都内各地で災害時のトイレ対策…能登地震の教訓、徒歩5分以内にない「空白エリア」解消目指す
2025年4月25日(金)8時27分 読売新聞
東京都品川区が導入したトイレトラック。多機能トイレを含む五つの水洗トイレを備えている(3月、品川区で)
東京23区や多摩地域の各自治体が、地震などの大規模災害時に向けたトイレ計画の策定や、水洗トイレを搭載した車両の導入などに取り組んでいる。能登半島地震で、長引く断水でトイレが使えない状況が続いた教訓を踏まえた。トイレの不足は衛生環境の悪化だけでなく、災害関連死にもつながる恐れがあり、専門家も対策の重要性を訴えている。(中薗あずさ、石井恭平)
「空白エリア」も
「災害発生時、命や尊厳を守るために欠かせないのがトイレ対策だ」。3月に災害時のトイレ確保に関する計画を策定した品川区の羽鳥匡彦・防災体制整備担当課長はそう強調する。
品川区は、区内の避難所などに携帯トイレや簡易トイレを計約140万回分、トイレトラック1台、マンホールトイレ520基などの災害用トイレを確保している。それでも、トイレが不足する時期や地域を調べたところ、発生から1週間で災害用トイレが最大で3219基不足することが判明。さらに避難所や公衆トイレなどから半径250メートル圏外の「トイレ空白エリア」が区内に複数箇所あることもわかった。
避難所が確保すべき生活環境を示した国際的な指標は、災害直後は「50人に最低1基」、中期段階で「20人に最低1基」のトイレが必要と定める。内閣府が昨年12月、避難所運営に関する自治体向けの指針を改定し、同基準への対応を求めたことなどから、品川区も基準に照らして計算し直した。区は今後、不足が想定される避難所に簡易トイレを増やし、空白地域に優先的にトイレトラックを配備するなどの対策を講じる方針だ。
官民が協力
昨年1月の能登半島地震では、避難所に災害用トイレが不足するなどの問題が明らかになったほか、トイレ環境の悪化を受けて水分摂取を控える女性が続出するなどの課題も浮き彫りになった。
調布市や品川区は、一般社団法人「助けあいジャパン」によるトイレトラックの所有自治体が相互支援する取り組みに参加している。府中市も参加を予定しており、同法人の石川淳哉共同代表理事(62)は「都内に多い高層マンションでは災害時にトイレの排水が行えず、利用できなくなる。他自治体にもぜひ参加してほしい」と話す。
不足した地域を回れるよう、トイレ付きの車両などを調達する自治体も。世田谷区は3月、災害時にトイレトラックや仮設トイレを設置してもらう協定を仮設機器レンタル会社と締結した。水洗トイレやマンホールトイレが使えなくなった時に同社がトイレを出すといい、保坂展人区長は「災害時のトイレ不足は深刻な問題。積極活用していきたい」と話した。
都も基本方針
都も3月、「東京トイレ防災マスタープラン」を策定。首都直下地震が起きた際には1週間後に区部で最大13万8000基のトイレが不足すると想定されることや、必要な数、質のトイレを確保することを基本方針に明記。さらに2030年度までの目標として、徒歩5分以内にトイレがない空白エリアの解消や各自治体がトイレの確保に関する計画を策定することなども掲げた。
災害時のトイレ問題に詳しい大正大の岡山朋子教授(環境政策)は、被災者が水分を控えるとエコノミークラス症候群を起こす恐れがあることを指摘し、「災害関連死を防ぐためにも各自治体のトイレ対策は有効だ。帰宅困難者を受け入れる可能性がある企業や住民自身も携帯トイレをあらかじめ準備するなど、トイレのことも重視した災害の備えを進めてほしい」と話す。