上沼恵美子「人生相談には〈私なんか〉と言うひとばかり。家族のため、誰かのために15年も働いたら勲章もの。自分で自分を褒めて、認めてあげて」
2025年2月17日(月)12時29分 婦人公論.jp
「15年も働いたら勲章ですよ。自分で自分を褒めて、認めてあげるべきです」(撮影:下村亮人)
姉妹漫才コンビ「海原千里・万里」での大ブレイク、タレントとしての活躍——そして現在は歌手の顔も持ちつつ、ユーチューブにまで活動の場を広げる上沼恵美子さん。数々の願いを叶えた今、感じることは(構成:社納葉子 撮影:下村亮人)
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<前編よりつづく>
頑張ってきた自分を褒めてあげる
今、『週刊文春』とユーチューブで人生相談のコーナーを持っています。みなさん、悩んではるんですね。びっくりするほど相談がくるんです。共通しているのは「こんな自分」という言葉。家族のため、アホな社長のため、15年、20年と働いてきたのに「私なんか」と言う。
だいたい誰も褒めなさすぎなんです。夫も息子も褒めてくれない。娘なんてもっといやらしいこと言ったりするわけで。子育ても仕事も「できて当たり前」と言われると腹が立ちます。15年も働いたら勲章ですよ。自分で自分を褒めて、認めてあげるべきです。
とはいえ、落ち込んだ時は悪いことしか考えられません。私はそんな時、フェスティバルホールでのコンサートに来たファンの方の顔を頭に思い浮かべます。私はあれだけの人を楽しませたんだ、と。
自分を俯瞰できるようになると、「ああ、ようやってきたなあ」と思えることが絶対に見つかります。
とくに女性は、結婚した時点で人生がいったん終了すると思うんですよ。夫や姑の世話、子育てに人生を捧げて、自分の時間なんてありません。
そしていざ、姑は死んだ、夫は年とった、子どもは帰ってこない、となって「これからは自由ですよ」と言われたら、誰でも戸惑います。
でも焦る必要はなくて、自分の歩幅で前に進んだらいいんです。前に進もうとするから悩むわけで、これも大事な「力」やと思います。
自分の不幸を人に話して、しんどさを和らげるのもいいでしょう。聞かされるほうは、ええ迷惑やけど(笑)。でもほんまは自分でもわかってるんですよ、頑張ってきた自分を。
10年近く前、下の息子がハワイで結婚式を挙げたんです。息子夫婦と両家の親だけで食事をした時、夫のウクレレに合わせて、私がハワイアンウェディングソングを歌いました。そしたら息子が突然、ウワーッと声を上げて泣き出したんです。
その瞬間、これまでのしんどさも疲れも全部流れ去って、「この子を産んで育ててよかった」と心底思いました。学校の成績は悪いわ、先生に呼ばれて怒られるわ、いじめられるわ、入れる高校はないと言われて家庭教師雇うわ……いろいろな苦労がありました。
それでも、母の日に200円ぐらいのペンダントをもらっただけで帳消しになるのが、親というもの。あの日の息子の涙は、最大のご褒美でした。
「無償の愛」ってよく言いますが、私にとってその対象は子どもだけ。見返りのない愛情を注げる存在を与えてもらったわけですから、苦労と言ったら話になりませんよね。人生の一時期を濃密に過ごせたのは、子どものおかげやなあと思っています。
ゴルフや陶芸で得られなかったもの
私の「幸運を引き寄せる習慣」ですか? ビールが美味しくなる《適度な刺激》。これですね。最近、緊張やストレスがかかった後でないとビールを美味しく飲めません。
人生楽しむために、趣味もいろいろ探したんですよ。ゴルフも陶芸もしました。両腕で抱えるほど大きな壺を作ったりもしましたけど、所詮、趣味は趣味。締め切りも使命もないし、完成してもしなくてもいい。最後は先生が上手に仕上げてくれる。
それだとビールが美味しくないんです。人間は不幸な生き物やと思いますよ。
たとえば、変な汗流しながら「文春」の連載原稿を書き上げた後のビールは格別です。東京での仕事もいい刺激になってます。
スタッフと弁当を2つずつ買い込み、緊張から解放された帰りの新幹線でつまみながら飲むビールが、とにかく美味しい。
しかも最近は、東京にゲストではなく司会で行かせていただくこともあり、面白い風向きになってきたなあと思います。ローカル番組でえらい目に遭うたから、「早く東京に出たらよかったわ」とも思いますけど、あの時期があったから今がある。
きっと準備されてたんだと思います。でも、準備は勝手にされませんから、知らない間に自分で舵を取ってたんでしょう。
人生、何が起こるかわかりません。この数年でも、物価は上がる、気候変動で気温も上がる、おまけに平均寿命まで延びて、何のいじめかと思います。
夫も後期高齢者になり、介護保険料を私が払ってあげました。100歳まで心地よく生きるなんて無理やけど、人は意外とタフなんでね。
せっかく100年生かしてもらえるなら、「生きてやるわ」と腹をくくり、時には波に身をゆだねつつ、まだ見ぬ景色を楽しんでいきましょう。