皮膚のゾンビ細胞に3タイプ、老化を促すものと治癒を助けるものがあることが判明
2025年4月30日(水)21時0分 カラパイア
皮膚にある線維芽細胞の核(緑)とFアクチン(赤)/CREDITJude Phillip, Johns Hopkins University
私たちはリアルにゾンビ化する。正確に言うなら人体を覆う皮膚細胞がゾンビ化する。
歳を取れば、体の細胞も老化し、やがて死ぬ。ところが皮膚の細胞は、もはや機能を果たせなくなっても、完全に死滅することがない。それゆえに「ゾンビ細胞」と呼ばれている。
これまで、ゾンビ細胞は1種と思われてきたが、実は3つの異なるタイプに分かれることが、アメリカ、ジョンズ・ホプキンス大学の研究で明らかとなった。
老化を促し、炎症や病気の原因になるもの以外に、免疫系が傷を治癒する手助けをするものもあるという。同じ老化した皮膚細胞でも役割が違うのだ。
皮膚のゾンビ細胞は1種類ではなかった
加齢とともに、体内にじわじわと増えていくゾンビ細胞は正式には「老化細胞」と呼ばれる。
細胞分裂が停止し、代謝活動を続けるが、正常な細胞のような増殖能力を失ったにもかかわらず生き残り、炎症やさまざまな病気を引き起こす悪者として知られている。
だが、皮膚のゾンビ細胞には種類があり、中には私たちの体を守る役割を果たしているものが存在することが明らかとなった。
今回、研究チームは20〜90歳の50人の健康なドナーから皮膚細胞を採取し、DNAを意図的に傷つけることで老化細胞を誘導した。
細胞にはもともと、コラーゲンなどの組織構造を作る「線維芽細胞[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%9A%E7%B6%AD%E8%8A%BD%E7%B4%B0%E8%83%9E]」が多く含まれている。
これらを対象に、特殊な染色と最新の画像解析技術を駆使して、細胞の形や大きさ、内部構造など87項目もの特徴を詳しく調べた。
線維芽細胞 slika uzeta sa engl. vikipedije / WIKI commons[https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Fibroblast.jpg]
3種類の皮膚ゾンビ細胞を確認
その結果、線維芽細胞には11種類の形態があり、そのうち3種類が老化特有のゾンビ細胞であることが判明した。
そこで研究チームは、各タイプの皮膚細胞を培養し、既存の老化細胞除去薬を投与してみることにした。するとどの細胞も一様に排除されることはなく、タイプごとに違う反応が見られたという。
たとえば、ダサチニブとケルセチンを併用すると、高齢者に特に多い「C10」というゾンビ細胞にはあまり効かなかったのに対し、「C7」というタイプには非常に効果的だった。
これまで、皮膚の老化細胞が、免疫細胞や筋肉細胞といった他の細胞の老化とは違うことは知られていた。
だが今回、皮膚細胞の中だけでも、老化のプロセスに違いがあることが明らかになったのだ。
「これまで皮膚の老化細胞は一括りにされがちでしたが、実際には老化後に複数の道筋をたどることがわかりました」と、研究を率いたジョンズ・ホプキンス大学のジュード・フィリップ助教授は語っている。
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危険なゾンビ細胞だけを狙い撃ちする
どのタイプのゾンビ細胞が有益で、どれが有害なのか? 詳しいことは今のところ不明だ。
だが同じ老化した皮膚細胞であってもタイプによって薬の効きが違うということは、有害なものだけを狙い撃ちできる可能性を示している。
これはたとえば皮膚がんの治療に役立つかもしれない。
現在、がん細胞を老化させてゾンビ化させることで、腫瘍が無秩序に増殖することを防ぐという治療法が研究されている。
この治療法の問題点の1つは、老化した細胞が残ってしまうことだ。こうした老化細胞が蓄積すると、何かのタイミングで患者の免疫の力が低下したとき、炎症を引き起こす恐れがある。
そこで治療後に有害な老化細胞のみを殺す薬を投与すれば、よりいっそう患者の負担を軽くできることだろう。
研究チームは今後、各タイプの組織を用いて、さまざまな皮膚の病気や老化に関連する病気にどのように反応するのか調べる予定であるそうだ。
この研究は『Science Advances[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ads1875]』(2025年4月25日付)に掲載された。
References: Are ‘zombie’ skin cells harmful or helpful? The answer may be in their shapes[https://www.eurekalert.org/news-releases/1081615]