障害者や乳幼児連れの万博「優先レーン」、情報発信ないために…「気が引ける」とためらう人々

2025年5月26日(月)14時30分 読売新聞

ポルトガル館に設けられた、優先レーンを意味する「優先キュー」の看板(12日、大阪市此花区で)

 大阪・関西万博では、行列ができる海外パビリオンを中心に「優先レーン」が設けられ、障害者や乳幼児を連れた人らがスムーズに入場できるように配慮されている。優先レーンの存在を知らなかったり、利用をためらったりする当事者もいるが、日本国際博覧会協会(万博協会)は「各パビリオンの対応を正確に把握するのは困難」として、まとまった情報発信をできていない。(坂戸奎太、脊尾直哉)

 5月中旬、ポルトガル館の前には約30分の順番待ちの列ができていた。列のすぐ脇には優先レーンを意味する「優先キュー」と書かれた看板が立ち、ベビーカーに子どもを乗せた親が、スタッフの誘導を受け、待ち時間なしで入場した。ベルナルド・アマラル館長は「ポルトガルでは、ハンデがある人を公共の場で優先するのは当たり前。万博の場でも実践している」と話した。

 ドイツ、クウェート、中国、米国など多くの海外パビリオンが同様の配慮を行っている。対象者や、同伴できる人数はパビリオンによって異なる。

 「優先レーン」の看板を掲示していないパビリオンでも、スタッフに「子どもに障害がある」「足腰が悪い」と申告すると、待ち時間が少なくなるようにしてくれたり、エレベーターで移動できるルートに案内してくれたりする場合がある。

 万博協会は2022年、バリアフリー法や障害者権利条約の基準を基に「ユニバーサルデザインガイドライン」を定めた。

 車いすの利用者や乳幼児連れ、精神障害者、外見ではわからない内部障害がある人、けが人などを「特に配慮が必要な利用者」とし、各パビリオンに優先レーンの設置を推奨している。

 また、待機列の通路幅を、車いすと歩行者がすれ違えるよう最低1・5メートルと定め、ホールでは客席の一定数を車いす用とするとしている。

 各パビリオンは、このガイドラインに基づいて個々に対応を決めている。

 万博協会は、パビリオンごとの優先レーンの有無などについて「実態に応じて適切に対応しているようだ」とした上で、「判断は多様で、正確に把握することは困難」などと説明。公式ホームページや会場の地図では、各パビリオンの対応について説明していない。

 来場者は、パビリオンの看板や、実際に配慮を受けた人たちがSNSで発信する情報を参考にしているのが実態だ。優先レーンの存在を知らずに来場する人も多い。海外パビリオンでは、車いすの利用者や、つえをついたお年寄りが優先レーンを使わず、一般の列で順番を待つ光景がみられる。

 車いすでペルー館を訪れた兵庫県尼崎市の女性(57)は、優先レーンの存在を知っていたが一般列に並んだ。「みんな長時間並んでいるのに、自分から申告するのは気が引けた」と話した。その後、スタッフの声掛けがあって優先レーンへと移動した。

 家族5人で訪れ、生後9か月の娘をベビーカーに乗せていた大阪府和泉市の男性会社員(39)は、「何人まで娘と一緒に入れるのかよく分からない。混雑する中で、スタッフに聞くのは大変です」と話した。

 慶応大の中野泰志教授(バリアフリー論)は「取り組みが周知され、誰もが配慮を受けやすくする環境作りが大切だ。万博協会や各パビリオンは、マップ上や看板に優先レーンや配慮の内容を表記してほしい。万博を機にこうした配慮が社会に定着することを期待している」と指摘する。

 大阪・関西万博の入場チケットには、障害者などを対象とした「特別割引券(大人3700円)」がある。

 対象は身体、知的、精神の障害者や指定難病患者などと、同伴者1人。購入手続き時に証明書類の提出は求められないが、会場で確認される可能性がある。

 入場ゲートには「多目的レーン」が設けられ、特別割引券の対象者などは短い移動距離で入場できる。

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