セイコーGGP、男子100mは栁田大輝が連覇を達成! 女子100mハードルは田中佑美ら日本勢に好タイムが続出

2025年5月28日(水)6時1分 JBpress

(スポーツライター:酒井 政人)


女子100mハードルで日本歴代2、3、6位の好記録

 今年のセイコーゴールデングランプリは蒸し暑さがあり、記録面では伸び悩んでいた。しかし、女子100mハードルが“重苦しい雰囲気”を一変する。日本勢が超ハイレベルの戦いを見せたのだ。

 パリ五輪代表の田中佑美(富士通)が日本歴代2位の自己ベストを0.02秒更新する12秒81で3位。4位の中島ひとみ(長谷川体育施設)が日本歴代3位の12秒85、5位の清山ちさと(いちご)が同6位の12秒89をマークした。なお日本記録保持者の福部真子(日本建設工業)は13秒12の7位だった。

 自己ベストで日本人トップに輝いた田中だが、満足はしていない。むしろ“危機感”を抱いている様子だった。

「速い選手についていって参加標準記録をという気持ちがあったので、まずは悔しいです。グ〜ンとスピードが上がった中盤で少し失敗しました。でも無難にまとめてしまうタイプなので、グンとスピードが出たのは今後の記録向上につながるかなと思います」

 近年、日本の女子100mハードルはレベルが急上昇しており、最大3枠の代表をつかむのが非常にハードになっている。だからこそ、田中はいち早く東京世界陸上の参加標準記録(12秒73)を突破したいと考えている。

「年々、日本代表争いのしんどさが増しているので、参加標準記録を突破して、7月上旬の日本選手権に臨みたい。ここからは自分に集中できるかどうか選手権を開催して、自分のレースに集中したいと思います」

 田中の危機感を強くしているのが、ライバルの存在だ。そのひとりが7月に30歳を迎える中島になるだろう。昨年9月に12秒99をマークすると、今季は4月29日の織田記念を12秒93(+1.8)で優勝。今大会で自己ベストを12秒85まで短縮している。

 日本人7人目となる12秒台に突入したことで、「絶対に東京世界陸上に出場したい」という強い思いを持つようになった中島。熾烈な代表争いは、「めちゃくちゃしんどいし、考えるだけで眠れなくなる」というが、その一方で「楽しいし、本当に幸せだなと思います」とワクワク感を抱いている。

 今大会で自己ベストを更新した3人(田中、中島、清山)、日本記録保持者の福部、東京五輪代表の青木益未(七十七銀行)、12秒台の大松由季(サンドリヨン)、今季限りでの「引退」を表明している寺田明日香(ジャパンクリエイト)らによる“3枠”をめぐる激戦から目が離せない。


男子400mハードルで攻めのレースを披露した豊田兼

 男子もハードル種目が非常に熱い。110mでは泉谷駿介(住友電工)と村竹ラシッド(JAL)が東京世界陸上の「メダル」を狙っているが、400mでは「ファイナル」を見つめている選手がいる。慶大を卒業して、今春から社会人になった豊田兼(トヨタ自動車)だ。

 今大会は2022年のオレゴン世界陸上で銅メダルを獲得しているトレバー・バシット(米国)を相手に攻め込んだ。前半でリードを奪うと、最終10台目のハードルを真っ先に跳び越える。しかし、終盤に逆転を許して、48秒55の2位でレースを終えた。優勝したパシットは48秒50。日本勢は小川大輝(東洋大)が48秒98で3位、東京世界陸上の参加標準記録を突破している井之上駿太(富士通)が49秒38で6位だった。

 47秒99(日本歴代3位)の自己ベストを持つ豊田は、「せめて2番だとしても、参加標準記録(48秒50)の突破を目標にしていたので、そこは本当に悔しいです」と唇を噛んだ。そして、こうレースを振り返った。

「スタートから5台目ぐらいまでは47秒台ペースで行けていたんですけど、後半で少しもたついてしまい、最後に刺されたかたちです。7台目ぐらいまではスムーズでしたが、(13歩から)15歩に切り替える8台目がちょっと届かない感じで、減速した跳び方をしてしまった。そこがうまくいかなかった部分です」

 5月下旬のアジア選手権は「腰背部の違和感」が生じたために欠場するが、狙い通りのレースができれば日本記録(47秒89)の更新は期待十分。東京世界陸上では為末大が銅メダルを獲得した2005年以来の“ファイナル進出”を目指していく。


最終種目の男子100mで栁田大輝が大金星

 大会のフィナーレを飾る男子100m決勝はサニブラン・アブデル・ハキーム(東レ)が「足の違和感」で欠場したが、21歳の栁田大輝(東洋大)が2万人の観衆を沸かせた。

 予選通過タイムが10秒20(+0.5)で“最下位”だった栁田は1レーン。2019年のドーハ世界陸上で金メダルを獲得したクリスチャン・コールマン(米国)、9秒93の自己ベストを持つクリスチャン・ミラー(米国)らを相手に「60mで決着をつける」と“前半勝負”に懸けていた。

 スタートのリアクションタイムは予選の0.152秒から決勝では最速となる0.114秒に短縮。真っ先に飛び出すと、トップを疾走して、最初にゴールへ駆け込んだ。強力な海外勢を抑えて、10秒06(+1.1)で連覇を達成した。

 2位はミラーで10秒08、3位はコールマンで10秒11。他の日本勢では井上直紀(早大)が10秒16で4位、桐生祥秀(日本生命)が10秒16で5位、灰玉平侑吾(順大)が10秒21で7位、守祐陽(大東大)が10秒24で8位だった。

「よくも悪くも左側に人がいなかった。周囲を気にせずに走れたのが良かったのかなと思います。予選はスタートがもたついてしまったんですけど、決勝は反応も良くて、ちゃんと飛び出せた。スタートさえうまく切られたら、最後まで転がるように走るかなと思っていたので、その通りになりましたね」

 1週間前の関東インカレは追い風参考ながら9秒95(+4.5)で駆け抜けており、その“感触”が残っていたのもプラスに作用した。

「関東インカレはスタートから風に押してもらって、いいスピード感でスタートを切る経験ができたんです。その後は疲労を抜く感じで、そんなに練習はやれていなかったんですけど、前日練習もいい飛び出しができていました。今日も頭の片隅に9秒台で走ったときの感じを思い浮かべながら走ったりしたので、先週のレースがいいピースになったのかなと思います」

 しかし、東京世界陸上の参加標準記録(10秒00)には届かず、今回のレースは「80点ぐらい」とジャッジした。「調子を合わせてスタートライン立てれば、9秒台は絶対に出ると思っています」と栁田。連覇を狙うアジア選手権(5月27〜31日)で日本人5人目となる“9秒台”が見られるかもしれない。

筆者:酒井 政人

JBpress

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