大相撲戦国時代に<番付>は必要?トーナメント方式や勝ち抜き戦はなぜ導入されない?大相撲中継アナ「強い力士を倒しながら地位をつかみ、出世することこそ…」
2025年5月23日(金)6時30分 婦人公論.jp
(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
今年も大相撲五月場所が盛り上がりを見せています。そんななか、「今の十両や幕下以下を見渡すと、のちの横綱や大関を期待したくなるような若い力士が次から次へと出現しています」と話すのは、NHKで1984年から2022年まで、その後ABEMAで今も実況を担当している元NHKアナウンサー・藤井康生さんです。そこで今回は、藤井さんの著書『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』から一部引用、再編集してお届けします。
* * * * * * *
番付は必要なの?
現在の「大相撲戦国時代」に、果たして番付が必要なのか、番付の意味や重みがなくなってしまったのではないか、そんな意見も耳にします。
私的な結論から言えば「番付」は必要です。「番付」があるからこそ大相撲を面白く観戦することができ、「番付」を考案したからこそ、長きにわたり観る者を楽しませることができたのだと考えます。
ここでは、番付を軸にした大相撲の面白さを掘り下げてみます。
今やほとんどの競技に「ランキング」という、その世界での順位や等級を付ける優劣の表し方があります。いや、競技だけではなく、食べ物でも観光地でも職業でも品物でも、何にでもランキングを付ける世の中です。
そんな中、大相撲でのランキングが「番付」です。世界の競技の中でも大相撲の番付は、あるいは最も歴史のあるランキングかもしれません。日本では「ランキング」という言葉を使わずに、「長者番付」「筋肉番付」「酒豪番付」などなど、様々な世界での順位を「**番付」と呼ぶことがあります。
大相撲に番付がなければどうなる?
大相撲では横綱を頂点に、大関、関脇、小結、前頭、十両、幕下、三段目、序二段、序ノ口と階級が分かれ、前頭以下には筆頭から2枚目3枚目……とそれぞれの階級にも細かい順位があります。
大相撲の15日間は、翌場所の番付を決めるために開催されます。つまり、私たちは大相撲の取組を観て盛り上がりますが、それは次の番付が決まっていく過程を観て楽しんでいるわけです。
大相撲に番付がなければどうなるのでしょうか。トーナメント方式で優勝を争うのもいいでしょう。勝ち抜き戦として何人連続で破ることができるかを競うこともできます。部屋別対抗や出身地別対抗のような団体戦も考えられます。
しかし、どんな競技方法であっても、力の差がありすぎる対戦では興ざめです。横綱と入門したばかりの序ノ口力士が100回対戦すれば、間違いなく横綱の100連勝です。そんな対決を観ても、競技としての面白さはありません。ある程度、実力が拮抗した力士同士が戦ってこそ興味が膨らみます。
大相撲の番付は実にうまくできている
とはいえ、平幕力士が横綱に対して10回に1回勝てるかどうかわかりません。しかしそこに少しでも「番狂わせ」の可能性があれば、対戦は意味を持ってきます。そのためには、誰と誰を対戦させたら面白いのか、取組を決めるための材料が必要なのです。
それが番付です。力士の立場で言えば、番付がなくても勝利を目指すことに変わりはありません。しかし、番付によって報酬や待遇も異なりますから、目標や夢を抱くためには、番付は恰好の標的といえます。
(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
大相撲の番付は実にうまくできています。横綱になるためには、大関の地位で2場所連続優勝、またはそれに準ずる成績が必要とされます。簡単ではありません。それだけに、一度横綱に昇進すれば降格することはありません。
ただ、別格の地位ですから横綱に相応しい相撲が取れなくなれば引退するしかありません。退き際は本人次第です。
力士個々の現在の強さをわかりやすく示してくれる
横綱という地位が明文化されるまで最高位であった大関は、2場所連続で負け越すと関脇に陥落します。しかし、関脇に下がった場所で10勝以上すれば大関に戻れるという特権があります。関脇以下は、成績次第で毎場所昇降があります。
大相撲を観戦する私たちに、力士個々の現在の強さをわかりやすく示してくれるのが番付です。時代によって、1人の横綱の実力が抜きんでていたり、あるいは横綱や大関がそれぞれ3人も4人もいてまさに「群雄割拠」であったりと様々です。
その中で、強い力士を倒しながら地位をつかみ、出世していくのが大相撲です。大相撲ファンは、そこに期待と楽しみを見出します。番付は大相撲になくてはならない存在です。力士が出世していくことを「番付を上げる」と言います。
※本稿は、『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』(発行:東京ニュース通信社、発売:講談社)の一部を再編集したものです。