「できればテクニシャンが希望です」東大皮膚科のカリスマ教授がむさぼった1500万円の“違法エロ接待”「昼からソープを何度も…」《共同研究者が実名告発》
2025年4月30日(水)18時0分 文春オンライン
日本最高位の研究・教育機関である東京大学。象牙の塔に棲む医学部教授には、裏の顔があった。男が「産学連携」を楯に求め続けたのは高級な食事、銀座のホステス、そして——共同研究者が覚悟を決め、実名で告発する。

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天下の東大教授が、異様な“エロ接待”
東京・丸の内の高級グランメゾン「A」の個室で、スーツ姿の男性3人が“密談”していた。
「貴方くらいの規模のところと、共同研究するには……」
運ばれてくるフレンチを横目に、上座の2人が饒舌に語る。東京大学大学院・医学系研究科の皮膚科学教授・佐藤伸一氏(61)と、特任准教授の吉崎歩氏(45)だ。他方、手前で相槌を打つのは、一般社団法人「日本化粧品協会」の代表理事を務める引(ひき)地(ち)功一氏(51)である。2023年2月14日の夜のことだった。
同年4月1日から、この協会と、佐藤教授らが所属する東大との間で、3年間にわたって共同研究する講座の設置が内定。この日は初の食事会だったという。引地氏が語る。
「店を指定され、グレードの高さに驚きました」
宴もたけなわ、店員が持ってきた会計は、3人で約15万6000円だ。
「誰も手に取ろうとしないので、思わず僕が手を伸ばすと、即座に『あら、いいんですか』と言われ、そのまま全額僕がお支払いしました」
今回、週刊文春に「実名告発」を決意したのがこの引地氏だ。こう言葉を継ぐ。
「この夜から、すべてが始まったんです。僕にとって苦悩の日々が」
引地氏による証言とそれに符合する大量の資料が明かすのは、天下の東大教授が、異様な“エロ接待”に溺れる姿だった——。
民間側が研究費用を全て負担
この“事件”の舞台は、日本最高位の教育・研究機関である東大が設ける、民間企業などとの共同研究の仕組み「社会連携講座」だ。
この制度、東大側は資金確保につながる。人件費をはじめ研究の経費を事前に定めて民間側が全て負担し、更に一律30%を「間接経費」として東大に納入する。
一方、民間側は、大きな費用負担と引き換えに、研究から生じた知的財産権について東大と交渉するなどした上で、成果を自社の商品開発などに生かすことができる。グーグルやソニーといった名だたる企業も講座を設置している。
テーマは大麻草由来の成分である“CBD”
そんなトレンドの中、引地氏らと東大の間で共同研究の話が持ち上がったのは、2022年の年初だ。テーマは「カンナビジオール」(CBD)。大麻草由来の成分で、海外では医療分野にも多く用いられる。
「化粧品協会では化粧品の処方設計や消費者相談の他、化粧品の成分分析事業を行ってきた。CBDについても、消費者や企業から調査や分析の依頼が寄せられ、ノウハウを持っていました」(引地氏)
法整備が進み、利用拡大が期待される分野だ。
「CBDは抗老化や抗酸化の効果なども報告があり、注目の成分。東大としっかりした臨床研究ができれば協会の事業にも活かせると思い、門を叩いた」(同前)
22年春頃、皮膚科との連携が内定。23年4月から協会の提携先でもあった日本中小企業団体連盟(中団連)と共に、年3000万円の活動経費を払う契約を結ぶことになったという。
佐藤教授は東大皮膚科学教室のトップ。出身も東大医学部で、米デューク大などを経て09年から東大大学院教授を務める。論文多数で強皮症研究の権威だ。
「密に連携して、お互いの距離を更に縮めたい」
「佐藤教授は、東大病院内で院長らと共に『神ファイブ』と呼ばれるほどの存在だと僕は吉崎氏から聞かされていました」(同前)
かくして、カリスマ教授を中心に引地氏も共同研究者となり、未来ある産学連携がスタートした。
だが、ここまではオモテの話。ウラで始まったのが、度重なる会食だ。
冒頭の23年2月の会食後、吉崎氏から相次いで引地氏にメッセージが届く。
〈佐藤先生が4/26水にまたどうですか、と仰っていますが、如何でしょうか? 大変お喜びでした笑〉
〈佐藤先生と今話をしているのですが、気が早くて申し訳ないのですが、4/26の後の予定も決めさせて頂いて良いでしょうか??5/11と、さらに5/24は如何でしょうか? 立ち上がりの時期なので、密に連携して、お互いの距離を更に縮めたい、とのことです〉
ホステスに胸躍らせる教授
矢継ぎ早に指定される接待の日程。吉崎准教授が上司である佐藤教授の意をくみ、引地氏への連絡役を務めているのだ。
すでに単なる会食だけではなかった。引地氏が話す。
「高級飲食店で食事後、ホステスさんのいる銀座のクラブで接待すると、先生方がハマって、恒例のコースになりました。いずれも支払いは僕でした」
実際、吉崎氏からのメッセージでも、佐藤教授がホステスに胸躍らせる様子が伝わってくる。
〈クラブ「R」は(当然ですが)大変気に入られたようで、(略)クラブ「R」で良い、とのことでした。あの2人を気に入られたみたいです大笑〉
支払うそぶりを見せたことがない
引地氏の手元に残る領収書を見ると、メッセージにもある4月26日付は銀座の会社名で、金額が39万250円。5月24日付には銀座のクラブで45万円。更に、例えば7月3日はレストランとクラブで計87万2506円を一晩で支払っている。
3人が複数回訪れた料亭の女将は、こう語る。
「先生方はよく食べますが、いつも支払いは下座の引地さん。東大の先生が支払うそぶりを見せたことはなかったですねえ」
東大の教職員倫理規程では、利害関係者から教職員が接待や金銭を受けることを禁じている。そんな危うさの中、接待を繰り返した理由について引地氏は言う。
「連携講座で、民間団体は東大に研究を『してもらう』立場。麻薬や大麻草を研究する免許を持ち、研究計画を立てて、皮膚科の医師らに研究を実施させられるのも、協力講座長の佐藤氏と講座長の吉崎氏のみです。彼らの機嫌を損ねては研究成果に悪い影響が出ると感じ、『月2回ほど』と求められて続けてしまいました」
〈素晴らしい体の女性で、楽しみました〉
接待と引き換えに、研究は当初順調だった。
週に1回は運営進捗会議を実施。吉崎氏が医局員や協会側の研究員などに、実験の手順を指示する。翌24年2月には、第2回のシンポジウムを開催した。
しかし、ちょうどシンポジウムの前後から、接待の様相に露骨な変化が生じた。
同年3月、佐藤氏と引地氏らは大麻草の栽培状況見学でタイに渡航。その際、佐藤教授が〈昨夜は感動しました、素晴らしい体の女性で、楽しみました〉と漏らしたことを、吉崎氏が引地氏にメッセージで報告。
〈テクニシャンが希望です〉
佐藤教授が現地で女性体験を満喫したと窺わせる内容だが、引地氏はこう語る。
「日本でも佐藤先生たちはクラブで満足されなくなり、更に快楽を求めるようになりました。そこで僕は、風俗店にもお連れするようになったのです」
風俗店とは、高級な「ソープランド」だ。かつて遊郭があった聖地、東京・吉原が接待コースに加わった。
吉崎氏のメッセージには教授側が前のめりに求めたような文言が残る。
〈湯島と本郷にお部屋を借りてらっしゃるでしょう? そこって、シャワーありますか?佐藤先生が、今後、ソープに行く前に使いたいそうで…〉
豪遊前に、身をきれいに整えたいとの意向を持っていた佐藤教授。日程調整は仔細だ。
〈7/26以降のソープは、まだ何時に行くかきめていませんが、以下でお願い出来ますでしょうか?
6/28(金)11:00(ソ)、18:00(××)
7/12(金)13:30(ソ)、18:00(××)
7/26(金)11:00(ソ)、18:00(××)…〉
(※××は飲食店名)
〈ソープは9/5と9/19の11:00 or 13:30でどうでしょう?〉
他にも、
〈28日の11時ですが、佐藤先生はMちゃんで、私はCちゃんでお願い出来ますと幸いです〉〈できればテクニシャンが希望です〉
と女性のリクエストも。特に佐藤教授はMちゃんの指名が前提となっている様子がわかる。引地氏も〈予約済みです〉などと返答。
昼からソープ、夜はスッポン料理店
一連のやり取りを総合すると、昼からソープ、夜は高級料理に舌鼓、というコースを求めていた模様だ。
裏付けとなる領収書もある。台東区のソープランド「B」にて6月28日に15万6000円、7月26日に23万4000円を支払ったと記載。宛名は「JCA」、日本化粧品協会の略称だ。ソープ通いと同じ日、スッポン料理店も訪れていた。
一方、連絡役の吉崎氏が、佐藤教授について引地氏に愚痴を漏らすことも。
〈あれ、Mの世話?やりとり?係?を私にさせようとするの、ほんと、いらっと来るんですよね。。。クソソープ嬢に入込んで、何が楽しいのやら。。。。。。ヤバくないですか?〉
贈収賄に該当する可能性
こうして続いた酒池肉林の“エロ接待”。2024年9月までの1年半で30日以上に及び、引地氏が佐藤教授らに支払った会食や風俗店の費用は、引地氏によれば「1500万円」に上ったという。確かに「週刊文春」に引地氏が提供した領収書の写真は50枚以上で、その額が裏付けられる。
そもそも、国立大学法人の教職員は「みなし公務員」だ。贈収賄など公務員に適用される刑法の規定の一部が適用される。元東京地検検事の落合洋司氏が語る。
「国立大学の教員が、自らの研究プロジェクトの人員配置や遂行を職務として進める対価として、銀座のクラブや風俗店で高額な接待を受け続けることは、正当とは言い難い。違法な贈収賄に該当する可能性があるでしょう。『要求型』であったなら、より悪質です」
その後、産学連携を歪めたであろう癒着関係は昨年8月、あっけなく決裂した。
『殺すぞ』などと激怒
引地氏はこう主張する。
「会食の際、佐藤教授が、更に別途『1300万円持ってこい』『殺すぞ』などと激怒した。かねて『佐藤先生が学内で強く出るため』など不明瞭な支払いを求められていた。接待も含めて我慢も限界だった僕は『恐喝だ』と思い、東大のコンプライアンス通報窓口にすべてを通報した。後日、吉崎氏が(佐藤教授が)『殺すぞ』と発言した旨を認める音声もあり、警察署に被害相談中です」
「週刊文春」が確認したその音声によれば、吉崎氏は「あれ録音とかされていたら、絶対やばい」「殺すっていったでしょう」などと心配そうに話しているのだった。
東大の贈賄劇、幕引きはまだ。
東大や佐藤教授は、どう捉えているのだろうか。
佐藤教授に電話すると「東大を通してください」と言うが、東大に質問状を送付しても「お答えできません」。その後、佐藤・吉崎両氏を受け持つ弁護士に詳細に質問すると「事実に反しております」と回答があった。ただ、どの点が事実に反するのか尋ねても返答はなかった。
引地氏は最後に言う。
「僕も贈賄側として責任を問われる立場であることは覚悟しています。ただ、断る選択肢があったのでしょうか。共同研究の場が、教授が私腹を肥やし、立場の弱い民間に“たかる”舞台装置になっている内実があると感じました。通報から5カ月経った今も、東大は調査しますと言ったきり。天下の東大が、これでいいのでしょうか」
この問題、誰かが“お会計”しなくてはならない。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年3月13日号)