第101回箱根駅伝、エース不在を全員でカバーして総合9位に入った東洋大、鉄紺のタスキをつないだ10人のストーリー

2025年2月1日(土)6時0分 JBpress

(スポーツライター:酒井 政人)


ルーキーふたりが出走した往路は9位

 今年の箱根駅伝は石田洸介と梅崎蓮の4年生エースが欠場した東洋大。チームに不安と動揺が広がっていた。しかし、鉄紺はしぶとかった。急遽のオーダー変更があった往路を9位で乗り越えると、最後は壮絶なシード権争いを勝ち抜き、総合9位でフィニッシュ。見事、20年連続シードを果たしたのだ。出走した10人はどんな思いでレースに臨んだのか。全員の言葉をお伝えする。

 小林亮太(4年)は当初、3年連続となる3区を予定していたが、大会前日に1区での出走が決定。故障上がりながら、2位の駒大と13秒差の区間11位と好走した。

「1区は大きなプレッシャーがありましたが、石田と梅崎は自分たちのために気持ちを押し殺してサポートしてくれたので、走りで応えたいという思いが強かったです。監督からは『集団にしっかりついていくように』と言われていたので、中大・吉居駿恭選手の飛び出しは気にせず、集団のなかで体力を温存しようと考えて走りました。 最低限、集団のなかでタスキを渡せたのは及第点だと思います。ただ、もう少し前で渡せていれば、緒方も余力を持って走れたのではないかと感じています」

 花の2区は当初1区を予定していた緒方澪那斗(3年)が担当。区間20位と苦戦して、19位まで順位を落としたが、1時間08分50秒でまとめている。

「洸介さんと梅崎さんが抜けて、チームの雰囲気が暗くなることもありましたが、走れない4年生の思いも背負って走ろうと気持ちを切り替えました。もともと自分は2区を走りたかったので、楽しみたいという思いが強かったんです。でもいざ走ってみると準備不足もあり、力負けしたのが正直なところです。3区以降の下級生や同期の岸本に負担をかけるかたちになってしまいました」

 3区は復路に起用予定だった迎暖人(1年)が区間8位と好走。ルーキーが3人抜きの活躍を見せて、チームを熱くした。

「自分が3区に入るとわかったのは12月末です。石田さんが付き添いをしてくださり、『楽しんでこいよ』と声をかけてくれました。その言葉で気持ちが楽になったんです。最初の10kmを28分20〜30秒で入るように指示を受けたので、覚悟を決めて、思い切っていきました。前の選手が見える状況だったので、とにかく前を追いかけました。最初の10kmは区間上位でしたが、後半はタイムが伸びなかったので、もう少しスタミナをつけて来季以降に生かしたいです」

 4区の岸本遼太郎(3年)は前回10区で区間賞を獲得した実力者。今回は往路の準エース区間を区間3位で突っ走り、7人抜きを披露した。順位を9位まで押し上げて、シード圏内に突入した。

「迎が積極的な走りをしてくれたおかげで、前の選手が見える位置で走ることができました。自分のところで流れを変えて、最低限、シード圏内まで戻すしかないと思っていました。とにかく前にいる選手を全員抜く気持ちで走ったんです。これまでの大学駅伝は単独で走ることが多かったんですけど、今回は競い合う楽しさを感じました。選手を抜く度に、自分の殻を破ることができて、良い走りができたと思います。 去年と比べても、自分のなかで大きく成長したと感じています」

 5区は山上りを熱望していた宮崎優(1年)が当日変更で入り、1時間12分16秒の区間9位。立大に抜かれたが、東京国際大をかわして9位を死守した。

「出発前はガチガチでしたが、石田さんと梅崎さんから『初めての箱根駅伝、楽しんで来いよ』と声をかけていただき、緊張が和らぎました。11〜12月にしっかり山上りの準備をしてきたこともあり、72分を目標にワクワクした気持ちでスタートを切ったんです。順位を落とす場面もありましたが、最終的に9位でゴールできたのは最低限良かったと思います。レースを振り返ると、71分台も見えていたのに、大きくペースを落とした部分がありました。そこは反省点として、しっかり改善していきたいです」


復路も熾烈なシード権争いを展開

 往路を終えた時点で8位〜14位までが2分01秒差。熾烈なシード権争いのなかで東洋大は復路を9位でスタートした。6区の西村真周(3年)は目標タイムの「58分20秒」に36秒届かなかったが、8位の立大に3秒差まで接近した。

「エースふたりが走れないとわかったときは本当に焦りましたが、気持ちを切り替えて臨みました。3年連続の6区ということで、チームの順位を上げて、勢いをつけたいという思いがありました。序盤の上りは非常に良いペースで走れたんですけど、下りで思うようにペースが上がらず、苦しみました。その結果、区間順位(9位)は良くありませんでしたが、残り3kmは4年生のことを思いながらしっかり走り切ることができたと思います」

 7区は6区のリザーブだった内堀勇(1年)が出走。12位に転落するも区間12位でまとめた。

「自分の希望で6区の準備を進めていましたが、11月に大腿部を疲労骨折。監督から『山下りは負担が大きい』と言われ、その時点で他区間の準備をすることになりました。そのため7区に決まった際は、さほど驚きませんでした。気持ちを切り替え、冷静に臨むことができたと思います。しかし、自分の走りを評価すると60点ほどです。走り込み不足を痛感するレースになり、順位を落としたのが非常に悔しいです。この経験を今後に生かして、頑張りたいと思います」

 一度はシード圏外に弾きだされたが、8区に起用された網本佳悟(3年)が奮起する。区間2位の快走で、東京国際大と帝京大を抜き去り、日体大と同記録の9位タイでタスキをつなげたのだ。

「当初は7、8、10区が候補に挙がっており、10区が有力だったんですけど、前日夜に8区が決まりました。14秒前にスタートした日体大がシード圏内だったので、まずは追いつこうという気持ちでスタートしたんです。ポイントになると考えていた遊行寺の坂は声援が大きく、力をもらいましたし、前の選手が見えると元気がわいて追うことができました。上りが得意ですし、8区は自分の力を最も発揮できるコース。今回は焦らず落ち着いて走れたのが良かったと思います」

 9区は前回2位の活躍を見せた吉田周(4年)。13秒前にいた順大を逆転すると、一度はかわされた帝京大を抜き返して、8位に浮上した。

「直前に7〜12位くらいまでが混戦だという情報が入っていました。3年生以下に何か残せるとしたら、102回大会の出場権だと思っていたので、それだけは絶対に守り抜こうと考えていたんです。自信はありましたし、ひとつでも上位で渡すことを目標に走りました。今回は序盤から速いペースで入るかたちになり、後半は脚が動かなくなりました。梅崎が2年時にマークした1時間08分36秒という目標タイムに届かず、悔しかったです。点数にすると50点ですね」

 10区の薄根大河(2年)は帝京大、順大、東京国際大と競り合うかたちになり、4校の集団が崩れることなくゴールに突き進んだ。残り約3kmでペースを上げて揺さぶると、得意ではないスパート合戦に耐えて、総合9位でフィニッシュ。厳しい戦いのなかでも、東洋大がシード権を死守した。

「シード権争いを想定していたので、かなり緊張していました。無理に突っ込みすぎて後半失速するわけにはいかないと考えて、自重しすぎた部分がありましたね。その結果、意外と早いタイミングで追いつかれてしまい、自分で自分の首を絞めてしまったと感じます。4校がシード権争いを繰り広げることになり、恐怖心との戦いでした。仕掛けどころを決めていたわけではありませんが、誰かがいく前に仕掛けようという気持ちでした。ゴールで梅崎さんと石田さんが迎えてくれて、安堵感を含めていろいろな思いが込み上げてきて最後は涙が止まりませんでした」


“20年連続シード”の重みと未来への展望

 苦難を乗り越えてシード権を獲得した東洋大。継続中としては最多となる“20年連続シード”を達成したことになる。1年生にとっては生まれる前から続いている金字塔だ。

 シード権の重みを理解する4年生は、「先輩方が築いてきた連続シードの伝統にプレッシャーもありましたが、自分たちのやってきたことを信じて、やり遂げることが大切だと考えていました」と小林が言えば、吉田も「石田と梅崎の欠場が決まったときは『シード権は厳しいだろう』という声もありました。でも全員が最後まであきらめず、区間順位が悪くても次の区間で巻き返して、東洋大の強さを見せることができたと思います」と胸を張った。

 チームを引き継ぐことになる3年生は4年生に感謝の気持ちを抱いている。

「直前で洸介さんや梅崎さんが出場できなくなり、一人ひとりが『自分がやらなくては』という気持ちが芽生えました。それがレースにも表れたと思います。自分はブレーキになってしまいましたが、そこからシード権を獲得できたのは全員駅伝でチームの力を発揮できた証だと思います」(緒方)

「20年連続シードは全員が東洋大の伝統をつなぐ責任感を胸に抱き、最後まであきらめずに走った結果だと思います。映像を観ても、全員が苦しいなかでもしっかり粘った。内堀は最後まで前が見える位置で走り切り、周さんもきつそうななかで本当にカッコよく走ってくれました。一人ひとりの粘りがシード権獲得につながったと思います」(西村)

「石田さんや梅崎さんがいないからといってあきらめることはなく、『絶対にやってやろう』という気持ちで走りました。急遽のオーダー変更がありましたが、10人全員が責任感を持って、あきらめずに走ったのが連続シードの要因だと思います。特に小林さんと周さんの走りに感動しましたね」(網本)

 そして準エース区間の4区で7人抜きを演じた岸本は“次なる戦い”を見つめている。

「20年連続シードを確保しましたが、本来ならもっと上位でゴールしたかったと全員が感じていると思います。今回も上位を目指して取り組んできたので、来年はそれを現実のものにしたい。具体的には『3位以内』が目標です。東洋大は常にトップスリーにいたイメージがあるので、その頃の姿に戻していけるように努力していきたいと思います」

 学生駅伝の“トップスリー”へ。2025年シーズン、東洋大の新たな挑戦が始まろうとしている。

筆者:酒井 政人

JBpress

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