冷たいものを食べて歯が痛くなる?その理由は古代魚の感覚組織に由来していた可能性

2025年5月24日(土)19時0分 カラパイア


メガログラプトゥスに襲われるアストラスピスのイメージ Brian Eng / University of Chicago


 冷たいものを食べると歯がキーンと痛むあの感覚、実は古代魚がルーツだった可能性があるという驚きの研究結果が報告された。


 シカゴ大学の化石研究によって、歯の中にある「象牙質」は、最初は咀嚼のためではなく、古代魚の“感覚器官”として進化した可能性があるという。


 歯の起源についてはこれまで多くの仮説があったが、そのひとつに、古代魚の装甲にあった「突起」のような構造から進化したという説がある。


 この突起状の構造は「オドントード(odontode)」と呼ばれ、長年その役割ははっきりしていなかったが、4億6500万年前の古代魚「エリプティキウス」の装甲外骨格を調べたところ、オドントードに歯と同じ象牙質が含まれていたことが判明した。、


 このことは最初は感覚器官だった外骨格上の構造が、やがて歯のような構造に進化していったというかねてからの仮説を裏付けることになるという。


古代魚の外骨格に象牙質が存在


 私たちの歯は、硬いエナメル質で覆われているが、噛んだときの圧力や痛み、冷たさといったものを感じられるのは、その内側にある象牙質が神経に感覚情報を伝えているからだ。


 今回、米国シカゴ大学をはじめとする古生物学者チームは、「オドントード(odontode)」という古代魚の外骨格にあった突起に、歯と同じ象牙質があることを発見している。


 オドントードが動物の歯の起源ではないかという仮説はかねてからあった。


 だが、この発見から推測されるのは、オドントードが魚が周囲の環境を感知するためのセンサー(感覚器官)だった可能性である。


 シカゴ大学のヤラ・ハリディ博士は、「この感覚組織に覆われた突起は、何かにぶつかったときにその圧力を感知したり、水温が下がったことを察知してほかの場所へ避難するのに役立ったのかもしれません」と、説明する。


 面白いのは、このオドントードと同じような構造が節足動物にもあることだ。


 それは「感覚子(かんかくし)」と呼ばれる感覚器官で、現代のカニやエビのほか、無脊椎節足動物の化石からも発見されている。


 ハリディ氏らによると、オドントードと感覚子は似てはいても、それぞれ独自に進化したもので、「収斂進化[https://karapaia.com/archives/52313447.html]」の代表例であると考えられるという。



古代の脊椎魚類(上段)、古代の節足動物(中段)、そして現代の節足動物(下段)はいずれも、外骨格に収束構造を持ち、それが神経とつながって周囲の環境を感知していた。Alex Boersma/University of Chicago


古代魚「アナトレピス」の外骨格に象牙質の物質を発見


 この発見はいわば副産物のようなものだ。ハリディ氏らのもともとの目的は、「アナトレピス(Anatolepis heintzi)」と呼ばれる最古の脊椎動物とされていた古代魚の謎を探ることだった。


 カンブリア紀(約5億4000万年前〜約4億8500万年前)に生きたアナトレピスは、一見すると魚によく似ている。実際、過去には脊椎のある魚であると分類されたこともあった。


 そんなアナトレピスの化石をハリディ氏らが高解像度のCTスキャンで調べたところ、驚いたことにその外骨格に象牙質らしき物質で満たされた一連の孔が見つかったのだ。



古代魚「アストラスピス」のオドントードをCTスキャンした結果、その管状構造が象牙質(緑)で満たされていることが判明。象牙質は、現代の動物の歯でも、感覚を神経に伝えている/Yara Haridy/University of Chicago


アナトレピスは脊椎のある魚ではなく、節足動物だった


 それが本当に象牙質ならば、カンブリア紀の脊椎動物で歯の原型が発見されたことになる。


 そこでその大発見の確証をえるべく、古代の化石や現生のさまざまな動物たちの構造と比較し、さらに分析が行われた。


 するとアナトレピスで発見された構造は、むしろ節足動物の化石にある「感覚子」に近いだろうことが判明したのだ。


 つまり脊椎のある魚とされていたアナトレピスは、実は節足動物だったということだ。


 だがこうしたスキャンのおかげで、「エリプティキウス(Eriptychius)」や「アストラスピス(Astraspis)」といった顎のない古代魚のオドントードでも象牙質が発見されたのである。



メガログラプトゥスに襲われるアストラスピスをイメージした絵。こうした危険な環境を生きるために、周囲の状況を感知する外骨格上のセンサーが必要だったと考えられる Brian Eng / University of Chicago


感覚器から咀嚼器官へ、歯の進化への道のり


 アストラスピスやエリプティキウスといった無顎類や、節足動物であることが判明したアナトレピスは、4億8540万〜4億4380万年前のオルドビス紀に、泥の多い浅い海で共存していたと考えられている。


 そうした海には、彼らのエサだけでなく、彼らをエサとする捕食動物も存在した。


 オドントードや感覚子のようなセンサーは、そうした危険な環境を生きるために重要だったと考えられている。


 シカゴ大学のニール・シュービン教授は、ニュースリリース[https://www.eurekalert.org/news-releases/1084165]で次のように説明する。


このような初期の動物が装甲を身にまといながら泳ぎ回っていたとき、周囲を感知する能力は極めて重要でした。捕食動物がウヨウヨしている厳しい環境で、周囲を感知することは生きるための鍵だったのです


装甲を持つカブトガニのような無脊椎動物もまた、世界を感知する必要があり、同じ解決策にたどりつきました(ニール・シュービン教授)


 ちなみに現代の魚にもオドントードと同じような構造を持つ生き物がいるという。それはサメやエイ、一部のナマズの類だ。


 俗にサメ肌といわれるそのザラザラとした皮膚は、「楯鱗」や「皮歯」と呼ばれる微細な歯状構造で覆われている。こうした構造は、動物の歯と同じように、神経とつながっている。



エイの前面の CT スキャン。皮膚にある硬い歯のような歯状突起 (オレンジ色で表示) が見える Yara Haridy/University of Chicago


我々の歯は古代魚の感覚構造が進化したもの


 研究チームは、こうした感覚構造が進化の過程で口腔内に移動し、のちに私たち動物の敏感な歯じに変化していったと考えている。


 これは、「防御」や「捕食」のために歯が進化したという従来の考え方を見直すものである。


 最初にセンサーとなる感覚器官が外骨格上に現れ、それから歯のような構造に進化していったという仮説はかねてからあったが、今回の発見はそれを裏付けたこととなる。


 この研究は『Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-025-08944-w]』(2025年5月21日付)に掲載された。


References: Toothache from eating something cold? Blame these ancient fish[https://www.eurekalert.org/news-releases/1084165] / Toothache from eating something cold? Blame these ancient fish[https://biologicalsciences.uchicago.edu/news/sensory-teeth-evolve-fossil-exoskeletons]

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