がんになった緩和ケア医師が伝える、再発の恐怖と一生向き合う心構え「病気のことばかり考えていると、心まで病人に。前向きなことに焦点を当てるには…」
2025年4月25日(金)12時30分 婦人公論.jp
(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
2023年に甲状腺がんと診断された永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長の廣橋猛先生は「がんの緩和ケア医療を専門とし、医師として患者に正面から向き合ってきたが、いざ自身ががん患者になると戸惑うことが多くあった」と話します。そこで今回は、廣橋先生の著書『緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方』から一部を抜粋し、がん患者やその家族が<がんと付き合っていくために必要な知識>をお届けします。
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心まで「病人」になってはいけない
私の甲状腺がんは周辺のリンパ節まで転移して拡がってはいたものの、一応手術ですべて取り切って、あとはホルモン剤を飲みながらの経過観察となりました。
病気の特徴から数十年単位で再発する可能性は否定できません。頸部の周囲にあるリンパ節や肺に転移することがあると言われています。
肺などに転移してしまった場合、手術で治すことはできないでしょう。抗がん剤治療になると思われます。がんの種類によっても異なりますが、一般的には他の臓器に転移してしまうということは、がん細胞が血流にのって散らばってしまったことを意味します。
転移した場所だけ手術しても、すべてを消滅させたことにはならないのです。そうなってくると、余命についても意識しなくてはならなくなります。
実際に、自分と同じ病気の患者さんを、緩和ケア医の立場で何人も診てきました。だいたいが転移・再発を経験されている方です。
どのような病気の方でも、分け隔てなく全力投球で必要な緩和ケアを行っているつもりですが、どうしても同じ病気の方の場合は、将来の自分の姿なのではないか。そのような想いが心の底で少しだけ芽生えてきてしまいます。
この恐怖と私は数十年間、いや一生向き合っていくのです。
皆さんに知っておいてほしいこと
がん患者にとって、再発・進行との恐怖から完全に逃れることは難しいでしょう。ただ、ずっと怯えて過ごすのも、あまりよいことではありません。人は病気のことばかり考えていると、本当に心まで病人になってしまいます。
がんと一生付き合っていくことを考えたとき、もし心まで病人になってしまったら、一生あなたはその状態で過ごすことになります。
しかし、病人である前に、あなたは一人の人間です。
人間としてどう生きたいのか。
なにをして生きていきたいのか。
こういったことを自問自答しながら、やりたいことをして、生活を送る人間であってほしいのです。
心の持ちようについて
私が患者さんたちに勧めている、心の持ちようについてお話しします。だいたいがん治療において医師の診察は定期的にあるはずです。検査があるかもしれません。
1カ月おきの方もいれば、3カ月おき、半年おきの方もいるでしょう。その診察のタイミングでは、病気と向き合うことになります。
(写真提供:Photo AC)
診察で特に問題なしということになれば、次の診察のタイミングまで自分なりの目標を立ててください。医師からなにか指示があった場合、それをどう生活に活かすか考えてみてください。
例えば私で言えばできるだけカルシウムを摂取するなどがあります。小腹が空いたときにはカルシウムが多いとされる小魚を意識的に食べてみたり、朝ごはんの買い物でカルシウムが多く含まれていると表示されている牛乳やヨーグルトを選んでみたり、ちょっとしたことでできることを取り入れます。ただ、毎日義務的にするとストレスになるので、あくまで思いついたときだけにしています。
特に指示がない場合は、病気に関係のない生活のこと、やりたいことでも構いません。次までにもっと体力がつくように、こういったことを生活に取り入れるといった、なんでもよいのでなにか目標を決めるとよいでしょう。
再発の恐怖と向き合うために
目標を決めたら、次の診察までの間はその目標を達成できるように、前向きなことに焦点を当てて過ごすのです。
このような考え方をすることによって、「再発したらどうしよう……」という後ろ向きではなく、前向きな生活に焦点を当てて過ごせることができます。
再発や進行の恐怖と向き合っているのはあなただけではありません。
がん患者さんは皆一緒です。
あなたは一人ではありません。
このことも、きっと力になってくれるはずです。
※本稿は、『緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
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