JR西脱線20年 安全最優先の重みを忘れるな

2025年4月26日(土)5時0分 読売新聞

 公共交通機関の最大の責務は、乗客を目的地まで安全に送り届けることだ。利益や効率ばかりを追求せず、常に安全が最優先だという意識を持ち続けることが重要だ。

 乗客106人と運転士が死亡し、562人が重軽傷を負ったJR福知山線脱線事故は、25日で発生から20年となった。兵庫県尼崎市の現場近くではJR西日本主催の追悼慰霊式が開かれ、遺族や関係者ら約340人が参列した。

 事故を起こした快速電車は、制限速度を大幅に超える時速116キロでカーブに進入し、脱線して線路脇のマンションに激突した。

 運転士は事故前の駅で電車をオーバーランさせ、運行が1分余り遅れていた。当時のJR西は、ミスをした社員を厳しく叱責しっせきし、反省文を書かせる「日勤教育」を行っていた。運転士はそれを恐れ、集中力を欠いていたとされる。

 JR西は事故後、日勤教育を廃止した。社員をしゅくさせ、仕事の質を低下させたとの反省からだ。人は誰でも失敗する。懲罰的な指導ではミスを防げない、という教訓を残したと言えよう。

 事故の背景に、会社の利益や効率を過度に重要視する企業風土があった点も見過ごせない。

 JR西は当時、私鉄との競争が激しく、運行本数を増やした過密ダイヤで利用者のニーズに応えようとした。それが電車の遅延を許さない空気を生み、「遅れを取り戻さなければ」という運転士の焦りにつながったと言われる。

 当時の反省は今も生きているだろうか。JR西では2017年、台車に亀裂の入った「のぞみ」を運転士らが異音を認識しながら走行させていた問題が起きた。

 昨年はJR東日本や貨物などで、車軸の取り付け作業に伴う記録の改ざんが発覚している。

 鉄道各社で安全への意識が薄れていないか、現場の隅々まで再確認してもらいたい。

 事故の記憶をいかに風化させないかも大きな課題だ。

 1985年にジャンボ機墜落事故が起きた日本航空は悲劇を語り継ぐため、事故機を一般公開している。JR西でも12月、事故車両の保存施設が完成するが、社員研修には活用するものの、一般への公開は予定していないという。

 多くの命が失われた事故を忘れないためにも、将来的に一般公開を検討してはどうだろう。

 人口減少で鉄道各社の経営は厳しさを増している。人手不足も深刻な状況だ。安全がないがしろにされないよう、誓いを新たにしたい。

ヨミドクター 中学受験サポート 読売新聞購読ボタン 読売新聞

「脱線」をもっと詳しく

「脱線」のニュース

「脱線」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ