ヴァイキングの拷問法「血のワシ」が行われた理由とは? 背中の肋骨を開いて肺を広げる残酷性の意味

2022年10月30日(日)11時30分 tocana


 ヴァイキングは、9〜12世紀にかけて、西ヨーロッパ沿岸部で海賊活動や交易を行ったノルマン人である。ヴァイキングの北欧神話の神々を信仰し、主神オーディンの名の下に敵を残酷に拷問したとされる。そのような拷問術の一つに「血のワシ」がある。


ヴァイキングの拷問術「血のワシ」とは?

 血のワシは、うつ伏せに寝かせた犠牲者の背中を刃物で切り開き、脊椎から肋骨を外した後、左右の肺を引きずり出して広げる拷問である。肺の広げ方がワシの翼のようだったという。


 犠牲者は逃走や急な動きを防ぐため、手足を縛られた。尾骨を胸郭に向かって背中を裂かれた後、それぞれの肋骨が斧で細心の注意を払って背骨から切り離され、内臓を完全に露出させられた。犠牲者がこの間ずっと生きていたとされ、しかも傷口に塩を刷り込まれたとすらいわれる。


 血のワシが歴史的な事実なのか文学作品におけるフィクションなのかに関しては議論が続いている。というのも、この拷問術が記録されているのがスカルド詩とサガだけだからである。スカルド詩は9〜13世紀頃の北欧で読まれた古ノルド語の韻文詩で、サガは中世アイスランドで成立した古ノルド語の散文作品群である。


 血のワシに関する最初期の記述は867年だったと考えられている。ノーサンブリア王国の王エラは、ヴァイキングのリーダーであるラグナル・ロズブロークを捕えて、ヘビの穴に投げ込んで殺害した。865年、ロスブロークの息子たちは父の復讐のためイングランドに侵攻し、エラを血のワシで処刑した。これは敵に恐怖を植え付けるためだったという。


 北欧の歴史の中で少なくとも4人の有名人がエラと同じ運命をたどったと信じる学者もいる。具体的には、イングランドのエドマンド王、ノルウェーのハラルドル王の息子ハーフダン、ミュンスターのマエルガライ王とアエルヒー大司教の4人である。


 こうした記録がフィクションであると考える学者も少なくない。しかし、シカゴ大学の研究チームは昨年、当時の技術で血のワシが実現可能であることを発表した。もっとも、犠牲者は心身のショックと出血多量によってすぐに死んでしまうため、死体から肺を取り出して広げたと考えられるという。


ヴァイキングが血のワシを行った理由

 ヴァイキングが血のワシを行った理由とされるは2つの説がある。1つめは、血のワシが北欧神話の主神で戦争の神でもあるオーディンへの生贄だったという説である。2つめは、血のワシが不名誉な罪を犯した者への罰として行われたという説である。エラは復讐のため血のワシで殺害されたと伝えられることから、2つめの説が真実味を帯びてくる。


 時代は下って、20世紀フランスの哲学者ミシェル・フーコーは『監獄の誕生』の中で身体刑の意義について言及した。一見すると残酷な身体刑は野蛮な凶暴性の発露と見られがちだが、実際はそうではなく、規則を伴う一種の祭式であるという。その中には、刑の犠牲の刻印や、処罰する権力の明示といった意味が含まれると解釈される。拷問もまた真実を探究するための身体刑の一種である。


 フーコーの理論に基づけば、暴力的な欲求にかられたためではなく、復讐の事実を人々に知らしめたり、オーディンの権威を明らかにしたりするため、ヴァイキングが血のワシを行ったと考えるのが妥当だろう。



血のワシはヴァイキングの野蛮さを象徴する?

 血のワシが真実であるか否かにかかわらず、この噂が広まることで人々がヴァイキングの襲撃を恐れるようになったのは確かだろう。


 一方、血のワシが噂の域を超えて、ヴァイキングの野蛮さを象徴する役割を担った可能性を示唆する学者もいる。アイスランド大学の宗教史家であるルーク・ジョン・マーフィー氏は、「血のワシは、21世紀初頭に『ヴァイキング』(のイメージ)が構築された際に重要な役割を果たしています。これは一般的に、鉄器時代の北欧地域では暴力が日常的であったという(理解)を支持するものです」と述べる。その上で、ヴィクトリア朝の学者たちは、血のワシについて記述することで、侵略者であるヴァイキングの野蛮さと、非侵略者である「ネイティヴな」英国人の優位性とを強調したと解釈する。


 テネシー大学の歴史学者であるマシュー・ギリス氏は、中世のキリスト教作家を「ホラーの専門家」と表現し、彼らの作品は「聴衆を怖がらせて神に立ち返らせる」といった教訓を与えることを意図していたと述べる。ギリス氏は、2004年に「テロは方向感覚を失わせる傾向がある」と書いた中世史学者バレンティン・グローブナー氏の初期の研究に基づいている。ヨーロッパの中世において、暴力とその暴力の描写方法は、意味を生み出す方法で、従来は目に見えていなかった重要なアイデアを目に見えるようにする方法でもあったという。血のワシは、部族間で境界線を引き、その境界線を越える危険性を部外者に警告する方法としての意味があったと考えられる。血のワシのような拷問は、文字通り人間を動物に変えることによって、犠牲者を非人間化させる機能を果たしたという。


 ヴァイキングは商人や探検家である一方、暴力や人身売買を好んだというのも史実とされる。後者のイメージが血のワシの逸話と結びつき、現在も人々の間で語り継がれている。


動画は、「YouTube」より


参考:「All That’s Interesting」、「Smithsonian」、ほか

tocana

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