動員V字回復の東京ヴェルディ、潜在顧客の掘り起こしが大成功!

2024年12月10日(火)18時0分 FOOTBALL TRIBE

東京ヴェルディ 写真:Getty Images

2024シーズンの明治安田J1リーグは、ヴィッセル神戸の連覇&天皇杯との2冠で幕を閉じた。年間総入場者数が過去最多の1,254万265人を記録。「THE国立DAY」と銘打ち国立競技場を積極的に活用した影響もあるとはいえ、入場者数だけでいえば、完全にコロナの影響を脱したと言えそうだ。


昨2023シーズンからの入場者数増加率では、新スタジアム「ピーススタジアム広島」での初年度だったサンフレッチェ広島(平均25,609人、前年比プラス9,481人)が約1.6倍。J1初昇格ながら最終節まで優勝争いに加わった町田ゼルビア(平均17,610人、前年比プラス10,184人)が約2.3倍とアップ率が目立つ。その中で最大の増加率を誇ったのが、16年ぶりにJ1の舞台に戻ってきた東京ヴェルディだ。


東京Vは、J2だった昨シーズンの平均7,982人から実に約2.6倍となる平均20,976人を集めた。開幕戦の横浜F・マリノス戦を国立競技場で開催し53,026人の大観衆を集めたとはいえ、前年比でなんと平均12,994人増だ。しかも、ホームのリーグ戦では一度も1万人を切ることはなかった(最低記録は3月29日の金曜ナイターで開催された第5節京都サンガ戦の10,060人)。


もちろん、Jリーグ創立当初からの名門クラブでありながら、長らくJ2で戦うことを余儀なくされていたことで離れていたファンが戻ってきたことも理由の1つだろう。さらに助っ人外国人がGKマテウスと、ほぼ試合に絡めなかったMFチアゴ・アウベスのみという“準国産チーム”でありながら、6位という好成績を残したことも大きな要因だ。ここでは東京VのV字回復の裏側を読み解く。




東京ヴェルディ 写真:Getty Images

コロナ禍の2年間だけで赤字は約10億円


2005シーズンJ1で17位に終わり、2006シーズンからJ2を戦ってきた東京V。時を同じくして、主要株主の日本テレビに加えサイバーエージェントが経営に参画するが、サイバー社CEOの藤田晋氏はフロントの内紛状態に嫌気が刺し、わずか2年で株式を売却。その後、2009年には日テレも、新たな設立された持ち株会社「東京ヴェルディホールディングス株式会社」に全株式を譲渡。読売クラブ時代から続いてきた読売グループとの関係が完全に切れた。


しかし、その際にJリーグ理事会で報告された約5億4千万円とされていたスポンサー料が、実際にはその半分ほどしか入金されず、新運営会社は早々に資金ショートの危機に陥る。2010年には、Jリーグの関連会社である「株式会社ジェイリーグエンタープライズ」に株式の約98.8%が譲渡され、旧経営陣は一掃。当時Jリーグ事務局長を務めていた羽生英之氏が社長として派遣され、実質上“Jリーグ傘下”となる。


その後、2010年からスポンサーの1つとしての関係を持っていた福島県に本社を置くゼビオホールディングス株式会社がオーナー企業となるのだが、Jリーグによる“延命措置”がなければ、現在、「東京ヴェルディ」というクラブは存在していなかったかも知れないのだ。


その間、新興宗教ワールドエンドの教祖である深見東州氏が持つ関連会社や、オンラインゲーム会社の株式会社アカツキなど、次々とスポンサーが変わっていく時代が続き、経営的にも成績的にも暗黒期を迎える。


ゼビオの出資によりようやく経営が安定するかと思ったところ、今度はコロナ禍がクラブを襲う。2020年度と2021年度の2年間だけで赤字は約10億円にも上った。東京Vは、プロサッカークラブやその下部組織、女子サッカーのみならず、バレーボールやホッケー、セパタクロー、eスポーツなど、マルチスポーツスクールを展開しているのだが、その活動が全て停止させられたことが響いた形だ。


コロナ禍に苦しんでいることは株主のゼビオも同じで、東京Vの増資に当初否定的な見解を示し、再び運転資金がショートしかかる。しかし最終的にゼビオは救いの手を差し伸べ、新株予約権を行使。東京Vはゼビオの連結子会社となることで、ゼビオホールディングス副社長の中村考昭氏を社長に迎え、新体制で再出発し、同時に羽生社長が退く。


そして、地域密着型総合スポーツクラブとしての草の根活動が、コロナ禍明けに実を結ぶことになる。


東京ヴェルディ サポーター 写真:Getty Images

「リストア」ではなく「リボーン」する道


東京Vの観客の年齢層は、20代後半から40代と幅広く、さらに18〜25歳の割合が高いという特色がある。また、初観戦のきっかけとしては「友達や家族の誘い」が最も多いという調査結果もある。


当然ながらこの世代は、J創立当初のカズ(三浦知良)、ラモス瑠偉武田修宏、北沢豪らを擁し、黄金時代を築いた過去など目にしてはいない。東京Vの新経営陣は、過去の栄光を一旦脇に置き、新たなクラブの方向性を示した上で、「リストア(Restore=元に戻す)」ではなく、「リボーン(Reborn=生まれ変わる)」する道を選び、新たな客層の掘り起こしに成功したのだ。


もちろん今2024シーズンの躍進のみで「古豪復活」と断じることは早計だ。今季の好成績は、城福浩監督の下、24.25歳とJ1で最も若い平均年齢のイレブンを躍動させたことによるものだ。




山見大登 写真:Getty Images

FC東京と同格のライバルと呼ばれるまで


しかし早くも、今季7得点のFW山見大登には、アビスパ福岡から獲得オファーの噂が上がっており、加えて、チーム得点王(10得点)のFW木村勇大、FW染野唯月、MF松村優太といったレンタル選手も多く、来2025シーズンのチーム構成は不透明な東京V。今季の好成績によって、来季は他クラブも警戒して挑んでくるだろう。


さらに言えば、同じ味の素スタジアムをホームスタジアムとするFC東京は、4試合の国立競技場開催もあったとはいえ、平均観客動員32,189人を集め、東京V(平均20,976人)とはまだまだ差がある。順位的には7位に終わったFC東京を上回る6位だったものの、同格のライバルと呼ばれるには、もうひと頑張りが必要だ。


それでも東京Vは、充実した下部組織と、他クラブで出番に恵まれない若手をレンタルで引っ張ってくる「目」を持っている。多少の引き抜きにも動じないほどの選手間競争があるのだ。J1最低クラスのチーム人件費でも十分に戦える秘密は、ここにある。


11月30日のホーム最終戦、第37節川崎フロンターレ戦(味の素スタジアム/4-5で敗戦)では、J2時代には考えられなかったゴール裏席での美しいコレオで選手を迎えた東京Vサポーター。当然ながら、今季以上の成績を求めるだろうが、来季もまずは目の前の現実的な目標であるJ1残留を目指しエレベータークラブから脱した上で、先を行くFC東京に少しでも近付き、「東京ダービー」と呼ばれるにふさわしいクラブになることが先決だろう。

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