「人の魂を形作る9つの要素」 古代エジプト人がミイラを作った本当の理由とは?

2023年1月7日(土)7時0分 tocana

 人類誕生と同時に、世界各国さまざまな宗教や信仰に多大なる影響を与え、現代に至るまで我々の興味を惹きつけてやまない”魂”。文化として社会が構築される過程において、人々のあいだで多種多様に捉えられ、各地で複雑化した概念として発展を遂げてきたことは疑う余地もない真実である。


 特に古代エジプトでは、人間の魂は9つの要素で構成されていると考えられていたという。彼らは一体どのように魂を解釈していたのだろうか?約5000年前の人々の死生観が伺い知れる記事を再掲する。


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※こちらの記事は2020年1月30日の記事を再掲しています。


 古代エジプトにおいて、人の魂は9つの要素に細分化されていた? 当時の社会の根底にあったユニークな死生観を、海外の研究者が解説していた。


魂とは何か?

 “魂”という存在は、数千年もの長きにわたって人類の興味を惹きつけてやまず、世界中の文化が人の魂、または霊魂といったものを解き明かすために多様性を伴って花開いてきた。


 魂は時に宗教・信仰の根幹をなし、輪廻や転生といった観念的な領域に深く結びついてくる。ゆえに、人の信念を育むうえでも不可欠な存在でありながら、一言では表せないほど複雑な概念と化しているのだ。


 なかでも古代エジプト人たちは、人間の魂を9つの要素に分けるという極めて深い分析を加えていたことが知られている。


 ミイラ、スフィンクス、ピラミッド、黄金のマスク——地理的にも時代的にも大きな隔たりがありながら、古代エジプトの遺産は現代の日本人にも感銘を与え、不思議と親しまれている。


 各地の博物館で開催されるエジプト展などをこれまで以上に楽しむためにも、今回はひとつ、大昔のエジプト人たちの“魂”について学んでみよう。


 


肉体から幽霊まで…… 魂を構成する9つの要素

(1)カート 〜肉体〜


 古代エジプト人は形ある肉体を魂の一部と見なし、これをカート(Khat)と呼んでいた。


 カートは地球上で魂が安らぐための器であり、この考えこそがミイラを作る理由のひとつとなっていた。肉体を保存することは、魂の重要な部分を保存することと同じだった。


(2)バー 〜個性〜


 バー(Ba)とは古代エジプト人が捉えていたもののなかで、今日における“魂”と最も似通った考え方である。


 人の頭を持った鳥の姿で描かれることもあるバーは、生前の間も死後の世界に向けて飛び立ち、より精神的な領域までを行き来するとされていた。


 死後その活動は一段と活発になるが、バーは故人になじみのあった場所にとどまるという性質も有しており、これは幽霊に関する現代の考えとも近い。また、バーは前述のカートと強く結びついており、どこかを訪れていない時や、神々と交信を行っていない時には肉体の中で休まっている。


(3)レン 〜本当の名前〜


 古代エジプト人は出生の際、神々を除く全ての相手に秘密にされる名前、レン(Ren)を与えられた。


 この名前は極めて慎重に扱う必要があり、人格や不朽であるはずの魂までをも破壊してしまう恐れがある。したがって古代エジプト人は生涯にわたって、ニックネームだけを使って交流を持った。


 レンが存在する限り魂は滅びることはないと信じられていたがために、アメンホテプ4世をはじめとする嫌われた王族は、死後に記念碑や文書から名前が消し去られた。


(4)カー 〜命の源〜


 カー(ka)は、生と死をより分ける命の源だ。


 多産の神ヘケト、あるいは妊婦の守護神であるメスケネトが、生まれた肉体にカーを吹き入れる。これによって幼児は命を得ると信じられていたのだ。


 カーを維持するためには食事が必要であるため、死後の世界でも飲食に困らぬよう、粘土で作られた食卓や食物が遺体の近くに用意された。


(5)シュト 〜影〜


 古代エジプト人は、シュト(Shuyet)と呼ばれる影が、人の魂の一部だと捉えていた。多くの異文化と同様に、影が何らかの方法で死とつながっているとも考えていた。


 シュトは冥界の神であるアヌビス神の使いでもあり、暗闇に覆われる人影という姿で描写される。このシュトにもやはり住まうべきところが必要で、葬儀用小物のなかに「影の箱」を用意している人もいた。


(6)イブ 〜心臓〜


 古代エジプト人たちは今日とさほど変わらず、ハートを人間の感情を司るものとみなしていた。イブ(Jb)は思考や意思決定の中枢でもあり、言うまでもなく魂の極めて重大な構成要素でもあった。


 イブという言葉は格言や古代のエジプトの著作に多く登場するが、比喩として用いている英語のそれとは異なり、体内にある心臓そのものを指している。臓器のなかでも特別視された心臓は、入念な防腐処置のうえ、お守りのスカラベを伴って遺体のなかに残された。


(7)アーク 〜不死性〜


 アーク(Akh)はバーとカーが死後に織り成す不可思議かつ絶えることのない英知を指している。葬送の手順が正しく行われた場合のみ、バーとカーは結びつき、この境地に至ることができる。


 アークは人の知性や意思を象徴するもので、神々と星々の間で生き、愛する人の夢の中に現れることもあった。


(8)サフ 〜精神体〜


 アークの異なる側面がサフ(Sahu)である。魂が来世に差しかかるとすぐに、サフはその他の要素から分離すると考えられていた。


 生前に敵対していた人物につきまとったり、愛するものを守ろうとしたりする点は、現代の幽霊にも近い。エジプト中王国の男性が墓前に供えた、亡き妻のサフを鎮めようとする手紙が示しているように、不幸をもたらす「祟り」の一種と捉えることもできる。


(9)シェケム 〜生命エネルギ〜


 シェケム(Sechem)はアークの別の一面だ。詳しくは判明していないが、魂を支える生命エネルギーのひとつとされている。


 埋葬に先立って用意される『死者の書』には、シェケムとは力であり、ホルスとオシリス神が冥界で住まう場所との関係性が記されている。肉体の在り方を支配し、人の運命を左右するものであったかもしれない。


エジプトをエジプトたらしめたもの

 ここまでが、古代エジプト人たちが想定していた“魂”の全容だ。彼らが魂に抱いた関心の高さは、すなわち来世に対する関心の高さでもあり、それが信念となり、死後も肉体——カートを保存し、不自由なく来世に到達したいという願いが、無数のミイラを生み出した。自らの文化の理解を深める原動力だった。


 もちろん、ここに生まれた9つの要素は、遺体の取り扱いのほかにも文化や社会に広く影響を与えた。その影響がなければ、今日に伝わっている魅力的なデザインや工芸品の数々も開発されることはなかった。


 9つの要素は、より物質的な見方をする現代人の立場からは、滑稽に感じられるところもあるだろう。さりながら、私たちが知っている「エジブト」が生まれるうえでは、なくてはならないものだったのだ。


参考:「Ancient Origins」、ほか

tocana

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