ガチャから1点ものの「土器」…障害者が粘土で手作りし「福祉事業と観光業の課題を解決」
2025年4月28日(月)15時35分 読売新聞
千葉県香取市で出土した「香炉形顔面付土器」をモチーフにしたカプセルトイが同市で販売されている。製作したのは県内の福祉事業所で働く障害者ら。地域の埋もれた魅力を掘り起こし、障害者の雇用支援にもつなげる取り組みだ。(本田麻紘)
香炉形顔面付土器は、1929年に良文貝塚(香取市)で発掘された県の有形文化財。はっきりした顔のパーツや大きな耳が特徴で、呪術に使われていたと考えられている。
カプセルには、この土器のミニフィギュアが入っている。オーブン陶土という粘土をオーブンで焼いて作っており、本物の土器のような手触りともろさが味わい深い。一つ一つ手作りのため、個体ごとに顔つきが異なるのも魅力だ。
カプセルには土器の使途にちなみ、「ハッピーになる呪文」(全4種類)も封入した。軽快なメロディーが特徴的なオリジナルソング「胸が土器土器ソング」も作り、動画につながるQRコードをカプセルトイのマシン前部に載せるなど、あの手この手でPRしている。
カプセルトイは1回500円。同市佐原の「さわら町屋館」と「甘味処いなえ」に設置されており、今後「道の駅水の郷さわら」にも置かれる。
企画したのは「障害者就労支援ネットワークP&P」(柏市)代表理事の奥岳洋子さん(42)。奥岳さんは「この土器の呪術はきっと人を幸せにする。カプセルを開けた人が笑顔になればいいな」とほほ笑む。
同法人は、外国人観光客向けのカプセルトイ「折り鶴ガチャ」などのユニークな福祉事業所の商品や、障害者の工賃を高めるビジネスモデルを考案するなど、障害者の雇用安定に取り組んでいる。
同法人の評判を聞きつけ、1年ほど前から、「どうすれば商品の付加価値が高められるか」「販路開拓の仕方がわからない」といった福祉事業所からの相談が奥岳さんの元に相次いで寄せられるようになった。
事業所からは「オリジナリティーのある商品の開発が難しい」との声も聞かれる。そこで奥岳さんは「全国どこでも再現できるような商品を考えて実践し、多くの人にまねてもらえばいいのでは」と思いついた。
目をつけたのが文化財だった。その土地ならではという付加価値がつき、地域の宣伝にもなるため、販路を広げやすいと考えた。
アイデアを多くの人に知ってもらおうと、奥岳さんは昨年、IT企業「エヌアイデイ」(東京都)と佐原信用金庫(香取市)が主催した佐原地域の活性化アイデアコンテスト「佐原のあしたPROJECT」に応募した。
エヌアイデイ社員の稲村美月さん(29)と協力し、文化財など、佐原地域に埋もれているが、魅力がある「ハイカルチャー」を、カプセルトイやアニメーションなど「サブカルチャー」に落とし込み、観光客誘致を図るというプランを提案して受賞。両社の支援を受けながら、生産工程の改善などの試行錯誤を重ね、プラン実現にこぎつけた。
フィギュアは、柏市と我孫子市の二つの「就労継続支援B型事業所」で製作している。奥岳さんが4週間ごとに生産可能な個数を聞き取って発注し、その全てを買い取る。「売れた分だけ」という歩合制ではなく、完了した作業に対して工賃を支払い、自身が販売の責任を持つことで、事業所で働く障害者らの収入安定につなげている。
奥岳さんは「福祉事業所の活動と観光業を組み合わせることで、互いの課題を解決しながら仲間になれる。あまり知られていないすてきな文化財はたくさんあるはず。あちらこちらでまねしてもらいたい」と話している。