「人差し指の肉が落ちて骨が…」通電で虐待、浴室で遺体解体…7人が殺害された“事件の現場”に今も住む50代女性

2025年5月23日(金)18時0分 文春オンライン

〈 「上の階から肉が腐ったような臭いが…」7人が殺害、遺体解体されたマンションの下で聞こえていたおぞましい音 〉から続く


 殺人事件が起きた部屋は、心理的瑕疵のある「事故物件」として扱われる。


 2002年3月、男女に監禁されていた17歳の少女が逃走したことで発覚した「北九州監禁連続殺人事件」。


 福岡県北九州市で起きたこの事件では、起訴された案件だけで7人が死亡しており、主犯の松永太(逮捕時40)と、共犯の内妻・緒方純子(同40)は、緒方の親族などへの殺人罪(うち1件は傷害致死罪)に問われ、松永の死刑と緒方の無期懲役刑が確定している。


殺害と解体が行われていたマンションの部屋


 この事件では、被害者7人全員の殺害と遺体の解体が、片野マンション(仮名)の30×号室で行われていた。



片野マンション30×号室


 現在、この部屋には住人がいる。その人物へのインタビューを取り上げる前に、同室内でどのような犯行が行われてきたか、福岡地裁小倉支部が下した、事件の判決文を参考に説明しておきたい(以下、〈 〉内は判決文)。


 最初にここで殺害されたのは、監禁されていた17歳の少女の父親である、広田由紀夫さん(仮名、当時34)だった。



〈〈松永は、平成7年(1995年)2月、由紀夫を金づるとして一層深く取り込み、また、被告人両名(松永と緒方)の逃走生活の盾としても利用するため、同人を片野マンションに同居させて支配下に置いた〉〉



通電など虐待を繰り返し、34歳の由紀夫さんを殺害


 この頃から、松永に指示された緒方が、電気コードの先に金属製クリップをつけた器具を使用して、由紀夫さんに通電を始める。



〈〈由紀夫に対する通電は、平成7年秋ころ最もひどくなった。そのころ、松永及び松永の指示を受けた緒方は、殆ど毎日、午後9時か10時ころから翌日午前4時か5時ころまで、台所で飲酒するなどしながら、由紀夫を立たせたまま、又はそんきょの姿勢をとらせた状態で、由紀夫に対し断続的に通電を繰り返した。(中略)由紀夫は、何度も繰り返し通電を受けるうち、右手人差し指の肉が落ちて骨が見えるほどの怪我(火傷)をした。(中略)松永は、何度か、「電気のボクシング」と称して、由紀夫と甲女(由紀夫さんの娘の清美さん)に指示して、松永と緒方の面前で、通電用に加工した電気コードの針金やクリップを握らせた上、互いの身体に通電し合うことをさせて面白がった〉〉




 松永は緒方と清美さんに手伝わせて、すのこを解体した木材を組み合わせて木ネジで固定し、縦80cm、横50cm、高さ90cmくらいの檻を作成。この檻を台所に置き、由紀夫さんをその中に入れると、しゃがませて両腕だけを柵の上から出させた状態で、両腕に通電を繰り返すなどしている。由紀夫さんに対しては、その他、身体をペンチでつねったり、顔面を手拳で殴打するなどの虐待が加えられた。また、そんきょの姿勢や長時間の起立を強制され、食事や睡眠に制限を設けられて、衰弱していった由紀夫さんは、浴室に雑誌を敷いた上に寝かされるようになる。その結果、96年2月26日に浴室内で死亡した。


娘の清美さんに手伝わせ、由紀夫さんを浴室で解体



〈〈松永は、「バラバラにして捨てるしかないな」、「まず血抜きをしよう」などと提案し、その結果、由紀夫の死体は解体して処分することになった。(中略)緒方と甲女は由紀夫の死体解体作業を行った。松永は、直接解体作業には従事しなかったが、緒方と甲女に対して解体の方法、手順等につき細かく指示をした。(中略)死体の血抜き作業をする際、松永は、甲女に緒方と一緒に包丁を握らせて死体に切り込みを入れさせるなどした〉〉



 由紀夫さんの解体は浴室で行われ、その後は松永が清美さんに対して、〈浴室をパイプユニッシュやトイレ掃除用洗剤で磨かせた〉などして、入念な清掃が行われた。



 広田由紀夫さんの死後、次に30×号室で起きた殺人の被害者は、緒方の親族たちだった。福岡県久留米市に住んでいた緒方の妹・智恵子さん(仮名、死亡時33)夫婦と娘、息子の4人が熊本県玉名市を経由して、片野マンション30×号室で同居を始めたのは97年9月のこと。さらに同年12月には、緒方の父・孝さん(仮名、死亡時61)と母・和美さん(仮名、死亡時58)もそこに加わる。


 緒方家の最初の被害者は父・孝さんだった。


和室で緒方の父・孝さんを殺害、家族に解体を手伝わせる


 97年12月21日、場所は北側和室である。




〈〈松永は孝らを北側和室に集め、松永を囲むようにして正座させ、孝らに対し、説教を始めた。(中略)松永は、緒方に対し孝に通電するように指示し、緒方が松永の指示に従い、孝の身体に1回通電したところ、孝はその直後に正座したまま上半身を前屈させて倒れ、そのまま動かなくなり、そのころ死亡した〉〉



 その後、南側和室に布団を敷いて孝さんの遺体を寝かすと、松永は緒方と母・和美さん、妹の智恵子さん、その夫の隆也さん(仮名、死亡時38)に向かって「どうするんだ?」と問い掛けている。



〈〈松永は緒方に、「お前は解体作業はしなくていい」と言い、死体の切断等の解体作業は殊更隆也と智恵子にさせた。緒方は、隆也や智恵子に死体解体の仕方を手ほどきしたが、緒方自身は和美と共に、(切断遺体の)煮込みなど、解体以外の作業をした。花奈(仮名、智恵子と隆也の長女、死亡時10)も松永の指示を受けてこれらの作業を手伝った。松永は役割分担を決めたり、作業の仕方を細かく指示したりしたが、作業自体は何もしなかった〉〉



電気コードで首を絞め、次々と緒方家の親族を殺害


 やがて次々と緒方家の親族が殺害されていく。次の標的となったのは緒方の母・和美さんだ。精神に異常をきたし、奇声を上げるようになった彼女は、浴室に閉じ込められるようになり、98年1月20日に松永の指示で、智恵子さんが足を押さえ、隆也さんが電気コードで首を絞めて殺害。遺体は緒方と隆也さん夫婦、花奈ちゃんの4人で解体した。


 翌2月10日には、松永から和美さん同様に精神を病んだ智恵子さんの殺害を示唆された、緒方と隆也さんが話し合う。その結果、隆也さんが浴室内で電気コードを使って智恵子さんの首を絞め、娘の花奈ちゃんが足を押さえて殺害した。遺体は緒方と隆也さん、花奈ちゃんの3人で解体している。


 次に隆也さん殺害を考えた松永は、彼の食事を制限し、通電を繰り返す。浴室に閉じ込められた隆也さんは痩せ細り、4月8日頃から激しい嘔吐を繰り返すと、起き上がることができないほど衰弱した状態となった。その後、同月13日に松永が眠気覚まし剤と500mlのビールを飲ませたところ、1時間後に浴室内で死亡している。隆也さんの遺体は、緒方と花奈ちゃんの2人で解体した。


自ら横たわった10歳の花奈ちゃん


 5月17日、松永は緒方と花奈ちゃんに対して、佑介くん(仮名、隆也さんと智恵子さんの長男、死亡時5)の殺害を命じる。そこで花奈ちゃんは弟の佑介くんに「佑介、お母さんに会いたいね?」と尋ね、嬉しそうに「うん」と頷いた彼を、台所の床に仰向けに寝かせた。そこで清美さんが佑介くんの足を押さえ、緒方と花奈ちゃんの2人が、佑介くんの首に巻いた電気コードを左右から引っ張り、殺害したのだった。佑介くんの遺体は、緒方と花奈ちゃんの2人で解体している。


 最後に残った花奈ちゃんは、松永による通電などの虐待によって、10歳児ながら2歳児のおむつが穿けるほどに痩せていた。6月7日、松永は花奈ちゃんを洗面所で説得し、そこから出てくると、緒方に向け「花奈ちゃんもそうすると言ってるから」とだけ口にした。黙って頷く花奈ちゃんは、台所の南側和室前付近の床の上に、みずから仰向けに寝ている。


 そこで緒方と清美さんは、横たわる花奈ちゃんの首に電気コードを巻き、2人で両端から引っ張って殺害。その後、遺体を浴室で解体したのだった。


片野マンション30×号室に居住した50代の女性


 松永らの逮捕はそれから約3年9カ月後。逮捕から捜査の終結までには、さらに1年3カ月以上を費やしている。片野マンション30×号室は、福岡県警が捜査終結まで証拠保全のために借り上げていたが、その後は一般に貸し出され、短期間だけ住人がいたり、長らく空き室となったりしていた。


 だが19年5月以降、いまに至るまで、同室にはA子さんという50代の女性がずっと居住している。彼女は言う。


「もともと個人的に犬や猫の保護活動をしていたので、ペット可の物件を探していたんです。いま猫と犬を飼っているんですけど、猫と犬のどちらかだけというところは多いけど、どちらもOKというのは少ない。ここはどちらも大丈夫だったので、入居を決めたというのがきっかけです。家賃については、めちゃくちゃ安くなっているわけではありません。相場よりはやや安いくらいです」


“奇妙な出来事”が起こっても「生きている人間の方が怖い」


 この部屋で過去に起きた事件については、不動産業者から事前に説明を受け、A子さん本人も事件については知っていたと語る。


「一応事前に、『殺人事件が起きた部屋です』との説明は受けていました。あと、事件についての本も買って読んでいたので、この部屋でどういうことが起きたのかは知っています。ただ、私のなかでは死んだ人間よりも“生きている人間の方が怖い”という思いがあるんですね。だからさほど気にはならなかった」


 入居した段階で玄関内の壁にはお札が貼られており、浴室の窓の枠には、一定以上の開閉を妨げるストッパーが取り付けられていたであろう、穴の痕跡が残るなどしていた。


「でも、とくになにか嫌な感じとか、そういうものはありませんでした。それでいうなら、前に住んだことのある部屋の方が、事故物件ではないのに不穏な雰囲気がありましたから。とはいえ、知り合いにあの事件の部屋に住んでいると話すと、『なんでそんなところに!』や『あそこはやめた方がいい』ということは言われますね。気にはしませんけど」


 実際に起きた“奇妙な出来事”は数回しかないそうだ。


「部屋を暗くしてホラー映画を見ていたら、いきなりスマホのSiri(アップル社のバーチャルアシスタント)が、『なにを言ってるのかわかりません』と反応したりはしました。あと、入居して半年くらいはよく、誰もいないのにいきなり玄関のセンサーライトが点いたりしていたんですね。けどそれが何度かあってイラッとしたから、『うざい!』って怒鳴ったら、それからはなくなりました」


 A子さんはそう口にすると、屈託のない笑顔を見せる。この事件を長く取材する私も、それから玄関の内部を見せてもらったが、とくに不穏を感じるようなことはなかった。


◆ ◆ ◆


 この凶悪事件の詳細は、発覚の2日後から20年にわたって取材を続けてきたノンフィクションライターの小野一光氏による『 完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件 』(文藝春秋)にまとめられています。


(小野 一光)

文春オンライン

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