古代エジプト人の日常生活は?ファラオの実像、人間とネコのミイラ…高度な文明を誇った古代エジプト3000年の歴史

2025年2月6日(木)6時0分 JBpress

(ライター、構成作家:川岸 徹)

謎に満ちた古代エジプトの歴史と文化を、アメリカ・ブルックリン博物館が所蔵する約150点のコレクションでたどる「ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト」が東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開幕した。


日本でも馴染み深い古代エジプト文明

 5000年以上前にアフリカ北部のナイル川流域で花開いた古代エジプト文明。ピラミッドに代表される巨大な建造物を築き、文字体系を発達させ、組織化された政治形態と社会階層を確立した世界最古の文明の一つだ。だが、古代エジプト文明の実態の多くはいまだ謎に包まれたまま。そんな神秘性が世界中の人々の知的好奇心を掻き立て続けている。

 日本でも古代エジプト文明は古くから人々の関心を集めてきた。幕末の1864(元治元)年に江戸幕府が派遣した遣欧使節団はエジプトに立ち寄り、スフィンクスの前で記念撮影を敢行。ちょんまげ姿の武士27人がスフィンクス前に並ぶ写真は海外でも有名だ。

 1965年には東京国立博物館にて古代エジプトの少年王ツタンカーメンの財宝が公開された。この「ツタンカーメン展」、開催初日の朝9時には悪天候にもかかわらず、徹夜組を含めて1200人の長蛇の列。その後巡回した京都、福岡を合わせた入場者数295万人は、現在も美術展総入場者数歴代1位の記録を守っている。ちなみに歴代2位も古代エジプト。2012年に東京・上野の森美術館と大阪・天保山特設ギャラリーで開催された「ツタンカーメン展〜黄金の秘宝と少年王の真実」は208万人を動員している。


エジプト考古学者・河江肖剰が監修

 2025年1月、東京・六本木、森アーツセンターギャラリーで「ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト」が開幕した。今回の展覧会はアメリカ・ブルックリン博物館の所蔵品を紹介するもの。彫刻、棺、宝飾品、土器、パピルス、さらには人間やネコのミイラ……。多種多様な展示品を通じて、高度な文化とその背景にある人々の営みをひも解いていく。

 展覧会の監修は、いま注目を集める気鋭のエジプト考古学者・河江肖剰(かわえ・ゆきのり)が担当。これまで日本で開催されたエジプト展はファラオ(古代エジプトの王)に焦点を当てたものが多かったが、本展では人々の暮らしにも大きく注目する。

「古代エジプトの人々はどんな暮らしを営み、何を食べ、何を畏れていたのか。夜はベッドで寝ていたのか、それとも床で寝ていたのか。最新の調査結果を交えながら、古代エジプト人の日常生活の様子を解き明かしていきたい」(河江肖剰氏)


古代エジプト人の日常生活は?

 河江氏の言葉通り、展示品には「壺」や「ローテーブル」、「木製の枕」など、日常づかいの品々が充実。ユニークなものでは、学生が文字の練習に使ったと思われる《習書用の蝋板》やヤシの葉と茎でできた《椰子のサンダル》なども。セネトというボードゲームの盤と駒の展示もあり、「古代エジプト人の生活は現代人のそれと、そんなにかけ離れたものではないのかもしれない」との印象をもった。

 会場ではこうした展示品に加えて、古代エジプトの「トリビア」が書かれたパネル展示があり知的好奇心が高まっていく。展覧会に足を運んで実際に見てほしいが、1つだけ例として紹介したい。

「トリビア 30代はもう晩年⁉」。

 末期王朝時代のエジプト人の平均寿命は29〜33歳。女性の寿命は危険をともなう出産のため男性よりさらに短かった。

(詳しい解説)当時は結婚年齢も若く、一説によると女性は10代前半で結婚し、男性の理想の結婚年齢は20歳だった。ミイラや白骨遺体の調査からは、一般庶民よりも上流階級の人々の方が長生きできる傾向にあったと推察されるが、例えばファラオであっても、かの有名なツタンカーメン王は9歳前後で即位し、わずか18歳ほどで亡くなっている。一方でラメセス2世は90歳ほどまで生きたとされ、歴代のファラオたちの中でも稀有な長寿だった。


ファラオ像とミイラも必見

 古代エジプト人の日常生活に興味津々。ただ、やはりエジプト展ではファラオの威光が垣間見える像やレリーフも楽しみたい。展覧会ではその思いもかなえられる。

《王の頭部》は古王国時代・第3王朝後期〜第4王朝初期のもの。学者の見立てでは、フニ王、スネフェル王、あるいはギザの大ピラミッドを建造させたクフ王ではないかとされている。かつては巨大な人物像で、同時代に建造されたピラミッドと同様の壮大さを誇っていたという。

《ひざまつくペピ1世の小像》は第6王朝の3代ファラオ、ペピ1世をかたどった像。ひざまずいた姿が印象的で、王がこうした姿勢をとるのは神に対してだけ。そのため、ペピ1世がハトホル女神にワインを捧げる場面とする説もある。白と黒の石を象嵌した眼が力強い。不思議な生命力を感じさせる作品だ。

 展覧会の最後を飾るのはミイラ。《デメトリオスという名の男性の肖像とミイラ》《神官ホル(ホルス)のカルトナージュとミイラ》の2体の人間のミイラのほか、ネコのミイラも2体が出品されている。古代エジプトでは人間のミイラとともに動物のミイラが埋葬されることが珍しくなく、ネコも多用。ネコは棺で保存されることにより、いつくしみ深く保護的な守り神、女神バステトのバー(魂/化身)に変化すると信じられていた。

 ミイラの展示室では、子音しか表記されないため実際の発音が長く不明だった古代エジプト語の、最新研究による「再現音声」を公開。現存最古の葬送文書ともいわれる『ピラミッド・テキスト』を読む音声が流されている。この音声が、なんともミステリアスな響き。ミイラ展示との相乗効果で、背筋がひんやりするような畏れを感じた。

「ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト」
会期:開催中〜2025年4月6日(日)
会場:森アーツセンターギャラリー(東京・六本木)
開館時間:10:00〜18:00(金・土・祝前日は〜20:00)※入館は閉館の30分前まで
休館日:会期中無休
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

https://egypt-brooklyn.exhibit.jp

筆者:川岸 徹

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