金澤翔子さんの母・泰子さん 東京五輪の聖火ランナーの練習で実感した「親子の世代交代」。か弱かった娘が、背筋を伸ばして追い越して行く姿を見て

2025年3月25日(火)12時30分 婦人公論.jp


(c)ND CHOW

2025年3月26日放送の『徹子の部屋』に出演する、書家・金澤翔子さんと母・金澤泰子さん。翔子さんはニューヨークで個展を開くなど世界的に活躍する傍ら、2024年12月には喫茶店「アトリエ翔子喫茶」をオープンし、活動の幅を広げています。今回は、母・泰子さんが翔子さんとの日々を綴った『いまを愛して生きてゆく ダウン症の書家、心を照らす魂の筆跡』から、一部を抜粋してお届けします。

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親子の世代交代


翔子が聖火ランナーに選ばれたので、マラソンの練習に久々に多摩川土手に二人で行った。小さい頃は駆け足が下手で、私に激励され泣きべそをかきながら、この道をよちよちと後ろから付いて来ていた。

けれど今は、ダイエットをしているので逞(たくま)しく、私をひきはなし駆け抜けていく。よちよちと可愛かったのが、つい先日のように思う。

か弱かった娘は背筋を伸ばして私を追い越して行く。私はもう追い付けない。いつの間にか私は駆け足ができなくなっていた。だんだん離れて行く娘。

歳月が経ったのだ。老いてフェードアウトする私、晴れの人生の舞台にフェードインする娘。夕暮れ刻(どき)の細く長い一本道で、親子の世代交代のドラマが粛々と展開している。母さんを待たなくていい。遥か遠くまで行きなさい。

真剣に咲く


翔子がカメラを持ち「愛してる愛してる」と呪文を唱えながら花を撮る。その傍で私は花の姿に驚いた。どの花も生きるために懸命に趣向を凝らし咲いている。路傍(ろぼう)の小さな花でさえ、か弱くはなくしっかり自分を主張している。

花々は決して静かにひっそり咲いているのではない。もっと強烈に、もっと真剣に咲いている。人間を喜ばせるためなどではなく、自身の命のために咲いている。見事にその意思が見える。


『いまを愛して生きてゆく ダウン症の書家、心を照らす魂の筆跡』(書:金澤翔子 文:金澤泰子/PHP研究所)

どの花も原型を間違えることなく正しく咲く。芽吹き花が咲き、実をつけ枯れ落ち生涯を終える。そして来年も咲く。

翔子が枯花に「また春に会おうね」と声を掛けている。来年もまた花が咲く仕組みを知っている。「花はどんな絡繰りで、小さな種から芽吹き、全てを全うして終わるんだろうねえ、翔ちゃん」。

命の愛おしさ


散歩中にたくさんの小さな蟻が、忙しそうに食べ物を運ぶ姿を発見し、翔子は熱心に観察を始めた。蟻にお菓子をあげたいと思い立ち、散歩に行く時は細かいお菓子の粉を持っていく。

蟻は自分の体よりも数倍大きなお菓子の粉を高々と頭上に掲げて、脇目も振らずに、懸命に運ぶ。蟻にしてみれば、高い山、深い谷ありの険しい道に違いないのに、たくさん運ぶ。

翔子は蟻がこのお菓子を蟻の家(巣)に持って行って家族の皆と楽しいパーティーを開くと夢想している。ほんの少しのお菓子の粉で翔子は蟻の家族の日々を思い、お菓子撒きは欠かせなくなっている。

こんな小さな蟻も家族があり懸命に生きているという命のあり方を見つけた。微小な生き物にもリアルに家族があると知り、命の愛おしさを感受した。

※本稿は、『いまを愛して生きてゆく ダウン症の書家、心を照らす魂の筆跡』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

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