金価格高騰で博物館の砂金採りが大人気、所長はホクホク顔かと思いきや…「正直痛しかゆしの面が」
2025年5月8日(木)14時0分 読売新聞
専用の皿でふるいにかけた砂金。指の先に3粒見える
世界経済の先行き不透明感や中東などの地政学リスクを背景に金価格の高騰が続く中、大分県日田市中津江村にある「地底博物館
「あったー。これ、金だよね」。大型連休最初の日曜日となった4月27日。水槽の砂を専用の皿ですくい取り、左右に大きく揺すって洗い流していた子どもが声を上げた。比重の関係で皿の底に沈んでいた砂金を見つけ、目を輝かせて喜んだ。
砂金は砂状に細粒化した自然の金だ。地中の金鉱脈から掘り出される金鉱石とは別物で、ここでは主に、横浜市の業者から仕入れたカナダ産を使っている。
砂金採りの料金は30分で830円。相応のテクニックが求められ、10粒以上見つける「名人」がいる一方で、中にはゼロに終わる人もいる。
19年度は約2万5000人が訪れたものの、コロナ禍に巻き込まれた20年度は8000人台に激減。その後は盛り返し、24年度は「おそらく過去最多」(山口所長)となる約2万7000人を記録した。
砂金の仕入れ値は明らかにしていないが、基になる金価格はこのところ、異常とも言える高値が続く。
国内の代表的な指標である田中貴金属工業(東京)の店頭小売価格(1グラムあたり、税込み)は23年8月に初めて1万円を超え、24年10月には1万5000円を突破。世界が米国の「トランプ関税」に振り回される中、今月7日には最高値となる1万7189円を付けるなど高水準で推移している。
00年頃は1000円台前半にとどまっており、この四半世紀で十数倍に跳ね上がったことになる。
仕入れ値が上がった分は料金に反映せざるを得ない。
22年4月に40円値上げして以降、23年7月と24年4月にもそれぞれ60円と50円引き上げて現在の830円に。加えて今年4月からは、以前は無料で渡していた砂金を入れる小瓶「スチロール瓶」も有料(30円)にした。
山口所長は「赤字を出して市に迷惑をかけるわけにはいかない。このまま仕入れ値の高騰が続くようであれば、さらなる値上げも検討せざるを得ない」と苦しい胸の内を明かした。
◆鯛生金山=1898年に採掘が始まり、1972年の閉山までに金約40トン、銀約160トンを産出。「東洋一の黄金郷」とうたわれた。跡地や施設を引き継いだ旧中津江村が83年、坑道などの見学が楽しめる「地底博物館」としてよみがえらせた。市町村合併で日田市の所有となり、2007年に経済産業省の「近代化産業遺産」に登録された。指定管理者の一般財団法人「中津江村地球財団」が運営している。
「有事の金」需要高まる
金は国や企業の信用力などに応じて価値が変動する現金や株式と違って、それ自体に価値がある「実物資産」だ。世の中が不安定で経済の先行きに不透明感が漂う時などに買われる傾向にあり、「有事の金」と呼ばれる。
価格は2000年代以降、リーマン・ショックや米中貿易摩擦の本格化などを受けて、おおむね右肩上がりの状況が続く。今後、米中などによる関税措置の応酬が続いて景気の悪化懸念が強まれば、さらに上昇するとの見方もある。