緩和ケア医師が患者の立場になって気づいたこと。「我慢しないで、すぐ呼んでくださいね」医師として言っていたセリフをそのまま言われてしまい…

2025年4月23日(水)12時30分 婦人公論.jp


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

2023年に甲状腺がんと診断された永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長の廣橋猛先生は「がんの緩和ケア医療を専門とし、医師として患者に正面から向き合ってきたが、いざ自身ががん患者になると戸惑うことが多くあった」と話します。そこで今回は、廣橋先生の著書『緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方』から一部を抜粋し、がん患者やその家族が<がんと付き合っていくために必要な知識>をお届けします。甲状腺を切除する手術は無事に終了。術後の入院生活を送る中で、廣橋先生が感じたことは——

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傷が痛むも病院側に遠慮してしまう


手術当日、深夜になりました。

翌朝までベッドから起き上がることはできません。点滴に繋がれ、首元にはドレーンが入り、そして尿を出すための管も留置されたままです。

少しの水を飲むことはできましたが、ほとんど身動きできないので、腰が痛くなってきます。夜勤の看護師さんが、抱き枕を持ってきてくれて、楽な姿勢に整えてくれました。こういった細かい配慮が患者には本当に助かります。

しかし、寝ようと思っていると、また傷の痛みが強くなってきました。ロピオンは投与できる時間の間隔が決まっているため、次に投与してよい時間まで1時間近くありました。看護師さんも心配してくれます。

「先生に相談してみましょうか?」

「いえ、大丈夫ですよ。あと1時間くらいなら待てます」

わざわざ深夜に先生に連絡してもらうのは、迷惑をかけてしまうと思って遠慮したのです。緩和ケア医としての私だったら、そんな我慢しちゃダメだと患者さんに言っているのにです。

患者が医師に気を遣ってしまうという行為を自分自身で体現してしまいました。

傷の痛みが続いて地獄のようにつらかった深夜


1時間が経過し、ロピオンの点滴で痛みは落ち着きました。ようやく眠れるかなと思っても、昼間ずっと寝ていたので、あまり眠くなりません。暇つぶしにスマートフォンでもいじろうかと思っても、ずっと同じ姿勢でいるために、また腰が痛くなってきました。

さまざまな管が入っていて、自分で好き勝手動いて抜けてしまっては一大事です。

ナースコールして、看護師さんに身体の向きをまた整えてもらえばいいのですが、さきほどロピオンを点滴してしまったばかり。すぐに呼ぶのも悪いなと思って躊躇してしまいます。結局、次に看護師さんが見回りにくるときまで、目を瞑って待つことにしました。

ベッドから起き上がることを許されるのは朝6時。それまでの間、腰が痛くて動きたくても動けず、眠ることもできません。ベッドの上で寝たきりの患者さんは、これだけつらいのかと感じながら、朝がくるのをじっと待ちわびる、まるで地獄のような夜の体験でした。

歩いたり、食事したりすることができるようになる


術後2日目の朝6時に看護師さんは尿を出すための管を抜いてくれ、無事にベッドから起き上がって、部屋のなかを歩くことができるようになりました。

朝ご飯にはお粥をゆっくりとではありましたが、食べることができました。咽せることもなく、心配していた反回神経麻痺も生じていません。この日、午前中には点滴や首元のドレーンも抜けて、どんどん身軽になっていきました。

ただ、傷の痛みはぶり返してきます。今日から、薬を飲むことが許されていたため、ロピオンに代わる痛み止めとして、ロキソプロフェンという一般的な痛み止めを飲むことになりました。

午前中に一度もらったのですが、この薬もそんなに長くは効きません。事実、夕方には効果が切れて、また痛くなってきたのです。

緩和ケア医でも患者になると痛みを我慢してしまう


ただ、夕方というのは病棟にとって微妙な時間です。おそらく、日勤と夜勤の看護師さんの切り替わりでバタバタしています。そのため、看護師さんが回ってくるまで1時間ほど我慢して待ってしまいました。夕食を持ってきてくれたときに、そういえば……みたいな雰囲気を作って、ロキソプロフェンをもらったのです。

夕食と同時にロキソプロフェンを飲んだら、しっかりと効いてきて楽になりましたが、就寝時間を過ぎて深夜には、また痛みが強くなってきました。それはそうです。夕方に飲んだのですから、深夜には効き目は切れてきます。


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

このまま眠れないかなと粘ってみたのですが、痛みで眠れそうもありません。1時間ほど迷いに迷って、ついにナースコールを押しました。それを知った看護師さんは、私のことをたしなめるようにこう言います。

「我慢しないで、すぐ呼んでくださいね」

普段、緩和ケア医として私が患者さんたちに言っているセリフです。そのまま私も言われてしまいました。緩和ケア医でも、自分自身が患者になったら、痛みは我慢してしまっていました。いくら我慢しないように言われても、それでも我慢してしまうのが患者なのです。

痛みが出たときの対処方法


それからは行動を改めて、私が患者さんたちにいつも教えている方法を実践するようにしました。

・痛み出したら、すぐ痛み止めを使用する

・あらかじめ痛みが予想されるときは、前もって予防で使う

看護師さんにも相談して、ロキソプロフェンをあらかじめ1錠置いてもらうようにしました。遠慮せずに、自分のタイミングで飲めるようにするためです。また、寝る前には痛くなくても飲むことにしました。夜中に痛くて起きることを予防するためです。すると、これ以降は痛みにそこまで困ることなく、入院生活を乗り切ることができました。上記の方法はぜひ他のがん患者さんにも実践してもらいたいことのひとつです。

※本稿は、『緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方』(あさ出版)の一部を再編集したものです。

婦人公論.jp

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