熱で電気を生むセメントを開発、建物が自家発電する時代がやってくるかもしれない

2025年5月2日(金)19時0分 カラパイア


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 もしも建物や道路が自ら電気を生み出し、蓄えることができたらどんなに便利だろう。そんなSFのような未来が、ついに現実に近づいてきた。


 中国の研究チームが開発したのは、発電と蓄電が同時にできる新しいセメント素材だ。植物の茎の構造からヒントを得て設計されており、これまでにない高い発電効率を実現しているという。


セメント発電のカギはイオンの移動


 セメントはただ建物や道路を形作るだけでなく、発電する性質がある。


 その発電パワーの源は、温度差によってセメント内部のイオンが移動することだ。


 このとき、セメントの細かい隙間のばらつきによって、陽イオンと陰イオンが水溶液内を移動する速さに違いが出る。これが電荷の偏りを生じさせ電圧が生じるのだ。これを「イオン熱電効果」という。


 だが普通のセメントが発生する電気は、実用に耐えるものではない。セメントの内部がぎっしり詰まってるために、イオンがうまく移動できないからだ。



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植物の幹をヒントに開発された多層構造セメント


 中国・東南大のチョウ・ヤン教授が率いる研究チームは、この問題を解決するため、樹木の幹の構造をヒントに、セメント層とポリビニルアルコール・ハイドロゲル層を交互に重ねた多層構造を考案した。


 この多層構造では、ハイドロゲル層が水酸化物イオン(OH⁻)のいわば高速経路として機能する。一方、セメント層とハイドロゲル層が接する面は、カルシウムイオン(Ca²⁺)と強く結合しつつ、OH⁻とはあまり結合しないようになっている。


 この構造が特定のイオンだけ加速させ、移動スピードの差を大きくすることで、イオン熱電効果を高めるのだ。


 ゼーベック係数(熱から電気を生み出す効率を示す指標)は−40.5 mV/K、性能指数(ZT)は6.6×10⁻²。これは従来のセメント系熱電材料に比べて、それぞれ10倍、6倍もの性能にあたる



image credit:Science Bulletin[https://www.sciencedirect.com/journal/science-bulletin]


建物が発電機になる時代へ


 この発電セメントの真価は、発電するだけでなく「電気を蓄える」こともできる点にある。多層構造により、機械的な強度とエネルギー蓄積能力の両立が可能になっている。


 つまり、この素材で作られたビルや橋、道路は、自らの構造の中で発電・蓄電を行い、センサーや通信機器などを稼働させることができるのだ。



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 たとえば、現在の街灯は外部電源によって点灯しているが、将来はその街灯が建てられた歩道や道路が自ら電気を供給するようになるかもしれない。


 あるいは橋そのものが、自身の健康状態(亀裂や腐食など)をモニタリングするセンサーを稼働させる、といった応用も期待されている。


 新開発の発電セメントは、そんな未来のスマートシティの姿を垣間見せてくれる画期的な発明だ。


 研究チームは、「この生体模倣構造と界面の選択的イオン制御の仕組みによって、高性能な熱電材料の新たな設計指針が示された」と述べている。


 この研究は『Science Bulletin[https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2095927325002816]』(2025年3月17日付)に掲載された


References: Bio-inspired thermoelectric cement with interfacial selective immobilization towards self-powered buildings[https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2095927325002816] / New cement turns heat into electricity, could help buildings generate their own power[https://interestingengineering.com/innovation/nature-inspired-cement-generates-electricity]

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