大谷翔平に英語は必要か、通訳に任せるべきか…米番記者が指摘するメジャーで生き残るためのたった1つの条件
2024年4月14日(日)6時15分 プレジデント社
※本稿は、ディラン・ヘルナンデス、サム・ブラム、志村朋哉『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
写真=時事通信フォト
カージナルスとの試合前、キャッチボールを終えて笑顔を見せるドジャースの大谷翔平(中央)=2024年3月29日、アメリカ・ロサンゼルス - 写真=時事通信フォト
■英語が要る? 要らない?
【トモヤ】ESPN(アメリカのスポーツ専門チャンネル)コメンテーターのスティーブン・A・スミスが、大谷が通訳を使っている限り野球界の「顔」にはなれないと発言して、アジア人コミュニティーから人種差別であるとの批判を受けた。
【サム】そもそも、大谷が野球の「顔」になるためにメディアと話す必要なんてないことを理解した方がいい。英語を話す必要はないし、アメリカ文化を受け入れる必要もない。彼は好んで受け入れているみたいだけど。
大谷が野球界の「顔」となれたのは、フィールドでの活躍や立ち居振る舞い、チームメイトとの接し方、そういったことが理由だよ。
【トモヤ】大谷が実際どのくらい英語を話せるのかは多くの日本人が気になっているところ。
【サム】彼が英語を話すのを聞いたことはある。CMや23年のオールスター戦の前なんかにも話していた。英語を話す人たちと一緒にいる時は英語を話している。彼は自分がやりやすいようにやっているんだと思う。でも公のインタビューでは話さないから、一般の人には英語を全く話していないと思われるんだろうね。でも、誰かにもっと英語で話せなんて言うつもりはない。
もしかしたら、僕が第二言語を習得したら、他の人にも、もっと使った方がいいとか言うのかもしれない。でも僕は英語しか話せないし、新しい言語を習得する予定もない。だから偉そうに批判なんてできない。文化の違いもあるのかな。僕に言えるのは、日本語を話している大谷は、アメリカではもちろんのこと、世界でも絶大な人気があるということ。
■チーム内の人間関係においては…
【ディラン】マーケティングの観点で言えば、大谷が英語を話すかどうかは関係ないと思う。でもチーム内での人間関係においては影響はあると思う。
たとえば、サッカーの中田英寿はすごかった。何カ国語も習得していて、プレーしていた国の言葉で意思疎通できていた。イタリアでの初めての記者会見を、イタリア語でやってのけるんだから。チームメイトやコーチとコミュニケーションをとる術を身につけていた。中田と同世代で天才と呼ばれていた財前宣之は、同じイタリアに行った時に、言語の壁が原因で無理をして膝を故障してしまい、期待通りのキャリアは送れなかった。
大谷には素晴らしいコミュニケーション力がある。前にも話したけど、WBCの決勝戦の前のスピーチは美しかった。チームのリーダーになる資質もあると思う。
■ネイティブだって、完璧な英語を使えていない
【トモヤ】日本人選手が英語を話そうとしない大きな理由が、相手にどう思われるかを気にしすぎているからなのは間違いない。それだと、使う機会が減ってしまうから習得も遅くなる。
僕はプロのジャーナリストとして、英語でインタビューしたり記事を書いたりしているけど、文法や語法の間違いなんてしょっちゅうおかす。それでもアメリカの現地新聞でキャリアを築くことができた。自分がやらかしそうなミスを防ぐ手立てを考えたり、言語のハンデを埋められる別の能力を身につけたりすればいい。そもそもネイティブだって、完璧な英語を使えているわけではない。でも、日本人は、文法も語法も発音も完璧にするということに価値を置きすぎている。そんなことは不可能で、とてつもなく費用対効果も低いのに。
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages
■プロセス重視の日本人、結果重視のアメリカ人
【トモヤ】逆に、中南米から来た野球選手の多くは、文法も単語も初歩的なレベルだけど、躊躇なく英語を話すよね。
ディラン・ヘルナンデス、サム・ブラム、志村朋哉『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)
【ディラン】一つには、アメリカに来る過程の違いもあると思う。中南米からの選手は、たいていの場合、貧しい暮らしをしていて、16歳くらいで契約する。通訳がいるとは限らないから、英語を話せるようにならざるを得ない。それに対して、日本からの選手は、すでにプロで活躍してきた億万長者だから、通訳をつけるよう交渉できる。英語を学ぼうという必死さは違うよね。
文化の違いってことでいえば、日本人はプロセスを重視する。アメリカ人が、「俺たちはプロセスを大事にする」なんて言うけど、クソ食らえだよ。日本人のメンタリティーと比べれば、アメリカ人は結果重視でしかない。それがあるから、日本の選手は技術的に優れているけど、競争者としてはダメなところがある。「過程」を完璧にすることにとらわれてしまうから。
■大谷は自分の文化を乗り越えている
【ディラン】大谷はその点では、普通の日本人と違う。完璧でなくても構わない。それよりも勝ちたいと思っている。そういう面で自分の文化を乗り越えている。WBCメキシコ戦の9回に打った球は、明らかなボール球だった。普通の日本の選手だったら、100人中99人は、あの球を振らないと思う。でもラテン系の選手たちは振る。そのメンタリティーが、野球に限らず色々なスポーツで彼らの有利に働く。
写真=iStock.com/dszc
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dszc
中南米では、即興が全てみたいなところがある。世界最高のサッカー選手の多くがラテンアメリカ出身なのには理由がある。彼らはのびのびと自由にサッカーをしてきた。ロナウドやマラドーナはその典型。型にはまっていないから、信じられないようなプレーをする。大谷も、そうした偉大な選手だと思う。
■周りを気にしすぎない偉大な三選手
大谷とイチローと野茂英雄が、僕にとって日本の偉大な三選手なんだけど、その理由は周りのことを気にしすぎなかったから。
ダルビッシュ有は日本人じゃないという日本の記者がいたんだけど、僕からすればダルビッシュは普通の日本人以上に日本人ぽい。ハーフであるという自意識が強いがゆえに、いつも自分は日本人であることを証明しようとしてきたんだと思う。
アメリカに来た当初は、「日本の野球を代表してここに来ている」といつも語っていた。日本の打者と対戦した時は、いつも相手の日本的な技術を褒め称える。三振に切ってとった相手に対してもだよ。彼には、周りの人のことを考えすぎてしまうところがある。メジャーは競争の激しい世界で、ある意味「嫌な奴」にならないと生き残っていけない。
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ディラン・ヘルナンデス
スポーツコラムニスト
1980年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校卒。ドジャースとエンゼルスの地元紙ロサンゼルス・タイムズでスポーツコラムニストを務める。それ以前はサンノゼ・マーキュリー・ニュースに勤務。日本人の母を持ち、スペイン語と日本語も流暢に話す。
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サム・ブラム
ジャーナリスト
1993年生まれ。シラキュース大学卒。2021年からスポーツ専門メディア『ジ・アスレチック』のエンゼルス担当記者を務める。それ以前は、ダラス・モーニング・ニュース、デイリープログレス、トロイ・レコードでスポーツ記者として勤務。AP通信スポーツ編集者賞やナショナルヘッドライナー賞を受賞。
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志村 朋哉(しむら・ともや)
ジャーナリスト
1982年生まれ。国際基督教大学卒。テネシー大学スポーツ学修士課程修了。英語と日本語の両方で記事を書く数少ないジャーナリスト。米地方紙オレンジ・カウンティ・レジスターとデイリープレスで10年間働き、現地の調査報道賞も受賞した。大谷翔平のメジャーリーグ移籍後は、米メディアで唯一の大谷担当記者を務めていた。著書に『ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実』『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(共に朝日新書)がある。
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(スポーツコラムニスト ディラン・ヘルナンデス、ジャーナリスト サム・ブラム、ジャーナリスト 志村 朋哉)
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