がん患者になった医師が教える、がんと診断されたときに知っておいてほしいこと。<緩和ケアは終末期の患者が受けるもの>は誤解。困りごとの相談をすぐにできる場所がある

2025年4月24日(木)12時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

2023年に甲状腺がんと診断された永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長の廣橋猛先生は「がんの緩和ケア医療を専門とし、医師として患者に正面から向き合ってきたが、いざ自身ががん患者になると戸惑うことが多くあった」と話します。そこで今回は、廣橋先生の著書『緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方』から一部を抜粋し、がん患者やその家族が<がんと付き合っていくために必要な知識>をお届けします。

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一般のがん患者さんは戸惑うことが多いはず


甲状腺がんと診断され、入院予約をするために患者支援センターを訪れたときのことです。ここで、困りごとへのなんらかの配慮があるかなと期待していたのですが、残念ながら「ほかに、なにか困っていることはありませんか」の一言で終わってしまいました。

私はがん治療に関わる医師として、自分の困りごとがなんなのかを自分で整理できていました。うまく情報を集めて、理解ある同僚たちのおかげで、自分で解決できる目処が立ちました。だから、特にこれで問題はありません。

ですが、がんと診断されたばかりの患者さんは、自分自身がなにに困っているかも、うまく心のなかで整理できないでいます。治療に向けて、これからなにをすべきかわからないままの方もいるでしょう。

これまでがんと無縁だった一般の患者さんにとっては、自分で適切な情報にあたり、周囲の人たちに相談していくこと自体が非常に難しいことなのです。

しかし、本来は、どうしたらよいかわからないという困りごとでさえ、患者さんから声を上げなくても、自然に病院で支援を受けられるべきです。

皆さんに知っておいてほしいこと


緩和ケアは終末期の患者さんが受けるもの、強い痛みのある人が受けるものといった誤解をされることがあります。がんと診断されたばかりの患者さんにとっては、無縁のものと感じているかもしれません。

でも、実際は違います。がん患者さんのさまざまなつらさ、困りごとに対して関わるのが緩和ケアです。つまり、病気の時期は関係ないのです。診断されたばかりの困りごとも、自分一人で悩むのではなく、病院で解決するために緩和ケアを受けるべきです。

がんと診断され治療に臨まれる患者さんが抱える困りごとは、ざっと考えても以下のようなものがあると考えられます。

・治療の効果や予後に関すること

・病気や治療に伴う痛み、その他の症状

・がん治療(手術、化学療法、放射線療法など)による副作用

・職場や学校での長期間の休暇

・がんと診断されたことによる気持ちのつらさ

・家族への心配とその将来に対する不安(子供の世話、配偶者への影響など)

・医療費の支払い、失業や休業に伴う収入減少

・治療や病気に伴う身体的変化(外見の変化、体重の増減など)

・がん治療が日常生活へ与える影響

・社会的なサポートを受ける方法

・食事や運動の工夫

・死に関わること

これら、すべてが緩和ケアの対象です。

がんと診断されたときこそ緩和ケアのサポートが必要


例えば、私が知っている方のなかに大腸がんと診断された50代の女性がいました。彼女は健康診断で便に血が混じっていることをきっかけに病気がわかり、手術を受ける必要がありました。

さらに手術で治せる可能性が高いとは言われたものの、もしかしたら人工肛門を造る必要があるかもしれないこと、術後に抗がん剤治療を行う必要があることの説明を医師から受けました。


(写真提供:Photo AC)

彼女は長く勤め上げた会社の経理を担当していて、数年後に退職を考えてはいたものの、仕事の整理や引き継ぎはなにもできていませんでした。

人工肛門になって、抗がん剤をしながら仕事はできるのだろうか、身体への負担はどれくらいなのだろうか、医療費はどれくらいかかるのだろうか、会社の人たちになんて言おうか。彼女の頭のなかは「どうしたらよいのだろう」で埋め尽くされてしまいました。こんな彼女に必要なのが緩和ケアなのです。

ただ、病気が進行したときには、自然と医療者から緩和ケアを勧められるかもしれませんが、がんと診断されたばかりには、積極的に病院から緩和ケアを名指しで勧められることは少ないのが現実です。

診断時であっても、がん患者さんはさまざまな困りごとを抱えていますが、どうしてもそこに着目できる医療者は多くはないのです。患者さんたちも、誰とも相談できないまま、なんとかやり過ごしてしまっています。

その診断時からの緩和ケアに関して、最初の担い手となるのが、がん診療連携拠点病院に設置されている、がん相談支援センターです。がん治療を行なっている大きな病院には、必ずこの窓口が設置されていますので、ぜひ探してみてください。

がん相談支援センター


がん相談支援センターには、がんに詳しい専門の看護師や、医療相談員が配置されています。ここで相談する内容はどんな些細なことでも構いません。身体のこと以外でも、気持ちのこと、仕事やお金のこと、先々への不安、なんでも気がかりになっていることをお話しできます。

必要であれば、がん治療を担当している主治医だけでなく、緩和ケアの専門家、院外の医療者などとも連携して、対策を練ってくれるでしょう。なにか具体的な相談の内容が決まっていればもちろんよいですが、なにに困っているかわからないけれど漠然と不安で話を聞いてもらうというだけでも構いません。そこまで大袈裟にしたくない場合でも、気軽に相談相手になってもらうこともできます。

そもそも緩和ケアは私のような緩和ケア医による診察がすべてではありません。つらいことや困っていることに対するサポート全般が緩和ケアです。がん相談支援センターには専門的な相談ができる看護師や医療ソーシャルワーカーがいますので、困りごとの内容によって適切な人が相談に乗ってくださいます。主治医に確認した方がよい場合は、間を取り持ってくれますし、緩和ケア医による診察が望ましい場合は案内してくれるはずです。

また、がん相談支援センターでなくても、治療で関わる場所で医療者が相談に乗ってくれることも、立派な緩和ケアです。入院される方は、その病棟の看護師。外来で抗がん剤治療を受ける方は、点滴を担当する看護師や薬剤師。そういった人たちに相談してみるところから緩和ケアを始めてみてもよいでしょう。

ぜひ、このがん相談支援センターから緩和ケア、困りごとの相談をしてください。

※本稿は、『緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方』(あさ出版)の一部を再編集したものです。

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