死別を経験した人に「泣いていると、旦那さんも成仏できない」「頼れる息子さんがいるから、子どもがいない人より安心」はNG。「何か力になれることはある?」などさりげない言葉でOK
2025年5月3日(土)12時29分 婦人公論.jp
(写真:stock.adobe.com)
死別による悲しみは十人十色。癒えるのにかかる時間にも個人差があります。時間とともに変化する心の状態を知り、悲しみに向き合うヒントを試してみませんか(構成:内山靖子 イラスト:いだりえ)
* * * * * * *
<前編よりつづく>
心と向き合うために「話す」「書く」「整理する」
最初にお伝えしたように、「悲嘆」の体験は人それぞれです。長年の介護の末に見送ったのか、交通事故などの突然死によって大切な人を失ったのかでも、反応は大きく異なります。
つまり、「悲嘆」の感情を抱えながらも生活していくためには、なぜこんなにつらいのかと自分の心と向き合う必要があるのです。
その手段のひとつとして、「話す」ことがあります。自分の「悲嘆」を言語化し、同じような苦しみを抱えている人と体験を共有することに大きな意味があるからです。
私が関わっている保健所や葬儀社などでは、ご遺族同士が自分の体験を語り合うグループワークを行っています。こうした遺族会に参加しなくても、同じ境遇の人が身近にいれば、その人と話すのもいいでしょう。
話す人がいない、もしくは話したくないという人は、「悲しみの1行日記」を書いたり、故人の思い出の品を整理する「思い出ボックス」を作るワークも効果的です。
1行日記を書いていると、自分の悲しみを言語化できるだけでなく、日々の生活の中で、時間とともに自分の気持ちがどのように変化しているかにも気づけます。
「思い出ボックス」のいいところは、箱に蓋をすることで、気持ちの切り替えができること。箱の中に入れた亡き人の思い出の品は、もちろん好きなときに中を見たり取り出したりして構いません。このボックスを作ることは、大切な記憶を思い返し、亡き人への感情を整理するきっかけになるでしょう。
また、亡き人への手紙を書くこともひとつの方法です。私が長を務める研究センターでは、「亡き人との往復書簡を書く」ワークに力を入れています。
生前、故人に伝えられなかった自分の気持ちを手紙にしたため、それに対して故人はどんな返信をくれるか想像して書くことで、故人への入り混じった感情を解きほぐしてくれる効果があるのです。
<心を整理するためのワーク2>『思い出ボックス』
身近な人の「悲嘆」に寄り添うには
大切な人を亡くす体験は自分の身に起こるだけでなく、身近な友人や知人にもしばしば起こります。そんなときにどう接したらいいのか、誰もが悩んでしまうでしょう。
私からのアドバイスは、これまでどおり普通に接するのが一番、ということです。「支えてあげなきゃ」と、あえて意識する必要はありません。「最近、眠れてる?」「何か力になれることはある?」といった、さりげない言葉だけでいいと思います。
ときには言葉はなくても、ただそばにいて、同じ時間を過ごすだけでもいいかもしれません。安易な励ましや一方的な助言をするのではなく、相手の気持ちに寄り添う姿勢が大切です。
とはいえ、深い悲しみにいる間は、連絡したり、「食事に行かない?」と誘ったりしても、無視されてしまうかもしれません。そんなときは「今はそっとしておいてほしいんだな」と理解して、少し時間を置いてから、あらためて連絡をとるようにしてください。
(写真:stock.adobe.com)
また、相手と話をするときは、NGワードに気をつけましょう。
「いつまでも泣いていると、旦那さんも成仏できないわよ」というようなセリフをよく耳にしますが、それは何の根拠もないうえに、ご遺族は自分のせいで故人が悲しんでいるのだと責めてしまいます。
病気で配偶者を亡くした人に、「突然死した人に比べたら、きちんとお別れできてよかったじゃない」「頼れる息子さんがいるから、子どもがいない人より安心よ」などといった、「悲しみの比較」になってしまう言葉もよくありません。
そもそも、「悲嘆」は言葉でなんとかできるものではないのです。ただ、自分を気遣ってくれる誰かがいて、「ひとりじゃない」と感じられることが、死別の悲しみを抱えた人には大きな救いになるでしょう。