インディーゲームレーベル「ヨカゼ」のコンサートで心揺さぶる音楽を堪能してきた
2025年3月30日(日)18時35分 マイナビニュース
2025年3月22日に京都国際マンガミュージアムにて、インディーゲームレーベル「ヨカゼ」による1日限定のコンサート・展示イベント「ヨカゼミュージアム」が開催された。
グラフィックや音楽、テキスト、ゲーム性など、さまざまな要素を折り合わせ、思わず世界に浸ってしまうような情緒ある作品を多数ラインアップするヨカゼ。ゲーム開発やパブリッシングを行う株式会社room6が運営元であり、昨年8月には渋谷PARCOにてヨカゼの初の展覧会「ヨカゼの公園」を開催して話題を呼んだ。
「ヨカゼミュージアム」では、「ヨカゼの公園」の展示の一部を会場内に再現。ヨカゼのタイトルの試遊コーナーや原画・設定資料の展示を楽しめるほか、室内楽アレンジのオリジナルコンサートが初開催された。
日頃からヨカゼのゲーム音楽を作業用BGMにしている筆者にとって、初のコンサートは絶対に見逃せない、いや、聴き逃せない重要なイベントだ。早々にチケットを予約し、いざ東京から京都へ! 現地で堪能し尽くした、「ヨカゼミュージアム」の様子をお届けしたい。
展示室「ヨカゼのこれから」で貴重な資料やゲームの試遊を楽しむ
会場となった京都国際マンガミュージアムは、昭和初期に建造された龍池小学校の校舎を改修して創られた施設だ。「ヨカゼミュージアム」の展示室「ヨカゼのこれから」も、校内の教室を活用して展開された。
展示室には、「ヨカゼの公園」で公開されたゲーム作品の貴重な設定資料がずらりと並ぶ。一角には「ヨカゼの公園」で異彩を放っていたブラウン管テレビの試遊コーナーが再現され、来場者は公園でピクニックを楽しむかのように座りながらヨカゼのゲームを満喫していた。
そのほか、展示には『ピギーワン SUPER SPARK』のタイトルロゴのネオンサインや、『アンリアルライフ』のパッケージ版に特典として封入されていた特製描き下ろし漫画『ある放課後の因果論』の原画が新たに加わり、ヨカゼファンにはたまらない空間に仕上がっていた。
室内楽ならではの「音」に感動! 制作秘話も飛び出したオリジナルコンサート
展示を楽しんだあとは、待ちに待ったヨカゼのオリジナルコンサート「Yokaze Acoustic Concert -Music directed by Daisuke SHIIBA-」が開演。コンサートのチケットは当日券を含め完売で、会場の1F多目的映像ホールには150人近い観客が集まった。
会場中央に設置されたスクリーンにオープニングムービーが映し出され、いよいよコンサートがスタート。映像番組「ヨカゼナイト」でおなじみのバーチャルシンガー・ヰ世界情緒さんのナレーションと共に、演奏予定のゲーム作品の映像が流れる。
オープニングムービーが終わると、司会進行を務めるホテルアンテルーム京都のマネージャー・豊川泰行氏が登場した。豊川氏の落ち着いた雰囲気に、『アンリアルライフ』に登場するホテル「くじら」の「支配人」を思い出したファンも多かったのではないだろうか。
豊川氏の紹介で、今回のコンサートのアレンジとディレクションを担当した作曲家の椎葉大翼氏が登場。「これまでの、そして、これからのヨカゼの音楽をたっぷりとご堪能いただける特別なコンサートです。どうぞリラックスして、最後までごゆっくりとお楽しみください」と、観客に向け挨拶をした。
プログラムの最初を飾るのは、椎葉氏が楽曲を作成した『From_.』だ。ゲームクリエイターチーム「第九惑星」が開発した『From_.』は、水に囲まれた世界「水の国」で働く郵便局員が住人たちの手紙を届け、「想い」をつなげていく横スクロール型のアドベンチャーゲーム。青と黒の2色だけで構成されたピクセルアートの世界に、ピアノ組曲が折り込まれた情緒あふれる作品だ。
ゲームをプレイしているときからピアノの美しい旋律に心奪われていたが、生演奏で聴くとさらに趣深く味わいが増す。ピアニストの四條智恵氏が奏でる音の緩急や大小が繊細に響き、「手紙で想いを届ける」という『From_.』の物語性をよりドラマチックに演出していた。
続く『アンリアルライフ』は、失った記憶を取り戻すために少女「ハル」とAI信号機の「195」が夜の街を旅する謎解きアドベンチャーゲーム。演奏前には、『アンリアルライフ』の楽曲を含む全てを制作したゲーム開発者であり、ヨカゼのブランドマネージャーでもあるhako 生活氏が登場し、椎葉氏とトークを交わした。
「制作当時は作曲の知識がほぼなく、音楽制作のソフトウェアを使いながらピアノやオーケストラの楽曲を初めて作った」と語るhako 生活氏。今回の室内楽アレンジについては、「人の手で演奏されたことで、自分が作った楽曲に命が吹き込まれた」と感動を伝えた。
また、コンサートで披露された2曲はhako 生活氏いわく、特に思い入れの強い楽曲で、タイトル画面で流れる「Unreal March」は「青」、作中の重要シーンで流れる「Crazy Eyes」は「赤」をそれぞれ表現しているのだと教えてくれた。
ここからの演奏にはフルート、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが加わり、五重奏が始まる。か細く震えるフルートと弦楽器の音が儚さを、鋭いピアノの音色が緊迫感を表現し、ゲームの世界観にさらなる拡がりを持たせていた。『アンリアルライフ』を象徴する対の2曲に、観客からは大きな拍手が送られた。
コンサート前半の最後には、宇宙服を着た少年が「明かり」を頼りに夜の世界を巡る謎解きアドベンチャーゲーム『Recolit』の演奏が披露された。作曲を務めたサウンドクリエイターのつよみー氏は制作当時を振り返り、「ピクセルアートのゲームなので最初はファミコンの音を使って作曲していたが、より『Recolit』の世界観にふさわしい音を探し求め、柔らかく優しい音色で曲を仕上げた」と語った。
室内楽アレンジされた楽曲については、「弦を弾いて音を出す“ピチカート”の音が効果的に使われているので、ぜひ耳を傾けてほしい」と、観客に向けメッセージを伝えた。つよみー氏の言葉の通り、ピチカートの細やかな音が『Recolit』の「こっそり夜の街を徘徊するワクワク感」を見事に表現していた。
また、つよみー氏が特に感情を込めて作ったという楽曲「明かり -Light-」の演奏では、それぞれの楽器の優しい音色が響き渡り、『Recolit』の物語に込められた切なさや懐かしさが会場中にあふれる。作中のシーンを思い出し、筆者も思わず目頭が熱くなった。
20分間の休憩を挟み、コンサートの後半は『狐ト蛙ノ旅 アダシノ島のコトロ鬼』の演奏からスタートした。『狐ト蛙ノ旅』は、不思議な日本を舞台にした3Dアドベンチャーゲーム。作中の楽曲も「はないちもんめ」や「かごめかごめ」といった日本の童歌を思わせるメロディーが魅力であり、作曲を務めた音楽プロデューサーの剱すきま氏からは編曲にあたってテンポや音の強弱など細やかに提案があったのだそう。
演奏を聴くと『狐ト蛙ノ旅』の“和”の世界に一気に引き込まれ、同じ楽器編成でもここまで雰囲気が変わるものなのかと驚いた。短い一曲ながら、鳥居や屋台の提灯、ネオンの看板に彩られたアダシノ島に迷い込んだような気持ちになる。
ゲームは現在開発中であり、2025年の発売を予定している。今回のコンサートで披露された楽曲はYouTubeで公開中のPVに使われているので、ぜひ視聴してみてほしい。
プログラムの最後を飾るのは、椎葉氏が作曲を務めた『World for Two』。突然の大災害により生物が死に絶えた世界で、唯一生き残った博士がアンドロイドと共に生命の創造に挑むアドベンチャーゲームだ。
作中に登場するステージは、研究所、沼地、森林、砂丘、遺跡の5つがあり、音楽はそれぞれの風景と四季をイメージして作られている。加えて、ゲーム内では朝・昼・晩の時間の流れがあり、椎葉氏は「一曲で朝焼け、昼下がり、夕焼け、夜空を表現できるような、どの場面にも合う音楽を目指して作った」と語った。
また、タイトル画面や研究所、エンディングで流れる「夢想曲 -Daydreaming-」は、今回のコンサートではピアノソロからカルテット(四重奏)、クインテット(五重奏)へと移り変わる特別編成で披露された。少しずつ音の重なりが増えていくのを聴いていると、滅びゆく世界に新たな命が宿っていくのを感じた。博士とアンドロイドが紡ぐ未来が明るく豊かな世界だと、そう信じさせてくれる力が音楽にあった。
コンサートの最後には一曲分の撮影タイムが設けられ、観客は演奏風景を動画や写真に残し、思い出を持ち帰ることができた。そして、アンコールでは冒頭で流れたオープニングムービーの楽曲「Yokaze Museum 2025 Opening」が披露され、会場はその日一番の大きな拍手に包まれた。
「ヨカゼのゲームには、いつも音楽がそばにあります。これからもヨカゼの音楽を披露する場を設けたいと思いますので、ぜひまた見守りに来てください」と、椎葉氏から最後の挨拶があり、コンサートは終演した。
ゲーム音楽をこよなく愛する筆者は、これまでに何度かオーケストラコンサートに参加した経験があるが、室内楽のコンサートは今回が初めて。どんな雰囲気になるのだろうと予想がつかなかったが、いざ体感すると、室内楽ならではの音の近さや繊細さ、温もりに癒され、ヨカゼが織りなす世界をより一層好きになった。ゲーム音楽の新たな魅力と可能性を感じる、素晴らしいイベントだった。
期間限定で予約販売を実施! ヨカゼの新作オリジナルグッズ
「ヨカゼミュージアム」の会場には、ヨカゼのオリジナルグッズやゲームのサウンドトラックを販売する物販コーナーが設置され、長い列ができていた。
「ヨカゼミュージアム」から加わった新作グッズは以下の通り。
・アルバムCD『Yokaze Acoustic Collection vol.1』:2,500円
・ヨカゼの測量野帳:800円
・ヨカゼのインク(5色セット):4,000円
・ヨカゼのクリアミニボトル(300ml):3,000円
・ヨカゼのドリップコーヒー(5個入り):1,500円
・【会場限定】ヨカゼのクッキー缶:4,000円
ヨカゼの新作グッズのなかで、筆者が絶対に手に入れたい!と思っていたのが、「ヨカゼのクッキー缶」と「アルバムCD『Yokaze Acoustic Collection vol.1』」だ。
会場限定で発売された「ヨカゼのクッキー缶」は、京都のcafe marbleが一つひとつ手作りしたこだわりの一品。ヨカゼの世界観にインスピレーションを受けた、さまざまな味のクッキーがぎゅっと詰まっている。ヨカゼのドリップコーヒーとあわせれば、ゲームのお供に最適だ。
「アルバムCD『Yokaze Acoustic Collection vol.1』」は、コンサート開催にあわせてアコースティックアレンジしたものを含む全17曲を収録。ゲーム内で流れる原曲とは違った雰囲気を味わえる珠玉のアルバムだ。
「vol.1」とナンバリングされているということは、続きがあるに違いない!と、筆者は固く信じている。今回収録された楽曲のほかにも、ヨカゼのタイトルには名曲が数多くあるので、今後のコンサート開催やアルバム発売を期待したい。
新作グッズを含め、イベント開催後にはONLINE PARCOにて予約販売を実施している。期間は、2025年4月20日23時59分まで。惜しくも現地への参加が叶わなかった方や、コンサートの余韻に浸りたい方は、ぜひこの機会にヨカゼのオリジナルグッズや記念のアルバムCDを手に入れてほしい。