『フロー体験入門』 M・チクセントミハイ 好きなことに、夢中になる技術
2023年7月20日(木)14時0分 KADOKAWA
私は午前7時に仕事を始める。原稿書きに夢中になるとすぐに4〜5時間が経過し、ランチタイムになることがある。こんな時はいい本が書けているし充実感もある。
本書の著者チクセントミハイは、こんな体験を、フロー体験と名付けている。
チクセントミハイは子供時代に欧州で悲惨な戦争を体験した後、心理学に出会い、「幸せの根本とは何か?」を研究した。調査すると、米国の億万長者は平均的な収入の人よりもほんのわずかしか幸せでない。収入と幸せはあまり関係がなかった。
チクセントミハイは、芸術家などの創造的な仕事をしている人に注目し、調査した。
ある作曲家は「手が勝手に動き曲をつくるのを、ただ驚いて見ているだけだった。曲が泉のように湧き出してくる」と表現した。彼らは「忘我の境地」に入るときに水が湧き出て流れるように創造的な活動を行っていた。この「流れる(flow)」状況がフロー体験だ。
あなたも読書に夢中になったり、周囲の空気を感じつつスキーで滑ったり、友達とのおしゃべりに夢中になった経験はないだろうか? これも「フロー体験」の一種だ。
この状態にあるとあっという間に時間が過ぎ、自分が強くなった感覚を得る。
このフロー体験は職場でも起こる。チクセントミハイはソニー設立時に井深大さんの開発チームが常にフロー状態にあったことを紹介している。
フロー状態を生む3つの条件
フロー状態は、次の3つの条件が揃ったときに生まれる。
①具体的な行動を必要とする、明確な目標があること
②行動した結果のフィードバックがすぐに得られ、うまくいったかどうか分かること
③自分のスキルレベルとその挑戦レベルが、高いレベルで釣り合っていること
3つの条件が満たされると、行動そのものがその人にとって価値あるものになる。フロー状態になると自意識が消失し、他を考える余裕がなくなる。自分が強くなったように感じ、まるで数時間が1分のように感じる。まさに「忘我の境地」である。
脳の能力には限界がある。大きな集中力を必要とするフロー状態になると、脳は情報を遮断し、他に注意を払う余裕がなくなる。持病の痛みも感じなくなることもある。脳の能力を目一杯使った結果、人は創造的になるのだ。
フローでは完全に没頭し集中するので、実は幸福感を感じる余裕はない。極限に挑戦するロッククライマーは「幸せだなぁ」と思った瞬間に集中力が途切れ崖から落ちるかもしれない。外科医の困難な手術も、演奏家の難しい演奏も同じだ。仕事をやり遂げた後に振り返る時、感謝の念で一杯になり幸せを感じるのだ。
フロー状態で他よりもすぐれたものをつくりだすには、特定分野での10年間の訓練が必要だという。その入り口が「覚醒」と「コントロール」だ。
「覚醒」も集中し没頭しているが、力強さや楽しさは感じず、一杯一杯だ。高い挑戦のレベルにスキルが見合っていない。だからこの状態を続け自分のスキルを高めれば、フロー状態までもうすぐだ。
「コントロール」は心地よい状態だ。ただ余裕でこなしているので集中力や没頭感はない。挑戦レベルがスキルと比べて低いのだ。挑戦レベルを上げればフロー状態に入れる。「コンフォートゾーンから抜け出し新たな挑戦を」といわれるのがこの状態だ。
「覚醒」と「コントロール」の段階にいれば、フローまでもうすぐなのである。
ドイツのフロー体験の調査では「多くの本を読み、テレビをほとんど見ない人たち」が最も多くのフロー体験をしており、逆に「滅多に本を読まず、よくテレビを見る人たち」は、最も少ないフロー体験をしていたという。能動的に好きなことをしているとフローは起こりやすいということだ。好きなことでも受動的な活動ではフローは起こらない。
修道院の司祭だったメンデルは、趣味で遺伝実験を行い遺伝学の基礎をつくった。政治家のフランクリンは、興味で避雷針実験を行い雷が電気だと明らかにした。ヘルシンキ大学の学生リーナス・トーバルズは、趣味でリナックスをつくり、世界中で使われた。
彼らは自分が夢中になることを見つけ、自分のフロー体験で世の中を変えたのである。
あなたも何かに夢中になりフローに入れるようになれば、人生が幸せになる。そして創造的なものを生み出し、世の中を大きく変えるかもしれないのだ。
【POINT】
「フロー」を使って夢中になる経験が、あなたを成長させる
【出版情報】
『フロー体験入門』世界思想社刊行 著:M・チクセントミハイ 刊行日:2010/5/10
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