青学大・太田は初マラソンで“世界”にチャレンジ!東京マラソン2025、日本人トップを目指した有力選手たちの戦い
(スポーツライター:酒井 政人)
先頭集団に日本勢で唯一食らいつく
市山翼(サンベルクス)が日本歴代9位となる2時間06分00秒で日本人トップに輝いた東京マラソン2025。結果的に市山には及ばなかったが、果敢なチャレンジを見せた選手がいる。まずは箱根駅伝で大活躍した太田蒼生(青学大)だ。
世界トップクラスの海外選手とともに2時間2分切りのペースが予定されていた先頭集団に日本勢で唯一食らいつく。中間点を1時間01分19秒で通過。海外勢の前に出るシーンもあり、攻めの走りを披露した。
しかし、ハーフを過ぎて苦しくなり、ほどなく遅れだす。28km過ぎに後続集団に追いつかれて、日本人トップから陥落した。その後もズルズルと順位を落として、35kmまでの5kmは18分00秒にペースダウン。36km地点で途中棄権した。レース後、太田は以下のコメントを発表している。
「今回のレースは低体温と低血糖により途中で離脱してしまいましたが、前半から自分のやりたいようにレースを運び、世界のレベルを知れて良い経験ができました。オリンピックで金メダルを獲るために一歩踏み出せたと思います。次はもっと長く世界と戦い、3年後にはオリンピックで勝ちます」
初マラソンは厳しい結果となったが、今回のチャレンジが今後につながることを期待したい。
第2集団に挑戦した赤﨑と池田
パリ五輪6位入賞の赤﨑暁(九電工)と昨年9月のベルリンマラソンで日本歴代2位の2時間05分12秒をマークした池田耀平(Kao)。日本勢のなかで注目を浴びていたふたりは2時間3分台ペースの第2集団にチャレンジした。
中間点を1時間02分08秒、30kmを1時間28分36秒ほどで通過。日本記録の更新も狙えるペースだったが、終盤は厳しい戦いが待っていた。
赤﨑が31.8kmで苦しくなり、ペースダウン。浦野雄平(富士通)、市山翼(サンベルクス)らにかわされた。一方の池田は35kmまでは順調そうに見えたが、40kmまでの5kmに15分45秒を要して、39.8kmで市山に逆転を許した。池田が2時間06分48秒の12位、赤﨑は2時間07分48秒の17位に終わった。
レース後、多くの記者に囲まれたふたり。ともに今回の結果を悔しがった。
赤﨑はJMCシリーズⅣのチャンピオンを目指すなら第3集団でレースを進めて、日本人トップを狙う戦略もあったが、「僕が目指しているのは代表になることではなく、日本記録を出すこと」と第2集団での勝負を選んだ。中間点までは順調だったが、少し起伏のある25kmまでにペースが上がったことで、「ダメージ」が来て、30km以降に大きく失速した。
「ハーフはキロ3分ベースまでしか突っ込んだことがなかったので、そういう意味では未知の世界がいい経験になったと思います。改善は簡単ではありませんが、これからひとつずつ積み上げていきたい。日本記録という目標はずっと持っているので、どこかでそれを更新したいと思っています」
ベルリンマラソンでは落ちてきた選手を拾うかたちで6位に入った池田だが、今回は「第2集団で行くことは最初から決めていました」と高速レースに挑んだ。序盤は「いまいちハマらない感じがあった」が、徐々にリズムをつかんでいく。30km過ぎで日本人トップに立ったときは「行けるかな」という感触もあったが、マラソンは甘くなかった。
「攻めた結果だと思うんですけど、全体のなかで力を出し切れなかった。序盤から力を使っている感じがあり、それが終盤に響いたのかなと思います。最後まで押し通せるような力が今の僕にはなかったですね。練習は順調にできていましたが、注目していただいているなかでも結果を残せないと、日本代表として世界と勝負していくことはできないと感じました」
井上が4年ぶりの自己新で日本人2位
今大会は2017年のロンドン世界陸上に出場した井上大仁(三菱重工)が存在感を見せた。市山らと第3集団でレースを進めると、ペースメーカーが離脱した30km以降は、「見えるところで追いかけていけば追いつける」と、赤﨑、浦野、池田を逆転。日本人2位となる12位で2時間06分14秒をマークした。
キャリア3度目の2時間6分台は4年ぶりの自己ベスト。しかし、井上自身の評価は微妙なものだった。
「東京世界陸上代表をつかむには近藤のタイムを抜くのは必須でした。勝ってもないですし、目標達成はできていないので、スッキリはしていないです。久ぶりのマラソンだったので、着実に走りたいと思っていました。その反面、前のグループで勝負したい気持ちもあったんです。今やるべきことを見定めながらレースを進めましたが、ハーフくらいからきつくて、市山君につくのが精一杯でした……」
井上は大阪マラソンで日本人トップに輝いた後輩、近藤亮太の2時間05分39秒を意識。「2時間4〜5分台」を狙っていただけに、本人は納得していなかった。
それでも「半歩くらいは前進できたかな」と話す。2018年の東京で日本歴代4位(当時)の2時間06分54秒、2021年のびわ湖毎日で2時間06分47秒、今年の東京で2時間06分17秒。32歳になった井上は、「競技をやっている以上は世界に挑戦し続けたい」と今後も上を目指していく。
筆者:酒井 政人