3歳の女の子を連れ込み、レイプして殺害した…買い物中の4人家族を引き裂いた異常者が犯行に選んだ"場所"

2024年12月6日(金)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

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子供を性被害から守るには、どんな対策が必要なのか。小児科医の今西洋介氏は「見た目が怪しい人ばかり警戒しても意味がない。性加害者は周到に用意して子供に接触するチャンスを狙っている。その特性を知っておいたほうがいい」という――。

※本稿は、今西洋介『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。
※本稿には性暴力についての具体的な事例・事件や描写が含まれています。


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■アニメやマンガの表現は小児性暴力を助長するのか


いまでも日本では、“オタクっぽい”男性が、子どもを性の対象とするイメージが根強いと思います。そこで、アニメやマンガなどにおける幼い子どもの表現が、小児性暴力を助長しているのではないかという疑問について考えたいと思います。実際、そうしたコンテンツで子どもが性的に表現されることがありますし、作者にその意図がないコンテンツでも読者・視聴者が性的な目で見ることはあるでしょう。


ただし、社会にそうしたコンテンツへの偏見があることを抜きに、この話をしてはいけないとも感じます。1988〜89年に発生した東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の犯人は、部屋から大量のビデオテープが押収されたと当時報じられました。「幼い女の子が登場するアニメやマンガが大好きだったことが、4人の子どもにわいせつ行為をし、殺害した一因となっている」という論調がメディアによって形成されたのを、覚えている人は少なくないでしょう。


このように因果関係がはっきりしないセンセーショナルな報道は、アニメやマンガを愛好する人たちへの偏見につながります。


■因果関係を証明する科学的検証は進んでいない


その因果関係を検証するべく海外の論文を探しても、科学的に書かれたものは、あくまで私が検索したかぎりですが見つけられませんでした。論文以前に、アニメやマンガで子どもを性的に描くという文化が、日本以外にはほとんどないのです。日本に特有の課題だといえますが、国内でも研究や科学的検証が進んでおらず、一般的な議論も十分になされているとはいえません。科学的根拠にもとづかない感情論をぶつけ合うのは、議論とはいえないでしょう。


それにしても、センシティブな問題です。小児性加害者と実際に接すると、明らかにその文化が小児性愛という加害的な嗜好の入り口だったのだろうと思わされる人も少なくありません。もともと子どもに性的関心があったわけではないけれど、アニメやマンガで幼い子が性的に凌辱されている、またはそのように見えるシーンと出くわし、性的な興奮を覚え、その後、子どもにしか性的関心を抱けなくなったと語る人もいます。


■加害者にならないようにする性教育が重要


だからといって、そうしたコンテンツを諸悪の根源として、すべて規制すればいいのか――。個人的には、あまりに野放しな現状を見ると、なんらかの規制はあってもいいのではないかとも思います。しかし、あくまでフィクションとして描かれているものを、「現実とは違う」「現実の子どもにしてはならない」とわかったうえで接する姿勢が多くの人に徹底されていれば、被害者が出る事態にはつながりにくいはずです。


規制が現実的ではないのなら、こうしたコンテンツに触れる年齢になる前に、性教育でそのことをしっかりと教える必要があります。日本では現状、性教育が圧倒的に足りていません。規制するかしないかの議論に終始するのではなく、そうした表現に触れた人が加害者にならないようにする性教育をどう実現するかという議論も必要です。


私が気にかかっているのは、子どもを性的に描く表現が、成人を対象としたポルノ作品にとどまらないということです(ポルノ作品であればいい、という意味ではありません)。未成年でも制限なく目にすることができる青年コミック誌、ややもすれば少年コミック誌にもそのような表現が見られることがあります。これを子どものころから目にしていれば、知らず知らずのうちに「子どもに性的な関心をもっていい」と植えつけられてしまいます。


■嗜好をもつことと実行に移すことは別問題


小児性加害者132名の生育歴を調査した研究では、10歳未満でポルノに触れる割合が65%だったという報告もあります。当然これは、記述統計といって、数字のみを述べたものなので、ポルノに触れた経験と加害行為の因果関係まではわかりません。一方、こうしたコンテンツで子どもへの性的関心が芽生えたとしても、すぐに加害行為に出る人は多くはないのです。このことからも、直接の因果関係を証明するのはむずかしいでしょう。


子どもを性の対象にする背景には、脳の形状が影響している可能性もあります。そのため、そこにアプローチする小児性愛者の“治療”は今後ありうるかもしれません。しかし、それが可能になるのはまだかなり先のことで、いまのところは嗜好自体を変えられないと考えたほうがよいです。ただ、嗜好をもつことと、それを実行に移すことは違います。嗜好に悩んでいようがいまいが、加害行為は加害行為なのです。


■見た目が怪しい人にばかり気をつけても意味がない


どんな性的嗜好であれ、それは見た目にはあらわれません。また、たとえペドフィリアと診断された人の脳に何かしらの問題や人との違いがあっても、それも外見からは判別できません。そういった意味でも、子どもを性被害から守ろうとするとき、いかにもあやしく見える人に気をつけるばかりでは、対策にはならないことがわかります。加害者も、特徴的な外見は親にも子どもにも警戒されるだけだと自覚しているのです。


写真=iStock.com/FOTOKITA
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気にすべきは見た目でなく、「加害者はどんな行動をするか」です。アメリカの児童保護サービス機関が把握した、児童虐待とネグレクトに関する全国データについての報告によると、小児性被害のうち81%が、子どもと加害者が1対1になったときに起きていました(*1)。


*1:「child maltreatment 2013」the Children’s Breau, Child Maternal Report 2013.(2024年10月7日最終閲覧)


加害を目論んでいるのであれば、そのシチュエーションを自分でつくる必要があります。そこで加害者は、子どもに近づいてもあやしまれにくい状況を利用します。それどころか、子どもに好かれ、子どものほうから近づいてくる状況をつくることもあるくらいです。これは加害者にある程度、共通して見られる行動のひとつです。


子どもを小児性暴力から守るためには、こうした行動パターンを知り、そのアプローチを阻む必要があります。


■フードコートのトイレ前で父親のふりをした男


家庭内の性的虐待では、加害者の最も身近に子どもがいます。一方で家庭外の性加害の場合、加害者がその歪んだ欲望を行動に移すには、まず子どもに接触するところからはじめなくてはなりません。そのチャンスが多いか少ないかは人によりますが、なくてもつくり出せるのがおそろしいところです。


たとえば、こんな事例が報告されています。フードコート近くのトイレ前で、子ども用のリュックや水筒を持って座っている男。誰もが「子どもがトイレから出てくるのを待っている父親だ」と思うでしょう。しかし男は、そうした小道具で“父親に擬態”しながら、子どもを襲うチャンスを待っていた――。


現場の警備員が、1時間もずっとトイレの前に座っている男を不審に思って声をかけ、このときは事なきをえましたが、男がそれまでにこの方法で性加害をしなかったとはかぎりません(*2)。


*2:まいどなニュース2022年6月4日配信、竹内章「『あの人、おかしい』トイレ横のベンチに1時間 女児を目で追う男 確信した私服警備は


■ひとりでトイレに行った3歳に何が起きたか


近年は育児に積極的な男性が増え、こんなお父さんの姿はめずらしくありません。それ自体はよろこばしいことなのに、子どもの面倒をみる父親を装って性加害をしようとするのは、実に卑劣です。性加害者は子どもがひとりきりになるチャンスを常にうかがっていることが、よくわかる事例でもあります。


子連れの外出では、ひとりで用を足せる年頃であれば「行っておいで」と子どもだけでトイレに行かせることもあると思います。プールの更衣室なども同様です。「短時間のことだし、親がすぐ近くにいるのはあきらかだし、大勢の人の目があるから大丈夫」と思いがちですが、その裏をかく事件は起きています。有名なものでは、2011年に発生した、熊本3歳女児殺害事件があります。


両親と5歳の兄とスーパーに買い物に来ていた女の子がトイレに行きたがり、手を離せなかった父親はひとりで行かせることにしました。そのあとを男がついていき、女児を障害者用トイレに連れ込み、性加害をし、殺害した――この間、たったの15分。男は、その小さな遺体をリュックサックに入れてスーパーをあとにし、排水口に遺棄したという、非常に残忍な事件です。


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■人間ではなく場所に注目した防犯のあり方


子どもは「この場所」で襲われる』(小学館新書、2015年)などの著書がある社会学者・犯罪学者の小宮信夫さんは、この事件を「物理的に“見えにくい”場所で起きたもの」と指摘しています。



今西洋介『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害』(集英社インターナショナル)

そのトイレは構造的に、従業員やほかの買い物客からの死角になっていました。男は、犯行の4時間前から現場をうろつき、ひとりになる子どもがいないか探していたそうです。そして、その見えにくい状況を利用したというわけです。


小宮さんは、「不審者・犯罪者といった“人”ではなく、犯罪が起きる“場所”に注目することが防犯につながる」という「犯罪機会論」を提唱されています。この場合、男が子どもに近づく“チャンス”をトイレがつくってしまったことになります。


アメリカでも、場所に注目した研究があります。警察の犯罪抑制プログラムの有効性を検証した65件の研究があり、それらを統合的に分析した結果、犯罪が集中している狭い地域が存在するとわかりました。そして、それらの地域に焦点を当てた“ホットスポット警察”が犯罪防止戦略として有効だと証明されました(*3)


*3:「Hot spots policing of small geographic areas effects on crime」Braga AA, et al. Campbell 2019;15(3):e1046.


■加害者は用意周到で狡猾で、粘り強い


加害者にとってのチャンスを一つひとつ潰していくことで、子どもの安全性は確実に高まります。それと同時に、子どもを狙う性加害者たちの特性も知っておいたほうがいいと私は考えます。


彼らは事前に入念な下調べと準備をし、子どもを襲うチャンスが訪れるのをひたすら待ちます。親にとっては「ちょっとのあいだ」でも、彼らにとっては何度も頭のなかでシミュレーションした計画を実行に移す千載一遇のチャンスが、やっとめぐってきたことになります。


ここまで読んでくれたみなさんなら、「子どもを好きな変態が、性欲を抑えきれなくなり突発的に子どもを襲う」というイメージは薄まっているのではないでしょうか。加害者は用意周到で、非常に狡猾で、そしてとても粘り強いのです。


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今西 洋介(いまにし・ようすけ)
新生児科医・小児科医
1981年、石川県金沢市生まれ。新生児科医・小児科医、医学博士(公衆衛生学)、小児医療ジャーナリスト、一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。国内複数のNICUで診療を行う傍ら、子どもの疫学に関する研究を行っている。「ふらいと先生」の名でSNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として提起している。育児のニュースレター配信中。
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(新生児科医・小児科医 今西 洋介)

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