「有害」情報の舞台が本からネットへ、「白ポスト」役目終える…長崎市が閉鎖
2025年5月7日(水)8時10分 読売新聞
閉鎖のポスターが貼られ、役割を終えた白ポスト
青少年育成に悪影響を及ぼす可能性がある雑誌やDVDなどを回収する長崎市の「白ポスト」が3月末で閉鎖された。県内では全国的にも早い時期に設置が広がり、健全育成に一役買ってきたが、有害情報の舞台がインターネットに移ったことなどを背景に役割を終えた。全国的にも白ポストは減少傾向で、識者は「地域との関わりが少なくなる中、保護者が子どものネット環境を整えるべきだ」と指摘する。(野平貴)
64年、県内に初設置
子どもに見せてはいけない図書類を入れてください——。3月の早朝、そんな呼びかけが書かれた白ポストに市職員3人が訪れた。中に入った雑誌やDVDを回収すると、
県こども未来課によると、県内にポストが初めてできたのは1964年で同市に5台、佐世保市に5台。現在は19市町に設置されている。回収するのは、露骨な性表現や過剰な暴力シーンなどがある雑誌やDVDといった「有害図書類」。所々に捨てられ、子どもたちの目に触れてしまうのを防ぐことに役立ってきた。
吸い殻捨てられ
ただ、回収を担ってきた長崎市こども相談センター相談員の松本直道さん(61)は「最近の回収量は減少傾向にあった」と語る。2020年度までは1年間に約5000点近くあったが、21年度から3000点を下回るようになり、23年度は2283点だった。さらにゴミ箱のように扱われ、たばこの吸い殻も捨てられるなど火災の危険性もあることから閉鎖が決まった。
人手不足も影響
白ポストを研究する東京経済大の大尾侑子准教授(社会学・メディア史)によると、1963年に兵庫県尼崎市が全国で初めて設置すると、64年に長崎市、66年に東京都と徐々に各地に広まっていった。64年の東京オリンピックなどを背景に有害図書の浄化作戦が進んだことなどが背景にあったが、近年はオンラインコンテンツの浸透や回収者の人手不足により、急速に数が減ってきたという。
尼崎市には現在6台のポストがあるが、回収量は減少傾向で、管理する市教育委員会は「将来的には減らす可能性もある」とする。19台を設置する福岡県久留米市でも、2021年度は1127点を回収したが、23年度は699点だった。
大尾准教授は「戦前の国家的な検閲に比べ、白ポストは民主的な運動で、『寛容さ』の象徴ともいえる。存在自体が子どもや大人に有害図書について考えさせる機能も持っていた。今後はポストに代わる形で、地域全体で子どもを見守る態勢が必要だ」と話す。
「保護者のネット環境管理が重要」
こども家庭庁が2024年度に、満10〜17歳の青少年5000人を対象に実施したインターネット利用環境の実態調査(回答率62・6%)によると、利用している青少年は98・2%を占めた。このうち、自分専用のスマートフォンを所持している割合も92・3%に上ったほか、年齢が上がるにつれ、利用時のルールを設定しない家庭も多かった。
富山大の神山智美教授(行政法)は「子どもが使うアプリを保護者が管理する『ペアレンタルコントロール』を用いるなど、まずは保護者が青少年のインターネット環境を管理することが重要になる」と指摘する。