絶対知りたくなかった「火星に向かう途中で死んだ人」の末路… 4つのシナリオ

2022年12月5日(月)7時0分 tocana

 火星移住が現実的なものになりつつある今、宇宙における遺体の取り扱いが大きな課題となっている。イーロン・マスクが「火星に行きたいなら死ぬ準備をしろ」と警告しているように、たとえ火星に辿り着くことができたとしても、過酷な環境に耐えらず死亡するリスクは高いという。ある倫理学者は最悪の場合、カニバリズムが起こる可能性を指摘しており、極限の状況下にあっては責めることのできない行為だとしている。


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※ こちらの記事は2019年1月31日の記事を再掲しています。


 人類がロケットに乗り込んでから、これまで21人が亡くなった。宇宙船の事故は乗組員全員が死亡し、遺体も爆発で失われてしまうため、遺体の取り扱いに気を揉む必要はないが、火星移住が現実的なものになりつつある今、避けては通れない課題となってきている。米「Popular Science」を参考に見ていこう。


 たとえば、国際宇宙ステーション(ISS)で過ごしている宇宙飛行士が死亡した場合、遺体の取り扱いについて取り決めはあるのだろうか? 実はこれまでISSで死亡事故は起こっていないため、宇宙で遺体を取り扱う実用的な規則はないそうだ。


 だが、船外作業中に宇宙飛行士が死亡する事故はあり得る。宇宙空間で宇宙服が破れた場合、意識を失うまでの時間はたった15秒しかなく、凍りつく前に、窒息や減圧で死んでしまう可能性が高い。宇宙の真空に10秒間さらされると、皮膚や血液中の水分が蒸発し、体は空気を入れた風船のように外に向かって膨張していき、肺が崩壊する。


 ISSに計213日間滞在した経験のある宇宙飛行士テリー・バーツ氏は、人を救うためにかなりの医療訓練を受けたものの、死体の取り扱い訓練は一度もなかったと証言している。


 ただ、カナダ人宇宙飛行士でISS館長だったクリス・ハドフィールド氏によると、ISSへのミッションに向けて訓練を行うすべての国際パートナー(JAXAやESAなど)は、実際にクルーの死亡に備えた「コンティンジェンシー・シミュレーション」という議論を行ってはいるという。


 ハドフィールド氏は著書『An Astronauts Guide to Life』で、そのシミュレーションの内容を明かしている。それによると、NASAにはクルー死亡時のプロトコルがないため、おそらくISS館長が遺体の処理を決定することになるという。そして、クルーが船外活動中に亡くなった場合は、まず温度の低いエアロックに収納される可能性が高いとのことだ。


「宇宙服の中では体の分解が早くなりますし、肉の腐ったような臭いやガスが発生すると衛生的にもよくありません。腐った肉やガスの臭いがするのは衛生的ではありません。ですから、宇宙服の中に入れたまま、宇宙ステーションの寒い場所に保管するのです」(ハドフィールド氏)


 潜水艦内でも同じような処置が取られる。死亡した乗員をすぐに陸に上げることができない場合、魚雷の近くに遺体は保管される。


 一方、半年以上かかる火星有人飛行では航行中に船員が死亡する可能性があるだろう。その場合に備えて、2005年にNASAはスウェーデンのエコ埋葬企業であるプロメッサ社に解決策を依頼、同社は「The Body Back」と呼ばれる遺体の凍結乾燥システムをデザインした。



●火星有人飛行中に死んだら…凍結させて100万個のはへんに砕く


 ロボットアームが遺体袋に入れられた人体を宇宙船の外に吊り下げ、遺体を1時間ほどかけて乾燥凍結させる。その後、ロボットアームの振動により遺体を100万個の破片に砕くのだ。理論的には体重90kgの宇宙飛行士をスーツケースサイズの塊にすることができ、それを宇宙船に何年も保管することができるという。


●火星有人飛行中に死んだら…大量の遺体に囲まれる可能性


 ただ、遺体をフリーズドライ処理できない状況の場合、遺体はそのまま宇宙に廃棄される可能性がある。遺体の宇宙空間放出に関する国際的な取り決めは現時点ではないため、法的な可能だという。しかし、遺体にミニロケットを取り付けない限り、遺体は放出された宇宙船の軌道をたどることになるため、遺体は地球から火星への航路に蓄積されていき、病的な様相を呈するようになるとのことだ。


 では、火星到着後に死者が出た場合はどうだろうか? SpaceX社のイーロン・マスクCEOが「火星に行きたいなら、死ぬ準備をしろ」と警告しているように、過酷な環境である火星で死亡するリスクは高い。


●火星到着後に死んだら…火星に埋葬


 ハドフィールド氏は、火星で死亡したクルーは火星に埋葬されることになるだろうと考えている。火星から地球への帰還に要する長い道のりを考えれば、そうせざるを得ないが、無視できないのが汚染の問題である。火星探査機が地球の微生物を火星に持ち込まないように厳密に洗浄・消毒されているように、遺体の埋葬にも細心の注意が必要だ。NASA惑星保護官のキャサリン・コンリー氏は、「火星での有機物(遺体を含む)の処理については、地球上の微生物がすべて死滅していれば特に制限はない」としている。具体的には火葬により微生物を死滅させるとのことだ。
●火星到着後に死んだら…カニバリズム


 遺体の取り扱いについて最悪のシナリオはカニバリズムだ。もしミッションの食料供給に何か支障が出た場合、食料になりそうなものは身近な人間だけである。


 実際にアポロ11号の打ち上げ時にNASAと当時のニクソン大統領は、最悪のシナリオを考えていたという。クルーらと地上管制官との交信が不能になり、月面に取り残されたクルーがゆっくりと餓死するシナリオだ。その場合、NASAは正式な「海葬」を行う予定だったという。そのような事態がもし起こっていたら、バズ・オルドリンとニール・アームストロングは共食いに走っていたかもしれない。


 米エモリー大学の生命倫理学者ポール・ウォルプ氏は、「肉体に多大な敬意を払うべきだとしても、生命が第一であり、肉体を食べることでしか生き延びることができないのであれば、望ましいことではないが、それは許容できる」と指摘し、極限状況でカニバリズムが起こったとしても倫理的に責められないとしている。


参考:「Popular Science」、ほか

tocana

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