為の不用意さや無謀さ、過剰な力の有無が原則として考慮されないものと定義されている。これに加え、元国際審判員の家本政明氏も2023年のJリーグジャッジリプレイ(※)にて、「相手選手を押さえるホールディングの反則に、(その行為の)程度は関係ない」と解説している。佐藤氏の見解と、競技規則上の分類や家本氏の解説内容が一致しない。これに違和感を覚えた筆者は、佐藤氏に補足説明を求めることにした。
(※)Jリーグの公式YouTubeチャンネルや、ビデオ・オン・デマンドサービス『DAZN』にて配信。家本氏のコメントは【Jリーグジャッジリプレイ2023 #4】より引用。

「ホールディングにも程度や幅がある」
本ブリーフィングの終盤で、佐藤氏は筆者の質問に回答。ホールディングの反則の判定基準に言及した。
ー町田vs川崎Fの事象に関連して、ホールディングの反則についてお伺いします。サッカーのファウルには、その行為の不用意さや無謀さ、過剰な力の有無が主審によって考慮されるものと、そうでないものが競技規則上ございます。ホールディングの反則は後者にあたると思いますが、これを踏まえ改めてご説明をお願いします。
「昔、ホールディングは程度じゃないと(記事等で)書かれました。要は、相手選手を押さえる行為自体がダメなんだと。ただ、今はVAR(ビデオアシスタントレフェリー制度)も導入されていますし、相手選手を押さえると言っても色々な押さえ方がありますよね。相手に触れただけで『押さえた』と言えるのかどうかを考えたときに、(ホールディングにも)程度や幅があると思います」
「町田vs川崎Fの事象で、絶対にファウルをとらないのか(ノーファウル一択なのか)と言われると、そこはレフェリーの裁量の中だと思います。(明らかに相手選手を)引っ張り倒しているのに、それをノーファウルにするのは認められないでしょう。要は、その行為が相手にどれだけインパクトを与えているかが重要なポイントです。ホールディングを試みた選手がどういうタイミングで手を出したのか。攻撃側の選手がどういうタイミングで倒れたのか。ボールがどこにあったのか。攻撃側と守備側選手の前後関係(位置関係)はどうだったか。これらを判断します」
「分からないところ(背後など見えないところ)から相手に押さえられるのと、見えているところから押さえられるのとでは、ホールディングを受ける側のインパクトが変わりますよね。レフェリーはこれらを踏まえて、反則とするかどうかを決めます。ホールディング(相手を押さえる)という行為を、全て反則と見なすわけではありません」
前述の通り、町田vs川崎Fの事象における木村主審のノーファウル判定は、JFA審判委員会によって支持された。今後もJリーグ担当審判員による質の高いレフェリングに期待したい。
(※)本記事の試合時間は、1分以内の秒数を切り上げて表記。