三菱UFJ、新たな個人向け総合金融サービス「エムット」発表 - 銀行アプリにQRコード決済を統合、クレカポイント還元率最大20%に、デジタルバンク開業へ
2025年5月28日(水)9時49分 マイナビニュース
三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)は5月27日、「ライフステージ総合金融サービス」として、個人向けリテールビジネス「エムット」を開始すると発表した。高金利低手数料のデジタルバンクやポイント還元率を高めたクレジットカード、使いやすい証券サービスなど、グループ全体での統合的な金融サービスを提供することで、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)の総合金融サービス「Olive」に対抗する。
MUFGの代表執行役社長グループCEOの亀澤宏規氏は、業界首位の個人口座数と預金量を誇る三菱UFJ銀行をゲートウェイとして、幅広い金融サービスを提供していく考え。
エムットは第1弾として、新アプリやカード還元などのサービスを6月2日から提供する。
○銀行アプリにCOIN+を統合、決済も金融もこれ1つで
エムットというサービスブランド名は、「MUFG」「MINNA(みんな)」「MONEY」の3つの頭文字のMを取り、「みんなのお金に関わることを丸っとサポートしていく」という意味合いで、広がりや繋がりを意味する「アットマーク(@)」を組み合わせて採用した。
エムットでは、第1弾として4つの新商品やサービスを提供する。まずその中心として三菱UFJ銀行アプリを全面リニューアル。MUFGの各種サービスへの申し込みや取引内容の一覧が可能な資産管理アプリへと刷新する。
「1,000万人に利用してもらっている」(MUFG執行役員常務リテール・デジタル事業本部長兼グループCDTO山本忠司氏)というアプリで、特に送金が使いやすいとの評価を得ているそうだが、送金するだけで短時間しか使われないため、リニューアルによって日々いつでも起動されるアプリを目指す。
銀行口座の残高だけでなく、三菱UFJカードの利用状況、投資信託や三菱UFJ eスマート証券の資産が確認できる。トップページに表示される機能はカスタマイズ可能にするなど、使い勝手も高めたとしている。
今夏には決済機能として、リクルートと協業して提供される「COIN+(コインプラス)」をアプリに組み込み、残高を確認し、そのまま三菱UFJ銀行の口座からチャージしてQRコード決済で支払いをするといったシームレスな動線を実装する。
COIN+は個人間送金が無料のQRコード決済で、残高を対応する銀行口座に何回でも無料で出金できる点が特徴だ。さらに、リクルートがデジタル給与払いとしてCOIN+に対応。「働いてその場で給与を受け取り、帰り道のスーパーでCOIN+で買い物をし、残高は銀行口座に出金して引き落としに備える」といった使い方も可能だ。
他にも、事前チャージ型であと払いのプリペイドVisaカード「バンドルカード」、ロボアドのウェルスナビ、ネット証券の三菱UFJ eスマート証券、クレジットカードの三菱UFJカードがそれぞれ接続でき、三菱UFJ銀行アプリから管理できるようになる。
○「圧倒的にお得」なポイントアッププログラム
SMBCのOlive対抗としてクレジットカードも強化する。三菱UFJニコスは、今後社名を三菱UFJカードへと変更する計画だが、カード自体もシステム統合を進めており、ニコスカードやDCカードも「三菱UFJカード」へと統合していく。
エムットに合わせて、三菱UFJカードでは新しいポイントアッププログラムを開始する。従来のポイントでは、日常使いで貯まるポイントとして5.5%の還元率だったが、「なかなか支持されなかった状況だった」と三菱UFJニコスの角田典彦社長。そのため、2024年2月から最大19%、昨夏にはいったん最大15%としたものの、「特定加盟店」としてスーパーやコンビニエンスストアなどで還元率を高める施策にした。
これをさらに、「業界最高水準」(角田社長)の最大20%まで拡大した。特定加盟店もコンビニ、スーパー、飲食チェーンなど業界最多水準の30まで増やし、その還元率も5.5%から7%へと増加させ、他社よりもお得感を追求した。最大20%になるための基準も引き上げやすくして、MUFGのサービス利用やアプリ起動に加え、特定のサブスクリプションサービスを三菱UFJカードで支払うと1サービス1%、最大5%までアップするなど、「無理なくポイントアップして、圧倒的にお得」(同)という。
カードアプリも刷新して新ポイントアッププログラムの現在の還元率を分かりやすくして、何をすればポイントアップするかも把握しやすいようにした。
これまで同社のポイントは、他社ポイントの交換が基本だったが、ポイントの決済利用をサポート。「グローバルポイント Wallet」アプリを提供し、スマホのタッチ決済で貯まったポイントを利用できるようにする。世界のVisa加盟店でポイント支払いできる。
角田社長は、「年会費無料で、最もポイントが貯まりやすく、還元率も分かりやすく使いやすい」とアピールする。
こうしたエムットの新サービスは「まだ最初の一歩」だと語るのは三菱UFJ銀行の半沢淳一頭取。今回のサービス発表は第1弾としての発表で、「さらに発展させるため、26年度中には様々な進化を予定している」(半沢頭取)という。
まずはポイント還元基盤を拡張し、MUFG共通のポイント「エムットポイント」を提供する。他社ポイントへの交換や従来と同様の還元をしつつ、COIN+の残高へ交換することも可能にする。COIN+の残高としてエムットポイントをチャージすると、そのままQRコード決済での支払いもできるほか、銀行口座への無料出金も可能になる。
亀澤社長は、「COIN+に変えたらコイン、そのままお金として使える。つまり、もうポイントではなくなるので、もしかするとポイントを貯めるという発想は古くなって、コインを集めて使えた方がいいとなると、ポイントの概念が少し変わる可能性がある」と将来を見据える。
さらにロイヤリティプログラムもスタートする。利用に即してステージランクが上がって、ポイントだけでなく銀行取引の手数料が無料化されたり、金利がお得になったりといったメリットを提供。「より(MUFGサービスで)繋がり、長く使ってもらうほど、無理なく高水準のステージになる」と半沢頭取は話す。
○安価な手数料、高金利……だけじゃないデジタルバンクへ
2026年度後半には、デジタルバンクの開業も目指す。「全く新しいコンセプトのデジタルバンク」(亀澤社長)だとしており、ネット専業銀行ではなく、「デジタルとリアルのいいとこ取りをする」(同)銀行にする考えだ。
システム基盤としてはGoogle Cloudを採用。みんなの銀行の基幹システムを開発・運営するゼロバンク・デザインファクトリーとアクセンチュアが協力して開発したフルクラウド型銀行システム基盤を採用。「非常に軽くて動きやすくて柔軟になるので、色んなサービスをどんどん迅速に打ち出していける」と山本氏は強調する。
その中核の機能としては、資産管理の「一人別の最適提案」のサービスが計画されている。ウェルスナビと共同開発した「マネーアドバイザリープラットフォーム(MAP)」を実装し、MUFGの約6,000万顧客や買収したマネーツリーの約650万人の家計データやAI技術を活用して、顧客のそれぞれの状況やライフステージなどに寄り添った最適なアドバイスをする、というもの。まずは資産ポートフォリオの提案などを実施していく予定だ。
さらにフルクラウドによって、「リテールに特化したシステムになると圧倒的にコストが安くなるので、利用者に還元するため、(銀行取引の)手数料などを下げたい」と山本氏。
Oliveのように一本化するのではなく、既存の三菱UFJ銀行口座とデジタルバンクはまずは併用する。既存顧客は、三菱UFJダイレクトから数クリックでデジタルバンクの口座開設が可能で、アプリやダイレクト上からはシームレスにデジタルバンク口座の確認、手続きが可能になるという。もちろん、デジタルバンクから既存口座の確認、手続きもシームレスに行える。
三菱UFJ銀行は、個人の口座数、預金量は「断トツ」(亀澤社長)の93兆円で、2位に1.5倍差の30兆円ほどの差があるという。既存ユーザーが多いため、一気に移行することは難しく、まずは既存ユーザーが新サービスや低手数料、高金利で口座を利用するためにデジタルバンクを開設するほか、「新規で三菱UFJ銀行の口座を作る人はデジタルバンクだけを作る」というのが山本氏の予想で、徐々にデジタルバンクへの移行を促したい考え。
すでに三菱UFJ銀行は他社に比べて「最も店舗を減らしている」(山本氏)という状況で、店舗数はみずほ銀行よりは多いものの、この3年で1/3の店舗を削減し、減少率では最も減らしたとした。結果として、「相当筋肉質の店舗体制になっている」と山本氏。
この筋肉質となったリアル店舗も活用し、基本的な口座サービスは来店を必要としないデジタルで完結させつつ、相談やより深くサービスを知りたいといった場合に来店を促し、デジタルとリアルの双方でサービスを展開していく。ネット専業銀行のようにオンライン一辺倒にしない点を特徴だとしている。
店舗としては、一部を個人専用店舗「エムットスクエア」へと置き換え、接点拡大も行う。この一環として「20年ぶり」(同社)という新規店舗を東京・高輪ゲートウェイの「ニュウマン高輪」、大阪・箕面市の「みのおキューズモール」においてオープン。エムットスクエアは25年度下期以降、順次開設。ネット専業銀行にはない付加価値として提供していく。
また、KDDIとの協業も推進し、次世代リモート接客プラットフォームを活用してコンビニエンスストアなどでのリモートチャネルを活用してユーザーの金融相談などの顧客体験を提供していきたい考えだ。
MUFGでは、エムットの利用拡大に向け、新規口座開設だけでなく、既存ユーザー向けにもキャンペーンを実施。新規向けには最大5万円+5万円、最大10万円を提供する誕生記念を実施。既存向けには今夏に、1年1%の特別金利を設定した円定期預金を先着順で提供。1人あたり預け入れ100万円まで、総枠1兆円の大型キャンペーンとなる。
こうしたキャンペーンなどを実施していくことで、MUFGでは2026年度に年間100万口座の獲得を目指し、今後もさらなる機能拡充も続けていく。
小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら