「つなぐ、むすぶ」ネットワークが、富山駅前に”賑わい”を生み出す。【地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ。[第2回 富山県編]】

2023年6月29日(木)12時0分 ソトコト

JR富山駅周辺が、今、変わりつつあります。週末ごとにさまざまなイベントが行われ、路面電車を待っている学生やリュックを担いで地図を見ている外国人、買い物に訪れている若者や家族連れなど、実に多くの人たちが行き交い、賑わいを見せています。
駅の南口側はホテルや商業施設がバスターミナルを囲み、その間を人や車、そして富山の街を象徴する路面電車が行き交っています。北口側には街路樹の緑が美しい「ブールバール広場」が駅から延びていて、周囲には『オーバード・ホール(富山市芸術文化ホール))や『富山市総合体育館』、『富山県美術館』、『富岩運河環水公園』など多くの公共施設が並び、休日には幅広い世代が集い賑わっています。企業のビルも多く、オフィス街の顔もある地域です。
こうした富山駅周辺の姿は、これまで官民が一体となり取組んできた富山市のまちづくりの一つの成果です。
そして今年3月、富山駅周辺エリアのビジョンを示す1冊のデザインブック『トヤマチ∞ミライ』が発表されました。そこには行政や民間という立場を超えて富山の新たな未来像をつくり、実現するために集まった人の熱い思いが詰まっています。





行政や企業という枠を超えて、富山駅前の活性化のために集まる


富山市は公共交通機関を軸としたコンパクトなまちづくりに取り組んできました。まちの“ハブ(中心)”の一つになるのは、北陸新幹線やJRの在来線、あいの風とやま鉄道、富山地方鉄道、市内を縦横に走る路面電車、バスの乗降客が集う、県都富山の玄関口でもある「富山駅」です。
「2015年に北陸新幹線が開業し、在来線が高架化したことにより、南北にあった路面電車が富山駅で繋がりました。これまで分断されていた駅の北と南に一体感が生まれ、明らかに駅周辺の人の数、流れに変化が起きています」と、15年以上にわたり富山市のまちづくりに携わってきた富山市役所 活力都市創造部 まちづくり推進課の佐伯哲弥さんは話します。
同時に、開発されたエリアのポテンシャルを活かすために「行政だけでは限界がある。駅周辺の市民や企業の方と地域の強み弱み・課題や、賑わいを生み出す仕組みについて同じ目線で話したい。そのためには民間企業の推進役が必要」と佐伯さんは考えていました。








そんな時に出会ったのが『富山ターミナルビル(以下、TTB)』代表取締役社長の水田整さんです。『西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)』で長年まちづくりに携わり、19年からTTBの社長を務めています。
「20年ほど前TTBに在籍していた当時から、駅から南に1kmほどの中心市街地『総曲輪(そうがわ)』とともに、駅周辺も商業地としては衰退傾向でした。車社会がいよいよ顕著でしたから。総曲輪ではその後再開発が進みましたが、駅周辺もしっかり整備し、中心市街地との両輪で富山の街を活性化する必要があると考えていました」。その後、駅前市有地の開発事業者コンペにJR西日本グループとして応募し当選。人口約40万人規模の地方都市に、大きな複合施設を建てることに社内から不安の声もありましたが、紆余曲折を経て計画は決定。水田さんはその商業施設の総指揮を任され、22年3月に『MAROOT(マルート)』が誕生しました。
「JR西日本には、駅を魅力的なものにする責任があると思っています。駅前が活性化すれば、住んでいる人には便利になり、訪れる人へはおもてなしになる。単なる商業施設の運営ではなく、本気で富山の街のまちづくりに関わろうと、富山の人たちに寄り添い”街に染み出していく”そんな場所にしようと考えました」。








訪れた人が『MAROOT』に行って帰ってくるだけではなく、他のお店に寄ったり、イベントを楽しんだり、駅の北側にも足を運んだり……。水田さんは、駅前がそんな回遊性のある場所になることを思い描いていました。佐伯さんもまた、富山市が取り組んできた公共交通による回遊性を活かした賑わいづくりには、行政主導ではなく、自分ゴトとしてまちづくりに取り組む人たちと将来像を共有する必要があると考えていました。
そんな富山駅に関わる多くの方々の想いが重なり、富山駅周辺で活動するまちづくり団体や企業が参加する、官民による協議会「富山駅南北一体的なまちづくりプラットフォーム(以下、プラットフォーム)」が立ち上がりました。2021年のことです。
以降、「形だけの組織」にはならないように月1のペースでまちなかで活動するプレイヤーを集めた分科会や賑わい創出の社会実験などを開催。富山駅南北の一体的なまちづくりの意識醸成をはかり、居心地よく愛される空間となるために議論を交わしました。こうして出来たのが、エリアに関わる人々が一体となり、活気あるまちの姿を描いたビジョンをまとめたデザインブック『トヤマチ∞ミライ』です。





さまざまなプレイヤーが連携して駅前を盛り上げる


現在では『トヤマチ∞ミライ』の『まざる、えがく、めざめる』を合言葉に、エリア内に関係するプレイヤーなら誰でも参加できる「あおぞら会議」を開催し、互いのイベントの情報共有やアイデアを出し合い連携を深めています。並行して、駅前の賑わいを生み出すイベントも次々に実施。南口駅前広場に子どもたちの遊び場をつくった「えきのあそびば」や、南北自由通路と北口駅前広場でのナイトマーケット「よぞら駅道」、路面電車南北接続記念イベント「つながるWeekend」などが開催されています。





駅構内でのイベントも増えました。特に多くの人が楽しんだのが北陸新幹線開業8周年の記念イベントでした。構内を走ったミニ新幹線に、子どもたちは大喜び。「路面電車と新幹線が並走している!」と大きな話題にもなりました。
「実は駅でのイベントの開催は、意外とハードルが高いんです」とJR西日本富山駅長の川岸宏樹さんは言います。富山駅は、JR西日本とあいの風とやま鉄道、富山市の共同管理で、自由通路の利用については関係者での調整や「駅を利用されるお客様の円滑な流動が最優先、案内放送が聞こえなくなるような音楽はだめ」といったさまざまな制約・ルールがあります。
「今まで駅はどちらかというと規制する側だったのですが、今回、プラットフォームに参加して、関係者間の連携も取りやすくなっただけでなく、賑わい創出にかける方々の熱い想いに触れ、『むしろ駅の側からも思い切ったことをやってみよう』と若手社員に任せてみました。すると、どんどんアイデアが出て関係者で連携を始めたんです。駅はやはりまちの中心。まちづくりの一つの拠点となれるように、敷居を低くして周囲の方々と一緒に地域を盛り上げていきたいと考えています」。











プラットフォームの委員で、「富山駅南北交流人口創出事業実行委員会」の委員長や富山商工会議所の副会頭を務める品川祐一郎さんは、バスケットボール3x3の大会や富山マラソンのゴール地点でのランナー向けイベント、トヨタのディラーという本業をいかしたランドクルーザーフェスティバルなど、駅の南北両方で賑わいをつくるイベントを行ってきた一人です。
「駅の周辺で同時多発的にイベントが行われ、『駅前に行くとなにか楽しいことをやっている』そう思わせるまちにしたいんです。1社で行うには限界がありますが、プラットフォームを通じて異なるジャンルの方々と人間関係ができています。そのチームで行政とも連携しながら取り組めば、さらに多くのことができる可能性があります」と品川さんも期待しています。








TTBも、南口広場に大きなスクリーンを設置した映画上映や、北陸新幹線開業8周年のイベント、「ハンガリーデイ」、「TSC春の大運動会」など定期的にイベントを行っています。イベントを担当しているTTB企画部主任の田坂孝司さんは、MAROOTのテナントや他の商店などにも声をかけ、出店をお願いしています。
「イベントを続ける中で、皆さん人が集まることを感じていただいたのか、『一緒にやりましょう』と積極的に参加してくださる方が多く、手応えを感じています。駅前という立地を生かして駅と連携することも考えていて、富山駅前キャンプやギネス記録になるような大きなます寿司づくりなどもやってみたいと思っています」と意欲的です。








まちづくり会社を立ち上げ、駅前の活性化に拍車をかける


こうした取り組みを経て生まれたデザインブック『トヤマチ∞ミライ』には、富山駅を“ハブ”とした賑わいのネットワークづくりを行うことで、駅を中心として暮らす人、訪れる人、商う人が一体となり、日常の賑わいをつくり出していくことが示されています。さらに今秋には、プラットフォームはまちづくり会社として法人化される予定です。佐伯さんは「ここからが始まりです」と言います。
「プラットフォームを通して、これまで”点”の活動から、連携という”面”でつながる下地ができました。これからは、駅周辺のプレイヤーが独自に、あるいは連携しながら実際の行動を起こしてくれると思います。最初から大きな計画をつくるのではなく、試行錯誤し、時には情報をアップデートしながら小さな成功体験を積み重ねることで、関わる人同士の信頼が生まれ、自信をもって新たな挑戦ができると思います。不確かな時代ですが『トヤマチ∞ミライ』があるので軸はブレませんよ」。
この7月にはオーバード・ホールに中ホールができ、同時期に開催される「KNBサマーフェスティバル 2023」はプラットフォームの枠組みを使い例年よりも広い範囲が会場となります。11月の「富山マラソン」には県外から多くの人が訪れるので、駅の地下通路で「ナイトバー」を行い、楽しんでもらう案も出ています。
「まちづくりに終わりはないと思っていて、富山のまちづくりもこれからどんどん変化し、進化していくと思います。これからは20代、30代にも主体的に参加してほしいと思います」と水田さんは若い世代への期待を表します。
富山のまちづくりは、次のステージに向けて新たな一歩を踏み出しました。






Information
TTBは、駅の南口にある3つの施設『MAROOT』『とやマルシェ』『マリエとやま』を『TOYAMA STATION CITY』として、それぞれに特徴も持たせた運営を行っています。3館それぞれの情報のほか、MAROOT前の広場でのイベント情報も『TOYAMA STATION CITY』のwebサイト内の「EVENT」にまとめられています。
人とまちが「つながる」場所として駅の北口に整備されている「ブールバール広場」。そのエリアの情報を「見る」「遊ぶ」「たべる」「学ぶ」というキーワードに分けて発信しています。エリアとしての一体感をより強く打ち出していて、周辺にあるさまざまな施設や店舗の情報がwebサイト『ツナガル、ブールバール』から発信されています。

 『TOYAMA STATION CITY』のwebサイトはこちら。
 『ツナガル、ブールバール』のwebサイトはこちら。



JR西日本金沢支社 漆原健支社長からのメッセージ
来春には北陸新幹線が敦賀駅まで開業し、北陸3県がより近くなります。そのなかでも富山市はコンパクトシティ政策を掲げ先進的なまちづくりを進められており、当社としても関係者の皆様と手を携えながら駅周辺の賑わい創出のみならず、さらに駅とまちをつなぎ、北陸エリアの魅力がさらに高まるよう取り組んで参ります。


魅力的で持続可能な地域づくりを。JR西日本が取り組んでいる、地域との共生とは?
JR西日本グループでは、2010年頃から「地域との共生」を経営ビジョンの一角に掲げ、西日本エリア各地で、地域ブランドの磨き上げ、観光や地域ビジネスでの活性化、その他地域が元気になるプロジェクトに、自治体や地域のみなさんと一緒に日々取り組んでいます。そんな地域とJR西日本の二人三脚での「地域共生」の歩みをクローズアップしていきます。

チーム一丸での新しい土産品づくりは、「岡山愛」から始まった。 【地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ。[第1回 岡山県編]】はこちらから。


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photographs by Kiyoshi Nakamura
text by Reiko Hisashima

ソトコト

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