佐々木麟太郎の米国留学をプロスカウトはどう見たか? 「ドラフト有力候補」が下した決断の影響を有識者が考察

2023年11月21日(火)7時0分 ココカラネクスト

花巻東から米大学への留学を決意した佐々木。その挑戦をプロの関係者たちはどう見た?写真:西尾典文

 10月26日に行われたプロ野球ドラフト会議は、プロ入り希望を出せば、指名が確実視されながら志望届を提出しなかった選手も少なくなかった。その筆頭と言えるのはやはり佐々木麟太郎(花巻東)である。

 入学直後から本塁打を量産し、約2年4か月で140本塁打を記録した。高校通算本塁打数はあくまでも参考記録であり、その選手の実力と「イコール」ではないと言われるものの、やはりこれだけのホームランを放つ打力は並の才能ではない。佐々木がプロ志望届を提出していれば、方針を変えていた球団が出ていた可能性もあった。

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 では、実際にプロ側の佐々木の評価はどんなものだったのだろうか。あくまでも仮定の話に過ぎないが、ドラフト会議後に複数のNPB球団スカウトから話を聞いた限りでは、やはり1位指名の可能性は高かったように思われる。ただ、2017年に当時最多となる高校通算111本塁打を放ち、7球団が競合した清宮幸太郎(早稲田実→日本ハム)のようにダントツの一番人気とはならなかったのではないだろうか。

 そう考えられる理由のひとつが、打撃以外のプレーである。一時期、佐々木は捕手にも挑戦したことはあったものの、基本的にこなせるポジションはファーストだけである。近年のプロ野球各球団は、成果を上げる外国人選手の獲得に苦戦しているとはいえ、やはりファーストしか守れないとなると、出場機会は大きく限定される。

 さらに清宮と比べて特に劣っている部分は脚力でもあった。清宮も決して俊足というわけではないが、加速してからのスピードはなかなかのものがあり、ツーベースの二塁到達タイムなどは平均よりも速いくらいだった。

 実際、プロ入り後も外野やサードも違和感なくこなすことができている。一方の佐々木は完全に“鈍足”と言えるレベルであり、将来的にファースト以外のポジションを任せられる可能性は低い。スカウト陣からも指名打者制のないセ・リーグ球団は、特に指名しづらかったのではないかという声が多く聞かれた。

 また、そもそも佐々木のバッティングも懐疑的で、プロ志望だったとしても上位指名ではなかったのではないかという声があったのも事実である。その理由としては、現時点でスイングに無駄な動きが多く、140キロを超える速球への対応が物足りないというものだった。3年夏の甲子園で敗れた仙台育英戦では、本格派投手の前にノーヒットに終わっている。

 高校生だけに課題は多くて当然だが、それを解消できない可能性が高いと判断する意見があっても不思議ではない。とくにバッティングの対応力はプロのスカウト陣でも「判断が最も難しい」と言われている要素であり、突出した脚力や肩の強さがない選手となると、なおさらリスクが高いと判断されても致し方ないことであった。

NPBも敏感に反応。ドラフトの規約を改定

アメリカでの経験を見据え、決断を下した佐々木。その影響は早くもNPBでも出ている。写真:西尾典文

 そんな佐々木自身の将来と、来年以降にドラフトを目指す選手に影響を与えそうなのが、アメリカ留学という選択だった。

 先駆者が全くいないといわけではない。これまでも日本の高校を卒業し、アメリカの大学で野球を続けるという選手は少なくなかった。しかし、いわゆるドラフト候補とされる実力を持った選手はほとんどいなかった。

 ただ、近年は選手たちの選択にも少し変化が見られている。昨年も佐々木ほど高い評価を得ていたわけではないが、智弁和歌山で活躍していた武元一輝がアメリカ留学を決断。ハワイ大へ進学している。また、今年のMLBのドラフト会議では東北高校出身で、オレゴン大でプレーしていた西田陸浮がホワイトソックスから指名されて話題となった。

 NPBのスカウト陣や、アマチュア野球の指導者に話を聞いても、現時点でドラフト候補になるような高校生が続々とアメリカ留学するようになる可能性は低いという意見が多い。ただ、佐々木のような選手がトライしたことで、これまでよりも明確な「選択肢」として検討する選手が出てくるのではないか。

 この流れにNPB側も敏感に反応している。ドラフト会議規約の改定を発表し、従来の「球団が選択した選手と選択会議翌年の3月末日までに選手契約を締結し、支配下選手の公示をすることができなかった場合は、球団はその選手に対する選手契約締結交渉権を喪失する。ただし、日本野球連盟所属選手との選手契約締結交渉権は、選択会議翌年の1月末日までとする」の条文に、「海外の学校に在学中の選手との選手契約締結交渉権は、選択会議翌年の7月末日までとする」という一文が追加された。

 これによって海外の学校でプレーしている選手はNPBのドラフト会議で指名されても、翌年のMLBドラフト会議での指名を待って、入団するかどうかを決めることができるようになった。今年のドラフト会議でもヤクルト育成1位で指名された高橋翔聖(台湾・鶯歌工商)がこれに該当する。

 とにかく野球に打ち込んでトッププロを目指すというのも尊い。だが、海外で語学力を身につけてあらゆる国籍の人々と交流しながら更に野球のレベルアップも果たしてプロも目指すというのも、多様化が進む社会においては、良い選択肢の一つのように思われる。

 ちなみに佐々木が所属する花巻東の野球部からは、学業でも高い成績を残し、東京大へ進学した選手も出ている。そんな彼を取り巻く周囲の環境もアメリカ留学を選んだ一因だろう。

 今は、この先に続く選手のためにも、武元や佐々木が留学先で結果を残し、新たな道を切り拓いていく姿に期待したい。

[文:西尾典文]

【著者プロフィール】

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。

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