認知症リスクがどんどん下がる…82歳の脳科学者も実践している「高齢者はやらなきゃ損」な日課

2025年3月4日(火)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SewcreamStudio

認知症を遠ざける方法はあるのか。薬学者・脳科学者の杉本八郎さんは「高齢者約1万4000人のデータに基づく研究によると、一日の歩行時間が長いほど認知症発症のリスクが下がる傾向があった。82歳の私自身も、毎日のウォーキングを欠かさないようにしている」という——。

※本稿は、杉本八郎『82歳の認知症研究の第一人者が毎日していること』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/SewcreamStudio
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■認知症予防の基本は「血液サラサラ」


認知症予防の基本となるのは、高血圧や糖尿病などの予防にもつながる「血管を丈夫にして、血流を良くする」生活習慣です。脳にまで十分な酸素や栄養が届けられれば、年を重ねても生き生きとした神経細胞を維持しやすくなり、認知症を遠ざけることができるのです。


もちろん、さらに効果的に予防するには、「認知症」の原因をより意識した対策を講じることも大事です。両方を併せて行えば、まさに鬼に金棒だと言っていいでしょう。


生活習慣病の予防のためにも、認知症の予防のためにも、まず第一に私がおすすめしたいのは「有酸素運動」です。


■有酸素運動が「脳に良い」理由


有酸素運動というのは、酸素を使いながらある程度の時間をかけて行う運動のことです。


こういう言い方をすると難しく感じるかもしれませんが、ウォーキングやサイクリング、エクササイズなどはすべて有酸素運動です。ちなみに無酸素運動というのは、酸素を使用せず、短距離走や筋トレなど筋肉に対して瞬発的に高い負荷をかける運動のことです。


なぜ、有酸素運動のほうをおすすめするのかというと、酸素を使う有酸素運動は血行を良くする効果が非常に高いからです。脳に十分な血液が流れれば、栄養や新鮮な酸素がたっぷりと送り込まれるので、脳の細胞も活性化します。


体力にあまり自信がない人でも気軽にできるのは、なんといってもウォーキングでしょう。気軽であるだけでなく、ウォーキングによって、脳(海馬)の血流が増加することが、東京都健康長寿医療センター研究所のラットを使った実験でわかっています。


しかもこの結果は、若いラットでも高齢のラットでも同様だったそうなので、そういう意味でもウォーキングは、高齢者にとってやらなくては損な運動だと言えるでしょう。


■「歩く高齢者」は認知症になりにくい


ウォーキングによって脳の血流がよくなることが、認知症予防にもつながっていることを示すデータも、近年多く出ています。


2018年に報告された研究結果によると、東北大学の遠又靖丈氏らのグループが宮城県大崎市に住む65歳以上の1万3990人のデータを基に分析したところ、一日の歩行時間が1時間以上の人たちは、30分未満しか歩かない人たちに比べて認知症になる割合が28%程度低くなることがわかりました。


30分から1時間未満という人たちが認知症になる割合も、30分未満しか歩かない人たちに比べると19%程度少なく、一日の歩行時間が長いほど、認知症発症のリスクが下がる傾向が示されたのです。


この結果からは、仮に被験者全員が一日1時間以上歩けば認知症の発症が18.1%減少することに寄与し、現在の歩行時間を1つ上のレベル(「30分未満」から「30分〜1時間」、あるいは「30分〜1時間未満」から「1時間以上」)に増やせば、14.0%の減少に寄与することが推定され、遠又氏らは、「毎日の歩行時間が日本における認知症発症の予防に多大な影響を及ぼしていることを示唆している」と結論づけています。


写真=iStock.com/mykeyruna
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■まずは一日30分、週3日からでいい


ただし、一日の歩行時間が長いほど認知症発症のリスクが下がる傾向があるのは確かだとしても、大事なのは運動を継続することです。


「毎日1時間歩くぞ!」と張り切って始めたとしても三日坊主で終わってしまっては意味がありません。週に3〜4回程度、一日30分以上を目安に始めてみるといいでしょう。


あまり大げさに考えなくても、エスカレーターやエレベーターを使うのをやめて階段を使うようにするとか、2日に1回は一駅前で降りて歩く距離を稼ぐ、という方法もあると思います。


なお、先に示した東京都健康長寿医療センター研究所の実験では、どういう速さで歩いても血流が増えることには変わりはない一方で、速く歩くと血圧が著しく上昇することも明らかになりました。ですから、無理のないゆっくりとしたペースで歩くことを心がけてください。


■認知機能の低下を抑制する「コグニサイズ」


国立長寿医療研究センターが認知症予防を目的に開発したのが、運動と認知課題(計算、しりとりなど)を組み合わせた「コグニサイズ」です。


英語のcognition(認知)とexercise(運動)を組み合わせた造語ですが、軽度認知障害の段階でこのコグニサイズを実施すると、認知機能の低下を抑制することが、自治体などと連携しながら国立長寿医療研究センターが進めてきた研究から明らかになっています。


具体的なやり方が紹介されたパンフレットを見ると、ウォーキングにしりとりや計算などを組み合わせた「コグニウオーク」なども紹介されていますので、楽しみながらウォーキングをしたいという方は参考にされるといいでしょう。


「コグニサイズ パンフレット」で検索するとヒットするパンフレットには、ほかにも高齢者でも無理なく取り組めるプログラムがたくさん紹介されていますよ。


■身体を動かし、夜ぐっすり眠る効果


有酸素運動が習慣になると、足腰の筋力が鍛えられる、心肺機能が向上する、活動量が増えることで食欲が増して必要な栄養をしっかり取れるようになるなど、健康長寿につながるさまざまなメリットを得ることができます。


認知症の予防という観点からすると、「夜よく眠れるようになる」というメリットも見逃せません。



杉本八郎『82歳の認知症研究の第一人者が毎日していること』(扶桑社新書)

脳内のゴミの排出はその大半が睡眠中になされることは以前からわかっていましたが、ワシントン大学の研究班が2013年に発表した論文によると、入眠困難や中途覚醒、早朝覚醒などがあって睡眠が不安定な人は、睡眠が安定している人に比べてアルツハイマー型認知症の原因物質となるアミロイドβの蓄積が5.6倍も多くなることがわかりました。


また、睡眠不足は高血圧や糖尿病のリスクを上げるという報告もあり、生活習慣病の予防という観点から見ても、良質な睡眠をしっかりと取ることは非常に有効だと言えるでしょう。


具体的には夕方以降のカフェインの摂取を控える、寝る直前の1時間はスマートフォンを触らないようにする、起床後2時間以内に太陽の光を浴びて体内時計をリセットすることなどが、睡眠の質を上げるポイントだと言われています。


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杉本 八郎(すぎもと・はちろう)
薬学者、脳科学者
1942年、東京都生まれ。エーザイ入社後、新薬開発の研究室で高血圧治療薬「デタントール」、そして世界初のアルツハイマー病治療薬「アリセプト」の創薬に成功。アリセプトは97年に米国で、99年に日本で承認・発売。98年、薬のノーベル賞といわれる英国ガリアン賞特別賞を受賞。同年、日本薬学会技術賞と化学・バイオつくば賞、2002年に恩賜発明賞を受賞。京都大学薬学研究科創薬神経科学講座教授、京都大学大学院薬学研究科最先端創薬研究センター教授、同志社大学脳科学研究科教授を経て同大学生命医科学研究科客員教授。日本薬学会理事、有機合成化学協会理事などを歴任。14年、グリーン・テック代表取締役に就任。25年4月、名古屋葵大学学長に就任。趣味は俳句、剣道。主な著書に『世界初・認知症薬開発博士が教える 認知症予防 最高の教科書』(講談社)、『認知症研究の第一人者がおしえる 脳がよろこぶスープ』(アチーブメント出版)。
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(薬学者、脳科学者 杉本 八郎)

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