ほぼ【対症療法】の西洋医学に対し【体の治す力】を回復する漢方薬。医師「西洋医学がお手上げの<咳>も、適した漢方薬なら一服で…」

2025年4月19日(土)6時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

漢方薬に対して「飲んでみたが効かなかった」「エビデンスがないしあやしい」というイメージをお持ちの方もいらっしゃることでしょう。しかし「漢方薬にはエビデンスが数多く存在し、漢方薬の効き方が一定でない背景には、腸内環境の乱れが深く関わっている可能性がある」と指摘するのは、サイエンス漢方処方研究会の理事長で医師の井齋偉矢先生。そこで今回は井齋先生の著書『漢方で腸から体を整える』から一部抜粋・再編集してお届けします。

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漢方薬は問題が生じている根本に働く


従来の西洋医学は、ほとんどが対症療法に終始しています。一般的な風邪(感冒)に対しても、あたかも「熱を下げたら風邪が治る」「咳を止めれば気管支炎が治る」と考えているかのように、解熱剤や咳止めの薬が処方されます。

ですが、熱を下げたり咳を止めたりしても、大もとの問題が解決しているわけではありません。西洋医学では大もとを治す手段がないのです。せいぜい抗菌薬を使って原因になる細菌を減らしていきますが、それも一時的な火消し効果でしかなく、根本的な治癒にはつながりません。場合によっては、抗菌薬で腸内細菌がやられることによって腸内環境が乱れて免疫力が低下し、症状が悪化する可能性も出てきます。

これに対して漢方薬は一日で熱を下げます。一服で咳を止めます。なぜなら、体の大もとの治す力を回復させるからです。人間は誰でも「治す力」をもともと持っています。漢方薬は、それを引き出すことによって薬効を発揮するのです。

つい最近も、原因不明の咳に悩まされて苦しんでいたという人の話を聞きました。3か所の医療機関へ行き、咳止めの薬を処方してもらったものの、まったく症状が改善されなかったと言います。それでも「時間とともに少しずつ症状が鎮まって、1か月ほどで治りました」とのこと。「もっと早く先生に相談して、漢方薬の効果を知っていれば、あんなに苦しい思いをしなくて済んだのに」と悔しがっておられました。

確かに、日本呼吸器学会の咳のガイドラインには、咳止めは効かない薬の代表のように書いてあります。西洋医学は咳に対してお手あげということです。

従来の薬理学ではあり得ない考え方


一方、漢方薬は咳の状態によっていろいろな処方があります。その人に適した漢方薬が見つかれば、一服でピタリと咳が治まります。そこが漢方医の腕の見せどころで、一服で治らないときはどんどん別の薬に変えていきます。

新薬は脳の「咳中枢(脳にある、咳を出させるスイッチ)」を抑えるだけで、肺で起こっている炎症には効きません。事件は現場で起こっているわけですから、肺の炎症を鎮められなければ咳は止まりません。漢方薬は肺のほうに働いて、その炎症をさっと抑えてしまうのです。

前記した咳に苦しんでいた方は、効かない新薬を飲み続けて1か月苦しんだものの、最終的には治った。これも体に治す力が備わっていることを示しています。

仮にこの人が漢方薬を飲んだとしても、結局のところ治すのは自分に備わっている力です。それでも、漢方薬を飲むことでもっと早く咳を鎮めることはできたでしょう。

漢方薬が治すのではなく、それを飲んだ人が変わる。こうした漢方薬の働きについて、薬理学の先生方にお話しすると、「今までそんなふうに考えたことがなかった」「頭が真っ白になった」とよく驚かれます。そのくらい従来の薬理学ではあり得ない考え方なのです。

西洋医学も体の「治す力」に注目しはじめた


体が薬に反応して治す力が引き出されるという考え方は、決して突拍子もない発想ではありません。西洋医学でも近年は、体の“治す力”に注目しています。最新のがんの治療薬(免疫チェックポイント阻害薬)であるオプジーボ(一般名:ニボルマブ)は、そうした視点から開発された薬です。

従来の抗がん剤は、がん細胞を直接攻撃するタイプのものが主流でした。そうした抗がん剤は、がん細胞を死滅させる力は強いものの、周囲の健康な細胞まで弱らせたり死滅させたりしてしまいます。


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

そこには免疫に関わる細胞も含まれるため、体の「治す力」まで衰えさせてしまうことが難点で、よほど体の「治す力」が強い人でないと、がんで亡くなる前に抗がん剤の副作用で命を落とすケースも出てきます。

一方、オプジーボは、従来の抗がん剤のようにがん細胞を直接攻撃するのではなく、私たちの体に備わった「治す力」、すなわちがんに対する免疫力を高めることによってがんの排除を促すタイプの薬です。

新薬は1種類の成分でできているので……


ただし、新薬は1種類の成分でできているので、どうしても体への働きかけが単調になります。オプジーボにしても、特定の免疫細胞をターゲットにした薬なので、そのターゲットの働きを高めるうえでは優れていますが、体の根本から「治す力」を引き出すところまではなかなかいきません。実際にオプジーボのがんの奏効率は2割前後で、がんの種類や患者さんによって効果に差があることが知られています。

漢方薬の場合は、微量の多成分が一斉に体内に入り、免疫のシステムや炎症のシステムなど、全身のあらゆるシステムを一気に引き上げ、体全体の「治す力」を底上げする方向に働きます。漢方薬によって引き上げられる重要なシステムの一つが、腸管免疫です。

漢方薬の働きにより、免疫細胞の7割が集結している腸の働きが活性化すれば、オプジーボのようながん免疫療法の効果を底上げすることができると考えられます。両者を併用することで、鬼に金棒の効果が期待できるわけです。

※本稿は、『漢方で腸から体を整える』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

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