【2023年編集後記】スタッフが選ぶ個人的名レース&名シーン/二輪編

2023年12月31日(日)21時6分 AUTOSPORT web

 autosport webでは、2023年シーズンも世界各地のさまざまなモータースポーツ情報やニュースをお届けしてまいりました。2022年に引き続き、『2023年編集後記』と題しまして、各カテゴリーの担当スタッフが選んだ個人的ベストレースをご紹介いたします。今回は、二輪班の編集部員と新米ライターの若手ふたりがお届けします。


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■雪辱を果たした悲願のシーズン初優勝! 日の丸背負い両親と抱き合う佐々木歩夢に感動/MotoGP第20戦バレンシアGP Moto3


 悔しさと憤りに包まれたカタールGP明けの最終戦、第20戦バレンシアGPでの佐々木選手の優勝に心を動かされた方も多かったのではないでしょうか。


 佐々木選手は2023年シーズン、トップ争いに加わるレースも多く、表彰台には上がるものの、優勝にはなかなか手が届かないという悔しいレースが続いていました。


 そして、大きな怪我もなく、順調にポイントを重ね、ランキング2位で後半戦に突入。毎戦、計り知れないほどのプレッシャーを感じているだろうに、シーズン初優勝を狙いながら正々堂々と戦っている姿が印象的でした。残り数戦になってくるとジャウマ・マシア(Leopard Racing)との王座争いも緊迫し、毎戦目を見張るレース展開でした。


 第19戦カタールGPでは予選から佐々木選手がマシア選手より前のグリッドでしたし、レースでも分があると思っていました。いざ始まってみるとマシア選手の序盤の追い上げに驚きつつも、マシア選手とチームメイトによるあの執拗な妨害には『そこまでするのか!』と落胆しました……。


 それにより佐々木選手はチャンピオンを逃す結果となってしまい、映像に映るあの悔しさが滲み出る様子は今でも忘れられません。そんななか迎えた最終戦バレンシアGPで、その悔しさを跳ね除けて見事優勝を飾ったときは、涙が止まりませんでした。


 レース中は何度か順位を下げてしまい、手に汗握る展開でしたが、最後はしっかりと守り切り、チェッカーを受けた瞬間にあのガッツポーズ。そして加藤大治郎選手が使用した日の丸を掲げながらのウイニングランでは、コースサイドで両親と抱き合って喜びを分かち合う姿もあり、今でも目に焼き付いています。


 佐々木選手の王座をあのような形で逃した悔しさは推し量れませんが、最後に本人が一番手にしたかったシーズン初優勝でMoto3ラストレースを締めくくれた嬉しさは画面越しでも伝わってきました。佐々木選手は2024年シーズンMoto2クラスに参戦しますが、さらなる活躍を見せてくれることに期待するファン多いでしょう。マシア選手も同様にMoto2に昇格ですし、直接対決の際はクリーンなレースが見たいですよね。

Moto3:佐々木歩夢(Liqui Moly Husqvarna Intact GP)/2023MotoGP第19戦カタールGP 決勝
Moto3:佐々木歩夢(Liqui Moly Husqvarna Intact GP)/2023MotoGP第20戦バレンシアGP
Moto3:佐々木歩夢(Liqui Moly Husqvarna Intact GP)/2023MotoGP第20戦バレンシアGP
Moto3:佐々木歩夢(Liqui Moly Husqvarna Intact GP)/2023MotoGP第20戦バレンシアGP


■WorldSBK第9戦フランス レース1/王者バウティスタ、最後尾から”完全無双状態”の追い上げに驚愕


 2023年のWorldSBKも、前年度王者のアルバロ・バウティスタ(Aruba.it Racing – Ducati)が強さを見せたシーズンだったというのが率直な意見です。独走での優勝も多く、チャンピオンの貫禄を見せつけたレースが多かったからこそ、第9戦フランスでのレース1は印象に残っています。


 バウティスタはフロントロウからのスタートで、すぐさまトップに踊り出て、ポールポジションスタートのトプラク・ラズガットリオグル(Pata Yamaha Prometeon WorldSBK)とバトルを繰り広げていました。いつもとあまり変わらないレース展開かと思っていましたが、3周目には目を疑うような光景が映し出され、驚きました。


 先頭を走っていたバウティスタが、ヘアピン立ち上がりあたりで失速し、トップ集団から急きょ離脱。『強さを見せていた王者にまさかの事態発生?』とソワソワしながらも、いつにもない展開で少しワクワクを抑えきれませんでした。


 後のコメントで「突然最大パワーが出ないと感じ、エンジンが止まっていることに気づいたけれど、止まってみるとダッシュボードに再始動できると表示されていたんだ」と語っていました。その言葉とおり、バウティスタはその後すぐに再スタートを切りましたが、24番手と最後尾まで順位を下げていました。


 さすがの王者もここまで順位を落とすと厳しいなと思っていたのをよそに、猛攻を続けるバウティスタはライバル達を次々に交わし、いわば”完全無双状態”でした。最終的には表彰台には届かなかったものの、途中のリタイアも含みますが、14台を交わして10位でチェッカーを受けた彼の走りには驚きが隠せませんでした。


 レースにはマシントラブルなど付き物ですが、それを跳ね除けるような走りを展開し、王者の意地を見せたバウティスタには本当に感動しました。最終的には2年連続でのチャンピオンに輝きましたが、そのひとつひとつの積み重ねがあったからこそ、この結果に結びついたのだろうなとも感じました。来年のWorldSBKはラインアップも多く変わり、どのような勢力図になるのか、どんなライダー達が王者バウティスタに牙を向くのか……今からとても楽しみですね!

アルバロ・バウティスタ(Aruba.it Racing – Ducati)/2023年SBK第9戦フランス
アルバロ・バウティスタ(Aruba.it Racing – Ducati)/2023SBK第11戦ポルトガル
2023SBKチャンピオン:アルバロ・バウティスタ(Aruba.it Racing – Ducati)


■チャンピオンが引き寄せた“運”。足を轢かれても大怪我なしのバニャイア/MotoGP第11戦カタルーニャGP


 2023年はEWC全戦の取材に行った筆者(編集部:山口)ですが、名場面をひとつに選ぶことができません。なので、スプリントも含めて全20戦39レース(オーストラリアの日曜日は中止)のMotoGPから第11戦カタルーニャGPを選びました。


 まず、EWCをまとめて振り返るとF.C.C. TSR Honda FranceとYART Yamaha Official EWC Teamが印象的です。第1戦ル・マン24時間のTSRホンダの優勝、第2戦スパ24時間のYARTヤマハの優勝と強さを見せた2チームですが、あとの2戦では展開が変わります。


 第3戦鈴鹿8耐では、TSRホンダはタイヤの問題があったようでペースが上がらず、その後転倒。YARTヤマハはメインスイッチのトラブルでマシンがストップして、カレル・ハニカがマシンを押して西ストレートを登っていた姿がありました。これでチャンピオン争いが最終戦にもつれます。


 第4戦ボルドール24時間ではTSRホンダのエンジンにトラブルが出て、時間をかけて点検しましたが直らずリタイア。チャンピオンがかかる戦いで、走る状態には戻すことは可能だったかもしれませんが、エンジンブローなどで他車を危険に晒すことを避けてリタイア届けを出す判断を下して、泣いているスタッフもいました。また、YARTヤマハは今年は電子制御を変更してスタートもうまくて優勝もあり、2009年以来チャンピオンを獲得したこと。これらすべてを現地で見て取材できたことが忘れられません。

優勝を飾ったF.C.C. TSR Honda France/2023EWC第1戦ル・マン24時間
2023年シーズンのEWC王者に輝いたYAMALUBE YART YAMAHA EWC Official Team/2023EWCボルドール24時間


 本題のMotoGPカタルーニャGPの決勝ですが、1コーナーの5人の転倒。そして2コーナーでのフランセスコ・バニャイアのハイサイドから他車に足を轢かれる姿は本当に見たくないシーンでもありました。今年は1戦にひとりが怪我するほど、負傷者が多かったからです。


 これでホルヘ・マルティンがチャンピオンになる可能性が高くなったかなと思ったら、バニャイアは打撲のみで骨折や大怪我はなし。2連覇に向けての運も持っていると思いますし、ブーツの強度にも驚きました。そして、ポイントのリードを保ったまま最終戦バレンシアGPになります。


 最終戦は取材に行ったのですが、正直優勝は難しいかなと思ったら前車の転倒などがあり、優勝で王者を決めました。実力なのでしょうが、理屈で説明できないのでこのレースでも運を持っていたなと解釈しました。個人的には王者バニャイアの写真(とマルク・マルケスの最後のホンダの姿)をたくさん撮れてすごく満足したシーズンとなりました。


 来年のMotoGPもドゥカティ優勢かもしれませんが、マルク・マルケスがどこまでいくのか。シートがシャッフルされたWorldSBKの展開、そして近年のEWCはヨシムラSERT Motul、TSRホンダ、YARTヤマハが王座を獲得していることからまたまた接戦が見られると思うと楽しみでしかありません。

フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)のクラッシュ後/2023MotoGP第11戦カタルーニャGP 決勝
ハイサイド転倒を喫したフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)/2023MotoGP第11戦カタルーニャGP 決勝
怪我を負ったフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)/2023MotoGP第11戦カタルーニャGP

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