ウイスキーのトリビア 第10回 『竹鶴』トリビア10選!“日本のウイスキーの父”の名を継ぐ語りたくなるストーリー
2025年5月6日(火)11時0分 マイナビニュース
ニッカウヰスキーが誇る『竹鶴』ブランドは、「日本のウイスキーの父」と呼ばれる創業者・竹鶴政孝の名を冠したウイスキーです。ただの銘柄を超えて、日本のウイスキー史そのものを体現する存在といっても過言ではありません。その深い味わいの背後には、知られざる物語があります。今回は、誰かに語りたくなる『竹鶴』の面白トリビア10選を紹介しましょう。
■飲みの席が盛り上がる!『竹鶴』驚きのトリビア10選
【トリビア1】ウイスキーの父、竹鶴正孝を支えたリタ
日本のウイスキーの父と称される竹鶴正孝は、スコットランドの技術を日本に持ち帰り、国産ウイスキーの礎を築いた先駆者です。1894年、広島県で生まれた彼は、摂津酒造所で働いた後、スコットランド留学を経て、山崎蒸溜所(現・サントリー)を建設。その後に独立し、1934年に北海道の余市町でウイスキー蒸溜所の建設に着手しました。
竹鶴正孝の人生において特筆すべきは、スコットランド人の妻、ジェシー・ロベールタ・カウン(愛称:リタ)との愛の物語です。1918年、グラスゴーで出会った二人は、当時の国際結婚への偏見を乗り越え、互いの国の文化的差異を受け入れながら生涯を共にしました。リタは北海道の厳しい環境にも臆することなく適応し、夫の事業を陰ながら支え続けたのです。
リタは竹鶴の仕事を理解するだけでなく、地域社会にも溶け込み、日本語を学び、着物を着こなし、茶道も習得しました。一方で、自宅ではスコットランドの文化も大切にし、竹鶴に西洋の生活様式を教えました。二人の絆はウイスキー造りにも反映され、リタの繊細な味覚は製品開発に貢献したと言われています。
【トリビア2】なぜ「ピュアモルト」? ニッカ独自のこだわり
『竹鶴』のラベルには「PURE MALT(ピュアモルト)」と記されています。これは、複数の蒸溜所のモルト原酒だけをブレンドしたウイスキーに対するニッカウヰスキー独自の表現です(国際的にはヴァッテッドモルトと呼ばれます)。
単一蒸溜所の原酒から造られる「シングルモルト」とも、グレーンウイスキーを混ぜる「ブレンデッドウイスキー」とも違う、「モルト100%のブレンド」であることを強調する、ニッカならではのこだわりの呼称なのです。
『竹鶴』の味わいの秘密は、ニッカが誇る2つの蒸溜所の個性にあります。北海道の余市蒸溜所が生み出すのは、石炭直火蒸溜ならではの力強く、スモーキーで重厚なモルト原酒。一方、宮城県の宮城峡蒸溜所で造られるのは、スチーム間接蒸溜による華やかでフルーティー、軽やかなモルト原酒です。このまったく異なる個性を持つ2つのモルト原酒を絶妙なバランスで組み合わせることで、『竹鶴』ならではの複雑で奥行きのあるハーモニーが生まれるのです。
【トリビア3】スコットランドの英知が詰まった「竹鶴ノート」
竹鶴政孝が1918年〜1920年にスコットランドで修行したとき、彼は見聞きしたすべての技術を克明に記録していました。これが後に「竹鶴ノート」と呼ばれる伝説の記録となります。
彼自身が「このノートがなければ山崎蒸溜所を作ることは不可能だった」と語ったほど重要な資料で、現在も余市蒸溜所にて大切に保存・展示されています。日本のウイスキー製造の原点とも言えるこの貴重な2冊の原本は、まさに国宝級の価値を持つものです。
【トリビア4】三級ウイスキーを作ったこともある
戦後の日本では、原酒をほとんど含まない粗悪な三級ウイスキーが出回りました。竹鶴政孝はこれに手を染めることを拒んでいましたが、経営がひっ迫し、筆頭株主の説得もあって1950年に廉価版ウイスキーを発売することになったのです。とはいえ、その際も法律上許される最大限(5%)のモルト原酒をブレンドし、合成色素や香料を使わず、最低限の品質を維持したエピソードは、彼の妥協なき姿勢を物語っています。
【トリビア5】常識破りの価格設定! 衝撃のデビュー
『竹鶴』が市場に登場したのは、意外と最近です。2000年に「竹鶴12年ピュアモルト」が発売され、大きく注目を集めました。その品質の高さはもちろん、驚きはその価格設定です。
当時、ライバルと目されていたサントリーの「山崎12年」が約6,000円で販売されていたのに対し、「竹鶴12年」は660mlボトルで希望小売価格2,450円(税別)。まさに破格の値段。多くの人に本物のモルトウイスキーを届けたいという想いを込めた、衝撃的なデビューでした。
【トリビア6】NHK『マッサン』効果で人気爆発! うれしい悲鳴
2014年から放送されたNHK連続テレビ小説『マッサン』。竹鶴政孝とリタ夫妻の波乱万丈な人生を描いたこのドラマは、日本中にウイスキーブームを巻き起こしました。特に『竹鶴』ブランドの人気はすさまじく、放送期間中の2014年9月から12月にかけて、北海道での販売量は前年比でなんと202%を記録するほどの売れ行きとなりました。この人気はうれしい反面、深刻な原酒不足を招く一因ともなったのです。
【トリビア7】世界がひれ伏す品質! 驚異の世界最高賞「10回」受賞
『竹鶴』ブランドの品質は、世界的に権威のあるウイスキー品評会でも高く評価されています。中でもイギリスで開催される「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」では、ブレンデッドモルトウイスキー部門の最高賞である「ワールド・ベスト・ブレンデッドモルトウイスキー」を、なんと2023年までに通算10回も受賞するという快挙を成し遂げています。
しかも、10回目は原酒不足により年数表記ボトルが終売となった後、主力となったノンエイジ(熟成年数表記なし)の「竹鶴ピュアモルト」が受賞しています。熟成年数に頼らずともその品質は折り紙付きというわけです。
もちろん「International Spirits Challenge」をはじめ、その他の品評会でも多数の賞を獲得しています。この輝かしい受賞歴は、竹鶴が世界トップクラスのウイスキーであることを雄弁に物語っています。
【トリビア8】消えた「12年」、新たにお目見えした「ノンエイジ」
かつて『竹鶴』のエントリーボトルとして人気を博した「竹鶴12年」でしたが、原酒不足の波は避けられず、2014年3月をもって惜しまれつつ終売となりました。その代替として登場したのが、ブランド初となるノンエイジ(熟成年数表記なし)の「竹鶴ピュアモルト」でした。エイジ表記に頼らずとも品質で勝負する、ニッカの新たな挑戦の始まりでした。
現在(2025年5月時点)販売されている「竹鶴ピュアモルト」は白(ベージュ)基調のラベルですが、以前は黒いラベルのボトルも存在しました。2020年3月に年数表記の「竹鶴17年」「竹鶴21年」「竹鶴25年」が終売となるタイミングにて、ノンエイジの「竹鶴ピュアモルト」もリニューアル。ラベルデザインを一新すると共に、ブレンドも見直され、余市モルトの比率を高めるといった変更が加わりました。ラベルの色は『竹鶴』ブランドの進化の証しでもあるのです。
【トリビア9】世界のVIPをもてなした1本! サミット提供酒
『竹鶴』は国際的な舞台でもその品質を認められています。2016年に日本で開催された第42回先進国首脳会議(伊勢志摩サミット)では、各国の首脳をもてなす公式の場において、「竹鶴21年ピュアモルト」と「竹鶴25年ピュアモルト」が振る舞われました。日本のウイスキーが、世界のVIPをもてなすにふさわしい品質を持っていることを示す、誇らしいエピソードです。
【トリビア10】ブレンデッドウイスキーの『竹鶴』もある
年数表記のある『竹鶴』は、12年、17年、21年、25年などがありますが、もっとも長期熟成しているのは「竹鶴35年」です。数量本限定で発売されたレアもので、当時の希望小売価格は7万円でした。この「竹鶴35年」だけは、ラベルに「ピュアモルト」の表記がないのです。
実は、「竹鶴35年」は35年以上熟成したグレーンウイスキーもブレンドされています。ニッカウヰスキーの中でも、究極のブレンデッドウイスキーと称されるブランド最高峰の逸品です。筆者が経営していたバーでも、2012年に取り扱っていましたが、感動の味わいでした。現在、入手は極めて困難で、100万円近い価格になっています。
■いま愉しむ「竹鶴ピュアモルト」、その味わいと飲み方
今現在、私たちが気軽に手に取ることができる『竹鶴』は、ノンエイジの「竹鶴ピュアモルト」(白/ベージュラベル)です。2020年のリニューアルを経て、さらに洗練されたこのウイスキーは、ニッカのブレンド技術の結晶と言えるでしょう。公式テイスティングノートは以下の通りです。
香り:りんごや杏のようなフレッシュで甘酸っぱい果実香、トーストやバニラを思わせる甘くやわらかな樽香。
味わい:バナナやネーブルオレンジのようなフルーティーさ、軽快でありながらしっかりとしたモルトの厚みやピートのコクが感じられる味わい。
余韻:ビターチョコのような甘くほろ苦い余韻が、穏やかな樽香やピート香を伴い心地よく続く。
複雑でバランスの取れた『竹鶴』の味わいを堪能するには、まずはストレートがおすすめ。少量の水を加えるトワイスアップや、氷を入れたロックでゆっくりと変化を楽しむのもよいでしょう。もちろん、ソーダで割ってハイボールにすれば、爽やかさとウイスキーの香りが引き立ち、食事との相性も抜群です。
『竹鶴』は2025年4月中旬ごろにパッケージリニューアルしており、現在の参考小売価格は700mlで7,000円(税別)となっています。今では決して安いウイスキーではありませんが、最高に美味しいウイスキーのひとつであることは間違いありません。
次に『竹鶴』を飲む機会があれば、創業者・竹鶴政孝とリタの情熱、そして数々のトリビアに思いを馳せながら、じっくりとその一杯を味わってみてください。きっと、いつもとは違う格別な時間が訪れるはずです。
柳谷智宣 やなぎや とものり 1972年12月生まれ。1998年からITライターとして活動しており、ガジェットからエンタープライズ向けのプロダクトまで幅広い領域で執筆する。近年は、メタバース、AI領域を追いかけていたが、2022年末からは生成AIに夢中になっている。 他に、2018年からNPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立し、ネット詐欺の被害をなくすために活動中。また、お酒が趣味で2012年に原価BARを共同創業。 この著者の記事一覧はこちら