「いいね」するだけで稼げる、を信じてはいけない…現役警察官すら騙された"副業詐欺"の巧妙すぎる手口

2024年5月15日(水)6時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marina Demeshko

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「SNSで『いいね』をするだけでお金を稼げる」などと勧誘され、大金を騙し取られる被害が相次いでいる。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「給料だけでは生活が苦しいという人が多い中、『スマホだけでスキマ時間でできる副業』という謳い文句に騙されてしまう。しかし、高すぎる報酬には必ず裏がある」という――。
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■「いいね」で100円もらい、信じてしまった


今年4月、地方公務員法で禁じられている副業をしていた山口県警の20代男性巡査長が、所属長注意を受けていたと毎日新聞などが報じた。巡査長はSNSの投稿に「いいね」をする副業で数千円を得ていたが、手数料を求められ、手数料が報酬量を上回っていたという。


手口から言っても、副業詐欺で間違いない。警察官まで副業に興味を持つ時代なのだ。


同じように副業詐欺の被害に遭った女子大生は「タスクをこなせばお小遣いが稼げる。SNS時代だから、そういうタスクもニーズがあるんだろうなと思ってしまった」と言う。


依頼されたタスクは、「Instagramの指定された投稿に『いいね』をする」というもの。「いいね」をして連絡したところ、PayPay送金で100円送られてきたので、「やっぱり本当なんだ」と信じた。


■「より高収入のタスク」で40万円の被害に


その後、“より高収入のタスク”に誘導された。指定した銀行口座にお金を振り込んだ上、仮想通貨のサイトで言われた通りのタスクをこなせば、2万円の報酬が振り込まれるという。


チームでタスクを行うことになり、指示を受け数名で同じ行動をとらされた。ところが1人がミスをし、連帯責任だからと違約金を求められることに。違約金を支払えば利益を引き出せると言われ、どうしてもお金を取り戻したかった彼女は、消費者金融で借りた40万円を入金。しかしさらに手数料を求められ、ここで初めて詐欺を疑ったという。


これは典型的な副業詐欺だ。信用させるために初めは少しだけ儲けさせ、次のステップに進む。ミスで焦らせて、冷静な判断をできなくさせてからさらに多額のお金を奪うというのは、典型的なパターンだ。稼ぎたいのに、そのために費用が必要と言われたら怪しむべきだ。


「給料だけでは足りないので稼ぎたい」「少しでも楽に稼ぎたい」「スキマ時間で稼ぎたい」と考える人は多いだろう。しかしこのようなラクさを強調した副業は詐欺を疑ったほうがいい。


■数百円の報酬を得て、1千万円超を失う


「送信されるURLのサイト上で商品画面を60回クリックするだけで数百円」
「動画を見てスクリーンショットを送るだけで数百円」
「Instagramの指定された投稿に『いいね』か『フォロー』をするだけで100円~800円」


これはすべて実際の詐欺に使われた惹句だ。


FBS福岡放送などによると、福岡県の20代女性は今年2月、「動画を見てスクリーンショットを送れば報酬が得られる。スキマ時間でスマホだけでできる副業」という広告を見かけ、スクショを送ったところ、実際に数百円の報酬が得られた。


動画を視聴する専用のアプリを紹介されて、「より高額な報酬を得るには先に代金を振り込む必要がある」と言われ、指示どおりにして動画を視聴。ところが、「操作ミスがあった」「タイムアウトした」などと言われ、罰金や違約金の名目で繰り返し支払いを求められ、結局1000万円以上を支払ったという。


また、東京新聞によると、インスタグラマーの副業紹介で「4社に登録しアンケートに答えると3万2000円」と言われ、消費者金融に登録した女性もいる。登録した証拠にIDとパスワードを送付したところ、無断で借り入れをされて150万円の借金を背負わされてしまったという。


■「1いいね」の相場はせいぜい数円~10円


商品画像をクリックするだけ、動画を見てスクショを送るだけ、SNSで「いいね」やフォローをするだけで数百円もらえるなら、確かに割のいい小遣い稼ぎとなる。しかし、そのような良い副業は本当にありうるのだろうか。


写真=iStock.com/akinbostanci
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「いいね」や「フォロー」などは確かに販売しており、「副業として成り立ちそう」という気持ちを抱く気持ちもわかる。しかし、相場がどのくらいかご存知だろうか。


Yahoo!オークションでは、「Instagram/YouTube/Twitter/TikTokいずれかの日本人フォロワー100人増加で550円」「TikTokのいいね/フォロワー/再生数/シェアいずれか1000増加で2000円」などで販売している。


つまり、1回の「いいね」やフォローは2〜5円程度に過ぎないのだ。サービスによっては、日本人の「1いいね」や「1フォロー」が10円程度で売られていることもある。「いいね」やフォローが1回増えることで期待できる宣伝効果を考えると、このくらいが上限となるのだろう。


■被害者「生活費がまったく足りなかった」


つまり、「Instagramをフォローまたは投稿に『いいね』で100〜800円」では、明らかに高すぎるのだ。間に紹介者が挟まっていて、末端の自分にそれだけの支払いがあるはずがない。自分が1つの「いいね」やフォローにそれだけ支払うか、それだけ支払う価値があると感じる人が本当にいるのかを考えてみればわかるのではないか。


「送信されるURLのサイト上で商品画面を60回クリックするだけ」も、「動画を見てスクリーンショットを送るだけで数百円」も、明らかに相場から外れた報酬だ。どんな仕組みならこれだけ支払ってビジネスが成り立つというのか。高すぎる報酬には裏がある、うまい話などないというわけだ。


前出の女子大生は、「アルバイトの給料だけでは生活が苦しかった。親も生活が苦しいと言うし、ねだれない。遊びどころか生活費もまったく足りなかった」という。


給料は上がらず、物価高が続き、不安感を煽る情報ばかりが巷にあふれる。投資や副業などで稼がなければという意識が広く蔓延している状態だ。


■「副業したい人」は8割もいるが…


Job総研の「2023年 副業・兼業の実態調査」(2023年10月)によると、実際の平均年収額に比べて理想額は198.6万円高かった。生活に余裕はなく、「あと少し収入が上がれば」と考える人が多いことがわかる。


Job総研「2023年 副業・兼業の実態調査vol.2」より

副業経験の有無を聞くと「経験あり」は32.1%にとどまった。一方で、副業をしていない人に副業への興味有無を聞いたところ、83.8%と8割以上が「ある」と回答。副業をしていないが興味はある人に、どのような変化があれば副業ができるかを聞くと、「本業に余裕が出たら」「プライベートの時間に余裕が出たら」などと回答した。


Job総研「2023年 副業・兼業の実態調査vol.2」より

■「簡単に稼げるうまい話」なんてない


生活は苦しく、副業したい気持ちはあるものの、忙殺されてなかなか余裕がないというのが実態なのだ。そこに「スキマ時間で簡単に稼げる」という甘い言葉をかけられ、まったく気にならないわけがない。


先ほどの女子大生も、「平日は忙しくて長時間のバイトができない。週末まで働くと疲れてしまう。だから、スキマ時間でスマホだけでできると聞いて飛びついてしまった」とうなだれる。


では、怪しい副業はどのように見破ればいいのだろうか。


まず「誰でも」「簡単に」「確実に」「スマホだけで」儲かると、簡単に確実に大金が儲かると謳っている場合は疑うべきだ。簡単に稼げるうまい話などない。自分が手掛けることでなぜ相手は儲かるのか。広告の出稿にはお金がかかる。なぜそんないい話を広告を出してまで自分に教えてくれるのか、考えてみてほしい。


■お金の支払いを求められたら赤信号


初期費用が必要として、数十万円単位の多額の費用を求められるのも副業詐欺の特徴だ。お金を稼ぎたいのに、そのための費用を求められたら詐欺を疑おう。


相手の名前やビジネスで検索し、評判を調べることも有効だ。「○○ 詐欺」などと調べると、詐欺に遭ったという被害が見つかるかもしれない。


その副業が問題ないものかどうか自分で見分けられない場合は、消費者ホットライン(#188)に相談するのもおすすめだ。


詐欺で被害に遭ってもお金を取り戻すのは難しい。必ず、事前に情報を検証すること。情報が信頼できるかどうか確認できない場合は態度を保留し、お金を振り込んだりしないことが大切だ。


詐欺はパターンが決まっている。ニュースなどを見ることで、どのような詐欺が流行っているのかを知り、リテラシーを高め、自衛することが求められるのだ。


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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。
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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)

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