夫婦の貯金額8万円を経験したウェルスナビCEOが<どん底>から得たこととは「投資に絶対や、わかりやすい正解はない」
2025年3月24日(月)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
「人生100年時代」といわれるなか、老後のお金が心配な方も多いのではないでしょうか。40万人以上の資産運用に関わってきたお金のプロ、ウェルスナビ代表取締役CEOの柴山和久さんは、「何歳までお金が必要になるのかは誰にもわからないからこそ、資産運用を続けて、お金の心配を減らすことが重要」と話します。そこで今回は、柴山さんの著書『新しいNISA投資の思考法 お金の悩みから解放される 正しい「長期・積立・分散」のはじめ方』より一部を抜粋してお届けします。
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1杯のコーヒーを夫婦で分け合う日々
2010年の夏、私は妻と、東京・四谷三丁目のスターバックスにいました。当時の私は、フランスのビジネススクールを卒業し、帰国して仕事を探していました。
家庭を優先するために財務省を退職した後、ビジネススクールを卒業すれば仕事が見つかるだろう、と考えていました。しかし、現実は思っていたよりも厳しく、応募しては、書類選考や面接で落ち続ける日々を過ごしていました。
夫婦ともに節約志向だったため、ビジネススクールに入る前には、財務省時代の年収の2年分ぐらいのお金を貯めていました。しかし、留学に相当のお金がかかったうえに、帰国してからも仕事が見つからない状況が続いています。そのため、貯金はどんどん減っていました。
経済的に追い詰められていく中でも、妻と二人でスターバックスに毎日のように通っていました。そして、1杯のドリップコーヒーを頼んで、夫婦でシェアして飲んでいました。
なぜ一人1杯のコーヒーを買う余裕がないのにスターバックスに通っていたかというと、世界中に店舗のあるスターバックスの店内に入ると、世界とつながっている感覚になれたからです。当時、ときどき面接に呼ばれるぐらいしか行くところのなかった私にとって、世界とつながっている感覚を保つことが、とても重要でした。
「自分は世の中から必要とされていないのでは」どん底の経験から得たこと
いつものように、妻と窓際のカウンター席に並んで座り、ドリップコーヒーを分け合って飲んでいたときのことです。窓の向こう側で、ベビーカーに乗せられた犬が、飼い主からマンゴーフラペチーノを食べさせてもらっている様子が見えました。
その光景を見て、私は衝撃を受けました。無職でお金もなく、1杯のコーヒーを二人で分け合っている自分と、マンゴーフラペチーノを食べさせてもらっている犬と、どちらが世の中から必要とされているのか、考えてしまったのです。
「不採用通知ばかり受け取って、誰からも必要とされていない自分は、犬以下なのではないか」。そのような思いを抱きました。
しかし、あとから振り返ってみると、自分は犬以下だと感じたこのときの経験は、私にとってむしろ大きな心の支えとなっています。「この先、どんなことがあっても、あのときほど惨めな思いをすることはないはずだ」。どん底とも言える経験をしたからこそ、そのように考えられるようになりました。
その5年後、私は自分で会社を立ち上げることになりますが、スターバックスでの出来事があったからこそ、リスクを取って起業することができたと思っています。
実感した日米の金融格差
スターバックス事件の翌月、私はコンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーから内定を得ることができました。そのとき、夫婦の貯金は、8万円まで減っていました。経済的にもどん底に近づいており、間一髪のタイミングで就職することができました。
マッキンゼーではさまざまなプロジェクトにかかわりました。その中でも、ニューヨーク・オフィスで、10兆円規模の資産運用を行う機関投資家のサポートをした経験が、いまにつながっています。マッキンゼーでの仕事で得た気づきは、「資産が多いか少ないかにかかわらず、資産運用では同じアルゴリズム(数式)が使える」ということでした。
そして、同じ時期に実感したのが、日米における個人の金融格差です。当時、アメリカ人の妻の両親から、「自分たちの資産運用の中身も見てほしい」と頼まれ、見せてもらいました。
出てきたのは、数億円の残高が記された、プライベート・バンクの運用報告書でした。プライベート・バンクは、数億円以上の資産を持っている人しか利用できない、富裕層向けの金融機関です。
妻の両親は、普通の会社員夫婦です。近所の安いスーパーで買い物をして、外食もほとんどせず、車も普通の日本車に乗っていました。質素な暮らしぶりから、プライベート・バンクに資産を預けているとは、まったく想像していませんでした。
資産運用を行ってきたかどうかだけで……
なぜ、普通の生活をしている妻の両親が、多くの資産を築くことができたのか。その答えは、若いときから資産運用をコツコツと続けてきたことにありました。
妻の両親に特別な金融知識があったわけではありません。また、もともと豊かだったわけではなく、学生の時は、就職のための面接で着るスーツを買うお金がなく、借金をしたそうです。
(写真提供:Photo AC)
しかし、就職後に職場の福利厚生で、富裕層向けのおまかせの資産運用が利用でき、20年以上をかけて資産を築いたということでした。プライベート・バンクから見れば、将来の顧客を青田買いできたことになり、企業にとっては従業員の福利厚生になり、まさに「三方良し」です。
運用報告書を見ながら、日本人の自分の両親のことが頭に浮かびました。私の両親は、妻の両親と同じような年齢、学歴、職歴ですが、持っている資産の額には10倍ほどの開きがありました。
私の両親も、退職金で住宅ローンを完済し、年金を受け取れるので、日本の中では恵まれた層に入ると思いますが、バブル崩壊以降は基本的に預貯金だけで資産を持っていました。資産運用を行ってきたかどうかだけで、日米の両親の間には、10倍もの金融格差が生まれたことになります。
もしも、日本人の両親も、プライベート・バンクが提供するような富裕層向けの資産運用を行っていたとしたら。そして、両親のように、日本で普通に働いている人たちが使える資産運用サービスが普及していたとしたら。
日本全体は、10倍とまでは言わないまでもいまよりももっと豊かになっていたのではないか。そのような考えを持つようになりました。
投資に「絶対」や、わかりやすい正解はない
日本では、長期投資の成功体験が共有されておらず、「投資は怖い」と感じている人が多いと思います。一方で、数年前に「老後2000万円問題」が大きく注目されたことをきっかけに、資産運用への興味を持つ人が増えたのではないでしょうか。
実際に、この数年で、投資に関する情報は世の中に増えたように感じます。YouTubeの動画が人気を集めたり、投資の方法をわかりやすく解説する本がベストセラーになったりしています。
注意しなければならないのは、投資に「絶対」や、わかりやすい正解はないということです。また、投資で見返りを得るにはリスクが付き物です。
しかし、投資に関する情報の中には、シンプルでわかりやすい表現を追求するあまり、リスクの存在が隠されていたり、見えにくくなっていることがあります。そのことに気づかず、高すぎるリスクを取ってしまい、投資に失敗する事例も繰り返し起きています。
※本稿は、『新しいNISA投資の思考法 お金の悩みから解放される 正しい「長期・積立・分散」のはじめ方』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。