ペンギンのフンが南極を気候変動から守る、地球を冷やす効果を確認
2025年5月28日(水)8時0分 カラパイア
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南極にはたくさんのペンギンたちが生息しており、大量のフンが放出されている。だがそのフンが南極の気候変動を緩和させる効果があるかもしれないという新たな研究結果が報告された。
ヘルシンキ大学の研究チームがアデリーペンギンのコロニーを観測したところ、彼らのフンに含まれるアンモニアが、空に雲をつくるきっかけとなっていることがわかった。
雲ができることで太陽の光が遮られ、地域の気温を下げる結果につながるというのだ。これは気候変動の影響を受ける南極の生態系を守る、意外な“防御システム”になるかもしれない。
本研究は『Communications Earth & Environment[https://doi.org/10.1038/s43247-025-02312-2]』誌(2025年5月22日付)に掲載されたものだ。
ペンギンのフンが雲を作る?その科学的メカニズム
南極の氷は、ここ数十年で急速に解けており、その影響で海面が上昇したり、太陽の熱を吸収しやすくなったりして、地球全体の気温上昇にもつながっている。
特に南極にすむペンギンたちは、生息地の氷が減ることで深刻な影響を受けている。
南極の自然環境は、他の大陸に比べて大気汚染や植生がほとんどなく、空気中の成分が非常にクリーンである。このため、どこからどんなガスが出ているかがわかりやすい。
そこでフィンランドのヘルシンキ大学の研究チームは、南極で繁殖するアデリーペンギンが出すフンに含まれるアンモニアに注目した。
アンモニアは、ほかの気体と反応してエアロゾル(空気中に浮かぶ微粒子)を作り出す。このエアロゾルが水蒸気とくっつくと、雲のもとになるのだ。
雲は太陽の光を宇宙へ反射する働きがある。そのため、雲が増えると地表に届く熱エネルギーが減り、気温の上昇をおさえる効果がある。
南極のアデリーペンギン How penguin poop can help to mitigate climate change/Youtube
6万羽のペンギンがつくるアンモニア濃度は“基準値の1,000倍”に
ヘルシンキ大学のマシュー・ボイヤー氏とミッコ・シピラ氏をはじめとする研究チーム。2023年の1月から3月にかけて、南極のアルゼンチン領マランビオ基地で、大気中のアンモニア濃度を測定した。
観測地点から約8km離れた場所に6万羽のアデリーペンギンのコロニーがあり、そこから風が吹いてくると、大気中のアンモニア濃度が最大13.5ppb(1ppb=10億分の1)に達した。
これは通常の基準値(10.5ppt、1ppt=1兆分の1)と比べて、なんと1,000倍以上の数値だった。
さらに、2月末にペンギンたちがその場を離れても、地面に残されたフンからアンモニアが放出され続けており、濃度は通常の100倍を上回っていた。
南極のアデリーペンギン How penguin poop can help to mitigate climate change/Youtube
アデリーペンギンとは?
アデリーペンギンは、南極沿岸に広く分布している中型のペンギンで、体長は約70cm、体重は4〜6kg程度。白と黒のくっきりした体色に加え、目のまわりの白いリング模様が特徴的だ。
南極では、コウテイペンギンやジェンツーペンギンなど他の種類も暮らしているが、アデリーペンギンは最も南に広く分布している種類のひとつで、特に氷に覆われた海岸や岩場に大きなコロニーをつくって繁殖する[https://karapaia.com/archives/52255074.html]。
主なエサは南極海に多く生息するオキアミ(小型の甲殻類)で、これを大量に食べることで、フンがピンク色になるのも特徴のひとつだ。
フンは数年にわたって積もり、周囲の岩場を覆うほどになり、衛星画像でもコロニーの位置を見分けられるほどだ。
南極のアデリーペンギン How penguin poop can help to mitigate climate change/Youtube
ペンギンのフンによる雲が南極の気温を下げる可能性
研究チームは、アンモニア濃度の変化に応じてエアロゾル粒子の数やサイズがどのように変わるかを調べた。
アデリーペンギンのコロニーから風が吹くと、測定地点ではエアロゾル粒子が急増。さらにその約3時間後には、粒子が水蒸気を集めて霧を発生させたことも確認された。
このことから、ペンギンのフンから出るアンモニアが、空の雲づくりに確実に関与していることがわかった。
雲が多くできると、地表の熱がこもりにくくなり、南極の気温が下がる可能性がある。
ペンギンを守ることが南極の未来を守ることにつながるかも
この研究は、ペンギンの生態が気候システムに影響を与えていることを示すだけでなく、彼らの存在が南極の環境バランスにとっていかに重要かを意味している。
ペンギンは、地域の生態系を保つ鍵でもあり、アンモニアを大気中に供給する「自然のエンジニア」とも言える存在だ。
しかし、彼らの生息地は、海氷の減少や人間活動による気候変動の影響により、年々失われつつある。
この研究は、ペンギンやその他の海鳥とその生息地を守ることが、間接的に地球全体の気候にも良い影響をもたらす可能性があることを示している。
研究を率いたボイヤー博士は、「これは生態系と大気が深く関係していることの新たな例であり、生物多様性の保護がなぜ重要なのかを示している」と語っている。
References: Penguin Poop: The Latest Tool to Fight Climate Change[https://www.mentalfloss.com/penguin-poop-mitigates-climate-change] / Penguin guano is an important source of climate-relevant aerosol particles in Antarctica[https://www.nature.com/articles/s43247-025-02312-2]