日本が銅メダルを獲得した総合馬術団体の馬「中間種」とは?競馬との決定的な違いと「人馬一体」の精神
2024年8月7日(水)6時0分 JBpress
(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)
●パリ五輪・馬術団体、「初老ジャパン」銅メダルへの道のり・前編
サラブレッドと中間種(ちゅうかんしゅ)
今回、銅メダルを獲得した4人衆は、メンバー全員が昭和生まれです。こういうチームが五輪に出場しているのを知ると、うれしくなります。
リザーブメンバーを含めて4人の合計年齢166歳、チームの平均年齢41.5歳。彼ら自身が「初老ジャパン」と揶揄していますが、筆者が高齢に達したせいでしょうか、こうした苦節何年のメダリストに対しては、十代メダリストとは一味違う親近感があります。「それまでの人生」「競技者としての足跡」が彼らの顔から何とはなく漂ってくるせいでしょうか。
もちろん、愛馬たちにもご褒美をあげたい気持ちはやまやまですが、ここはメダルよりねぎらいの気持ちと新鮮なニンジンでしょう。
なお、競馬ではおなじみのサラブレッドですが、この競技にサラブレッドが出てくることは稀で、過去にメダルを獲得したこともありません。
出場する馬のほとんどが「中間種」といわれる農業用の馬にサラブレッドや別の品種を交配したことから始まる種類の馬だそうです。
サラブレッドほどスピードがなくても、サラブレッドより筋肉が発達して持久力やジャンプ力に優れているうえ、従順な性格で調教しやすいという大きな利点があります。
競馬との決定的な違いと「人馬一体」の精神
走る目的から始まって、騎乗服(競馬でいう勝負服)、鐙(あぶみ)の位置、騎乗姿勢など、馬術と競馬は似て非なるものですが、ただ一つ共通するのが、動物を伴う競技ということで「人馬一体」の精神でしょう。
「人馬一体」という表現は競馬でもよく耳にしますが、レースや競技以外での馬との付き合い方という点で「人馬一体」によりいっそうふさわしいのは馬術競技に軍配が上がるでしょう。
競馬の場合、テン乗りといってレースの日に初めてその馬に騎乗するケースもあるくらいですが、馬術の場合、愛馬と同じ時間を長く共有して過ごすことで人馬の気持ちの共有を確かなものにします。
共有する時間は馬が死亡するまで続くこともあり、競馬よりはるかに長く一つの心を共有することになります。
また、あえて競馬との共通点をさがせば、馬術もまた、選手(競馬だと騎手)と馬の名前の両方が記憶に残る競技だと言えます。
「初老ジャパン」の愛馬と横顔
銅メダルを手にしたベテランぞろいのメンバーの横顔は、次のようなものです。
・大岩義明&愛馬「MGHグラフトンストリート」号
48歳のリーダー。光学メーカー・ニットーに所属しつつ、競技生活はロンドン中心。このパリ五輪で5回連続の出場となります。2016リオ大会では総合馬術個人で20位、2021年の東京大会では落馬して予選敗退、今大会の個人成績は7位でした。
3歳下で海外留学の経験を持つ国際派として知られる栗東の中内田調教師(牝馬三冠のリバティアイランドの所属厩舎)とも親しく、馬術と競馬の橋渡し役をしているのも好感が持てます。
・戸本一真&愛馬「ジェファーソンJRA」号
41歳。JRA所属。3年前の東京五輪では総合馬術個人に出場し、惜しくも4位にとどまったので今回の団体銅メダルはリベンジ達成の喜びが大きいことでしょう。今大会の個人成績は惜しくも第5位。
明大卒業後JRAに就職、トレーニングセンターや競馬学校に勤務していたとのことなので、競馬ファンとしては親しみがわきますね。
2019年のジャパンカップでは誘導馬に騎乗していたそうです。スワーヴリチャードが勝ったときですね。
・北島隆三&愛馬「セカティンカJRA」号
38歳。乗馬クラブの全国組織「クレイン」に所属し、練習拠点は本場のイギリスとか。表彰式でのウイニングランでは、3人しか騎乗できないため、1人だけウイニングウォークとなりましたが、いい笑顔をしていました。
・田中利幸&愛馬「ヴィンシーJRA」号
39歳。リザーブメンバーでしたが、今回は北島選手に代わり、3日目の障害馬術に出場、3人の中で最初に登場し、少ない減点で5位から3位へと向かう弾みをつくり、メダル獲得に貢献しました。
ベルサイユ宮殿を背に燕尾服をまとって馬に騎乗する姿はよく映えます。すばらしい環境での競技は出場選手たちにとっても一生忘れられない光景として瞼に焼き付いたことでしょう。
金メダルはイギリス、銀はフランスの表彰式となりましたが、英仏とも3人ずつ表彰台に上り、日本チームだけが途中交代の北島選手も含め4人が表彰台に上り、4人ともにメダルが授けられました。よかった、よかった。
(編集協力:春燈社 小西眞由美)
筆者:堀井 六郎