俳優・小林涼子がビル屋上の農業と演技を両立させている理由とは?

2025年5月27日(火)6時0分 大手小町(読売新聞)

様々なドラマやCMに出演し、俳優として輝きを増している小林涼子さん(35)。東京のビルの屋上で循環型農業を営むベンチャー企業「AGRIKO(アグリコ)」の社長としての顔も持つ。畑違いの分野との両立を成功させている背景には、食への熱い思いがある。

「食べて体力をつけ、やりたいことをやり、自分の限界に挑戦していきたい」=吉川綾美撮影

芸能活動の傍ら、農業に携わるようになったのは、24歳からです。子役として10代を駆け抜け、20代に入ると、思っていたような活躍ができず、理想と現実にギャップを感じてちょっと疲れていた頃でした。父の友人がいた縁もあり、新潟の棚田で稲作のお手伝いを始めたんです。

田植えや稲刈りなどで、家族と一緒に東京と新潟を行き来しました。農作業で地元の人たちの優しさに触れ、おいしいお米を食べていたら、都会の価値観で凝り固まった思考がほどけていくのを感じました。

この充実した生活がずっと続いていくと思っていたのですが、家族が体調不良になり、新潟に通うのが難しくなりました。どうすれば農業を続けられるかを考え、2021年、「AGRIKO」を起業。31歳からの新たな挑戦でした。社名には、「アグリカルチャー(農業)の子どもとして、農業を継いでいきたい」との意味を込めています。

起業から農園を開くまで1年かけて準備しました。体が思うように動かなくなっても続けられる「バリアフリーな農業」を目指し、農林水産省が実施する農業と福祉の連携についての研修も受講しました。

淡水魚の養殖と水耕栽培を組み合わせた農園の様子=AGRIKO提供

東京は、新潟の生産力にはかないませんが、生産地と消費者が近いことや、ビルがいっぱいあるという強みがあります。こうした東京の風土を生かした農業をしようと思い、22年、生まれ育った東京都世田谷区で、翌年には品川区で、農園を開きました。どちらもビルの屋上で、淡水魚の養殖と水耕栽培を組み合わせた「アクアポニックス」という手法による農業に取り組んでいます。

二つの農園では、約20人の障害がある人と一緒に作業しています。地域の子育て世代の女性が作業をサポートしてくれています。

栽培しているのは、食用花や葉物野菜、ハーブなど約10種類。農園があるビルに入っているレストランなどに出荷しています。私はこれを「ビル産ビル消」と呼んでいます。

この春、農園で栽培したホップを使ったクラフトビールを商品化しました。東京・表参道にある「AGRIKO」の事務所と同じ建物にビールのショールームをオープン。さらに多くの人に届けられるよう増産体制を整え、販路を開拓していきたいです。農園も都内に増やしていきたいと思っています。俳優としては「無色透明」でありたい。求められるものを自在に演じられる役者を目指しています。

社長業と俳優業の両立で健康の大切さを痛感しています。体力をつけるには、食べることが一番。運動できない日があっても、ご飯は抜かない。食べることで生きる力が身につきます。おいしいものを「おいしい」と思う心と体、環境を大切にしていきたいです。

【取材後記】

記者の実家では、お米やみかんを作っている。農業は重労働だと知っているので、自分でもやってみようなんて思ったことがなかった。小林さんの発想力、行動力には頭が下がる。

そのバイタリティーは、どこからくるのか気になっていた。聞いてみると、「『おなかがすいた〜』って気持ちが源ですよ。私、食いしん坊なので」と飾らずに語ってくれた。

キラキラと輝き、幸せなオーラにあふれる小林さん。「自分が幸せじゃないと周りも幸せにできない。だから、まずは自分から。そして、半径5メートルの人を幸せにしたい」と考えているという。「大それたことはできないけど、幸せが連鎖して、結果として地球の幸せにつながればと願っている」と明かしてくれた。ステキな考え方に触れ、私にも幸せが連鎖した気がする。(読売新聞医療部 大沢奈穂)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちに、キャリアの転機とどう向き合ったかを読売新聞の同世代の女性記者がインタビューする企画です。

プロフィル小林 涼子(こばやし・りょうこ)1989年、東京都生まれ。4歳から子役として芸能活動を開始。NHK連続テレビ小説「虎に翼」をはじめ、数々のドラマや映画、CMなどに出演している。「AGRIKO」の社長として農園の運営や芸術家の支援、絵画展の企画運営にも力を入れる。

大手小町(読売新聞)

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