怒鳴る人に「申し訳ございません」は逆効果…レジ前でゴネる迷惑クレーマーが瞬時に退散した「スタッフの一言」
2025年2月27日(木)9時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock
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■「ただ謝るだけ」では逆効果…
この記事のタイトルが目に留まったあなたは、一度はクレーム対応に悩んだことがあるのではないでしょうか?
例えば、こんな経験はありませんか?
・「申し訳ございません」と何度も繰り返したのに、クレーマーが納得せずにヒートアップしてしまう。
・「タダにしろ!」と無茶な要求をされ、どう対応すればいいか分からない。
・怒っている相手を前に、頭の中が真っ白になってしまう。
私は企業向けにクレーム対応やコミュニケーション研修を行っています。その中でよく耳にするのが、「謝るしかない」「とにかく低姿勢でいれば何とかなる」という考え方です。でも実は、それでは逆効果になることもあります。
なぜなら、「ただ謝るだけ」だと、
・「何の解決にもなっていません! 詫び倒せばいいと思っているの⁉」と新たな怒りを生む。
・「この人は押せば譲歩する」と思われ、要求がどんどんエスカレートする。
となる場面を、毎日のように見てきたからです。
では、どうすればいいのか? 今回は、感じのいい人たちがクレーム対応で使っている「効果的なひと言」を解説します。
■厚労省が示した「カスハラ」の判断基準
近年、「モンスタークレーマー」や「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉が定着しました。
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策啓発ポスター」
厚労省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」には、カスタマーハラスメントの一つの尺度として「①顧客などの要求内容に妥当性があるか、②要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲であるかという観点で判断することが考えられる」とあります(「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」11ページより)。
一口にクレーマーと言っても、全員がカスハラまたは「悪質なモンスタークレーマー」というわけではないということがわかりますよね。
「モンスタークレーマー」には明確な定義はないようですが、一般的に「担当者が丁寧にじゅうぶんな説明を繰り返しても納得せず、理不尽な要求を続ける人」と言われています。
例えば
・執拗に無理な要求をしてくる。
・担当者を長時間拘束する。
・侮辱的な発言をする。
などが挙げられます。では、ここからさらに具体的な対応と、かける言葉について解説します。
■怒っている=「モンスター」ではない
さあ、今、あなたの目の前に怒っているお客さまが現れたとします。
最初にすること。それは、意外と思うかもしれませんが、相手を「モンスタークレーマー」と決めつけないことです。
正当な申し出をしているけれども、一時的に感情的になる人や口調が強くなる人はいます。また、担当者の説明に不足があったり、話し方がわかりにくかったりして、相手の怒りが増幅していることもあります。そして、繰り返しクレームを言う人がすべて「モンスター」とは限りません。
例えば私自身、あるお店で購入したビジネスバッグの持ち手が、1週間もたたないうちに壊れてしまったことがありました。お店に連絡し、交換をしてもらいましたが、新品の持ち手も数日後に壊れてしまいました。バッグの持ち手が壊れると、抱えて運ぶしかありませんから、外出先でとても困りました。
再度お店に連絡し、事情を説明したところ、最終的に返金対応をしてもらいました。二度もクレームを入れた私は、お店側からすれば「またこの人か」と思われたかもしれません。でも、これは単なる「わがままなクレーム」ではなく、本当に困っていたのです。
写真=iStock.com/DragonImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages
このように、繰り返しのクレームでも、理由が正当なものもあります。何でもかんでも「モンスタークレーマー」と決めつけると、サービス提供者側が対応を長期化させてしまうかもしれません。「この人はなぜクレームを伝えているのか?」を冷静に分析し、対応することが重要です。
感じのいい人たちは、クレームが起きると4つのステップで、以下のような言葉をかけています。
■感じのいい人が口にしている言葉
①「そうでしたか……!」「そんなことがあったのですね!」
最初は、このようなリアクションで、相手の申し出を受け止めていることを伝えます。あなたも、誰かに不愉快な体験を話したとしたら、「えー、そんなことがあったの⁉」と反応されたほうがうれしいですよね。
「商品に不具合……ですね?」「お出かけ先でのことだったのですね?」
などと、相手の申し出を復唱するのも、リアクションの一つ。
相手が何に不快な思いをしているか、理解していることを示すことができます。
■全容がわからないうちは、感情にのみ限定した謝罪
②「楽しみになさっていましたよね」「不愉快な思いをおかけいたしました」
などと、共感の言葉で感情に寄り添います。
怒りは二次感情と言われています。怒りになる前に、一次となる感情があるのです。
例えば、予約をしていたレストランに出かけたところ、予約が入っていなかったとします。それが大切な人の誕生日の食事だったらどんな気持ちになるでしょうか。
「相手に対して申し訳ない。悲しい。悔しい」などの一次感情が先に生じ、それが怒りへと変わるのです。
私は万単位で企業のクレーム対応に向き合ってきましたが、感じのいい対応者は、こうした一次感情を読み取り、上手に寄り添いの言葉を口にしています。
そして、まだクレームの全容がわからないうちは、
「ご不快な思いをおかけして申し訳ございません」
などと、感情にのみ限定した謝罪をしているのも、感じのいい人の特徴です。
事実確認ができていないうちは、「うちのスタッフにミスがあり、申し訳ありません」などと起きた事象についての謝罪はしません。
写真=iStock.com/designer491
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■言葉を用意しておけば、とっさの対応に困らない
③「どのようなことがあったのか、お聞かせいただけませんでしょうか」
リアクション→共感+限定謝罪の次は、事情や事実確認のための詳細をヒヤリングします。加えて、相手の要求についても確認します。
もし、対面での対応であれば、お客様と正面で向き合うのではなく横並びになってヒヤリングをするのがお勧めです。真正面から向き合うと「対決姿勢」になりやすく、攻撃的な態度を助長してしまうことがあります。その点、横並びになると、「一緒に解決策を考える」という協力の構図が生まれ、相手の怒りを鎮めやすくなります。
④対処(適切な対応を伝える)
じゅうぶんなヒヤリングをした後は、確認のうえ会社としての対処を、毅然と伝えます。
普通のクレームであればここまでの対応で収まりますが、こちらが丁寧に対処説明を繰り返しても、前述のような理不尽な要求をし続けるお客さまがいます。ここで、「モンスタークレーマー」の可能性が出てきます。
そんな時に有効なのが「エスカレーション」、つまり上司対応に切り替えることです。
・「私ではじゅうぶんな対応ができませんので、責任者に引き継ぎます」
・「お客様のご意見を上の者に伝えてまいりますので、少しお待ちいただけますか?」
などと、あらかじめ毅然とした言葉を用意しておくと、とっさの時に困りません。対応を引き継ぐとともに、担当者自身の心の負担を減らすことができます。
■あらかじめ対応の基準やルールを明確にする
クレーム対応では「人・時間・場所」を変えると、収束しやすいとされています。対応者が変わることで、相手が冷静になったり、要求が変わったりするケースも多いため、事前にエスカレーションルールを社内で決めておくことが重要です。
例えば、「担当者がお客さまに丁寧かつ十分な説明を○回繰り返しても、納得いただけない場合」など、具体的に回数まで決めておくと、担当者もがんばりすぎずに済みますよね。
前述の厚労省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」には、
「各社であらかじめカスタマーハラスメントの判断基準を明確にした上で、企業内の考え方、対応方針を統一して現場と共有しておくことが重要と考えられる」
とも書かれています。
このように、組織として対応の基準やルールを明確にしておくことが、現場のスムーズな対応につながります。
■筆者が目撃した「商業施設での事例」
先日、とある商業施設のレジで並んでいると、私の目の前の男性がいきなり、「案内表示がわかりにくい!」と、若手のスタッフさんを怒鳴りはじめました。
その時、スタッフさんが落ち着いて
川原 礼子『気づかいの壁』(ダイヤモンド社)
「わかりにくかったのですね。ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。すぐに上の者に申し伝えます」
と言うと、男性は「伝えておけよ!」と言い残し、去っていきました。
ほんの30秒ほどのことでしたが、スタッフさんのすばやく、そして感じのよい対応に拍手を送りたくなるほどでした。これこそ、4ステップのうちの3つ、「リアクション・共感+限定謝罪・対処」、きっと職場内で対応方針を統一して共有しているのでしょう。組織として対応基準は、クレームの拡大を防ぎ、「モンスタークレーマー化」するのを食い止めることにも役立つと再認識したシーンでした。
■明日からできる「感じのいいクレーム対応」
クレーム対応で大事なのは、
・ただ謝るのではなく、相手の感情を受け止めること
・事実をしっかりヒヤリングし、適切な対応を伝えること
・理不尽な要求には毅然と対応し、適切にエスカレーションを活用すること
・組織として対応基準を設けておくこと
「申し訳ございません」だけで終わらせるのではなく、相手の感情に寄り添いながら、冷静に対応することが、最終的にはあなた自身を守ることにつながります。
ぜひ、次回のクレーム対応で試してみてください。
※参考:厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
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川原 礼子(かわはら・れいこ)
シーストーリーズ代表取締役、元リクルートCS推進室教育チームリーダー
高校卒業後、カリフォルニア州College of Marinに留学。その後、米国で永住権を取得し、カリフォルニア州バークレー・コンコードで寿司店の女将を8年経験。2005年、リクルート入社。CS推進室でクレーム対応を中心に電話・メール対応、責任者対応を経験後、教育チームリーダーを歴任。年間100回を超える社員研修および取引先向けの研修・セミナー登壇を経験後独立。シーストーリーズ(C-Stories)を設立し、“関係性構築”を目的とした顧客コミュニケーション指導およびリーダー・社内トレーナーの育成に従事。コンサルタント・講師として活動中。著書に『気づかいの壁』(ダイヤモンド社)がある。
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(シーストーリーズ代表取締役、元リクルートCS推進室教育チームリーダー 川原 礼子)