口を開けても「のどちんこ」が見えない人は要注意…顔や首の「シワ」や「肩こり」を悪化させる意外な要因

2024年5月11日(土)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jacoblund

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食生活の変化から、舌の力が弱くなっている人が増えている。耳鼻咽喉科医の桂文裕さんは「舌の機能が低下すると食事をうまく食べられなくなったり、全身のバランスが崩れて頭痛や肩こりが生じたり、口呼吸になってアレルギーを発症したり、さまざまな不調の誘因になりうる」という――。

※本稿は、桂文裕『舌こそ最強の臓器(舌ストレッチ動画付き)』(かんき出版)の一部を再編集したものです。


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■体の不調につながる「舌の衰え」


眠ってもまだ眠たい。
疲れやすい。
アレルギー症状がある。
顔や首のシワが気になる。姿勢が悪く肩こりが気になる。
口が乾いて口臭がある……。

といった悩みはありませんか?


いろいろな改善策を試しても解決せず、慢性化しているとしたら、その背景には意外な原因が隠れている可能性があります。


舌力(ぜつりょく)が衰えているせいかもしれないのです。


舌力とは、文字通り、舌の力のこと。驚かれるかもしれませんが、カラダの不調の大半に舌力の低下が関係しているのです。


舌力が衰えて、のどの奥を眺めても、のどちんこ(口蓋垂(こうがいすい))や扁桃腺(へんとうせん)が舌の奥に落ち込んでいて見えにくい状態。これは落ち舌であり、舌力が低下している重要なサインです。


舌力が衰えて落ち舌になり、舌の機能が低下すると、「オーラルフレイル」の誘因となります。


オーラルとは「口を使う」という意味であり、「フレイル」とは「衰える」という意味。オーラルフレイルは、口の機能の衰えを意味しており、噛む(咀嚼(そしゃく))、飲み込む(嚥下(えんげ))に何らかの障害が起こるリスクが高くなります。


次のような自覚症状があると、オーラルフレイルが始まっている可能性があります。


・食べこぼしがある
・噛みにくい食べものが増えてきた
・わずかでもむせ返りがある
・誤って舌や頬の内側を噛むことがある
・滑舌(かつぜつ)が悪くなった

オーラルフレイルを放置すると、食べものも飲みものもうまく体内に取り込めなくなり、カロリーや栄養が不足し、高齢者では誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)(食べかす、唾液、口腔内の細菌といった本来入ってはいけないものが気管に流れ込み、その先の肺で炎症が生じるもの。高齢者の死因の上位に挙がる)の誘因となります。話すこと(発話)も不明瞭になり、コミュニケーションも取りにくくなるでしょう。


口がぽかんと開いた“ぽかん口”で口呼吸だと、鼻呼吸では排除されるホコリ、ウイルスや細菌などが口から体内へ侵入。それらはアレルギーや感染症を引き起こすきっかけとなります。


舌力低下や落ち舌は睡眠中のいびきや睡眠時無呼吸症候群(SAS)の引き金にもなり、動脈硬化による心臓病や脳卒中のリスクを高めてしまいます。


加えて、舌は全身の筋肉や骨格とも密接にリンクしているため、舌力が低下するとドミノ倒しのように歪みが波及し、不良姿勢、頭痛、肩こり、腰痛などが起こります。


この他、舌力の低下はあらゆる病気を引き起こす誘因になり得ます。私は、カラダの不調のほとんどに舌力低下が何らかの形で関わっていると考えています。


■舌の健康度をチェックしよう


さて、いまこの瞬間、あなたの舌はどこにありますか?


舌全体が上アゴにベッタリついている人は舌力が十分。健全な状態です。一方、舌先が少し上アゴに触れるくらいか、もしくは口がぽかんと開き、舌が口のどこにも触れていない人は、舌力が低下しており、落ち舌になっています。


次に「舌の健康度セルフチェック」を載せました(図表1)。これを参考に、ご自分の舌をチェックしてみてください。


これができたら健康な舌。一方、全部満たせない場合には、舌力低下が疑われる。(『舌こそ最強の臓器』P.8~9より)

■現代人は舌力が低下している


舌力低下の理由の一つは、食生活の劇的な変化です。柔らかすぎるインスタント食品やファストフードなどを食べる機会が増えた結果、しっかり噛んで飲み込むチャンスが激減して、噛むための筋肉と舌を使う必要がなくなってきたのです。


最近、断食ダイエットや、長めの空腹時間をつくる健康法がブームになっていますが、私はそうした風潮にも少なからず危機感を抱いています。生命の根幹である「食べる」行為を軽視していると、咀嚼や嚥下といった大切な舌の機能が衰えて健康を損なう恐れがあるからです。


また、身の周りの変化もあります。長時間悪い姿勢で座り続けて、パソコンやスマホやタブレットを見ていると、舌は重力に負けて下アゴとともに奥へ落ち込んで落ち舌となり、舌力も低下します。


舌は発話にも関わりますから、通信手段が電話からSNSに移り、「話す」機会が減ったことも、舌力の低下に直結しています。コロナ禍では対面で話す機会も大幅に減って、イベントや集まりでも大きな声を出せない日々が続きました。


舌力低下の広がりを目の当たりにしていたとはいえ、そのような患者さんに対して、アレルギーがひどければ薬を処方する、いびきがあれば横向き寝を指導するといった対症療法しかできず、自らの無力さに苛まれる日々を送っていました。


■舌を鍛えるとアレルギーやいびきが緩和


しかし、ある尊敬できる歯科の先生と出会い、私の世界観はガラリと変わりました。



桂文裕『舌こそ最強の臓器(舌ストレッチ動画付き)』(かんき出版)

その先生は、子どもの歯の矯正治療を、特別な器具を使わずに行っていました。歯並びを全身の問題と捉え、日頃の姿勢やクセを修正しながら舌を鍛えて、歯並びを少しずつ良くしていくという方法を取られていたのです。


私が驚いたのは、その矯正法を続けていくうちに、舌の位置や噛み合わせが変わるだけではなく、感染症、アトピー、発達障害といった症状までも改善するケースが数多く見られたことでした。


舌を鍛えることは、子どもだけではなく、大人にも通じる健康法であると直感し、その矯正法を舌専門医の立場からアレンジして、患者さんに試してみました。すると、多くの患者さんにアレルギーやいびきといった全身症状の緩和が見受けられたのです。


■早くて7日間で効果が出る


そのエッセンスが、「舌ストレッチ」。舌を「ほぐす、もむ、のばす、まわす」という、誰にでもできるカンタンなストレッチです。


舌ストレッチの狙いは、大きく次の2つです。


①落ち舌を改善させ、鼻呼吸を習慣化する
②舌の可動域を広げ、舌力を上げる

「舌ストレッチ」は早くて7日間、遅くとも1カ月間、毎日行うことで効果が現れてきます。舌は血流が多く、新陳代謝のスピードも速いため、変化が出やすいのです。


舌の動きが良くなり、血色が良くなったら、舌ストレッチが効いてきた証拠。なかには、舌についていた歯型が消えたり、腫れぼったい舌がシャープな形になったりする人もいます。


うれしい変化はアンチエイジングや美容効果にも及びます。なぜなら、舌とともに表情筋なども鍛えられて、顔面の血液やリンパの流れが良くなるためです。


■落ち舌を改善するストレッチ


今回は、落ち舌を改善するための舌ストレッチをひとつ紹介しましょう(図表2)。


ぜひ、1日5分でいいので毎日続けてみてください。


舌を正常な位置に戻し、舌の上アゴへの密着を習慣化する(『舌こそ最強の臓器』P.60~61より)

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桂 文裕(かつら・ふみひろ)
耳鼻咽喉科医
医療法人秀康会ましきクリニック院長。医学博士/日本耳鼻咽喉科学会専門医/上益城郡医師会理事。1964年、熊本生まれ。熊本大学医学部を卒業し耳鼻咽喉アレルギー科を専攻。大学病院時代は頭頸部がん治療に従事し、がん手術や最先端の免疫治療を行い治療成績の向上に貢献。舌との関わりは深く「舌がんに対するリンパ球免疫療法」のテーマで医学博士を取得。2003年、熊本県益城町に「ましきクリニック」を開設。耳鼻咽喉科専門医として舌を診た患者数はのべ数十万人に及び「舌博士」としてマスコミにも出演多数。著書に、『12人の医院経営ケースファイル』(共著、中外医学社)、『健康医学』(共著、フローラル出版)がある。
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(耳鼻咽喉科医 桂 文裕)

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