「最も無駄な時間」なのに中毒的でやめられない…世界で「TikTok禁止包囲網」が広がる納得の理由

2025年3月9日(日)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wachiwit

中国発の動画アプリTikTokを警戒する国が増えている。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「TikTokをきっかけとする暴力事件や未成年の死亡事故などが起きており、制限されるだけの理由はある。運営会社が危険な動画を放置し続けるのであれば、こうした動きは加速する一方だろう」という——。
写真=iStock.com/Wachiwit
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wachiwit

■アルバニア首相「近所の悪党」


世界中でTikTokに対する禁止、制限措置が進んでいる。アメリカで今年1月、TikTok禁止法が施行され、1日だけだが利用できなくなったことは記憶に新しい。トランプ氏による大統領令によって75日間の猶予を与えられたが、4月には再び禁止となる見込みだ。


オーストラリアでは24年11月、16歳未満のSNS利用を禁止する世界初の法案が可決された。TikTokのほかX(旧Twitter)やInstagramなどが対象で、法案が成立した1年後に施行されるという。


南東ヨーロッパのバルカン半島に位置するアルバニアでは2024年11月、14歳の男子学生がSNSで言い合いになり、同級生に刺殺される事件が起きた。


事件後、同級生がSnapchatで犯行時の写真を共有し、同国では全国的な抗議行動に発展。一部の青少年はTikTokに「殺人を支持する」という内容の動画を投稿していた。


同国のラマ首相は24年12月、2025年からTikTokを全面的に禁止すると表明。「TikTokが若者の間で暴力を助長している」「TikTokは近所の悪党であり、この悪党を近所から1年間追い出すつもりだ」と、禁止の理由を語っている。


■TikTokで「過激化」するメカニズム


TikTokで起きたと見られる暴力事件は、それだけではない。25年2月、オーストリア南部の路上でシリア国籍の男が通行人をナイフで次々に襲い、14歳の少年を殺害、そのほか5人が重軽傷を負う事件が起きた。


難民申請中の男はTikTokでイスラム教に関する動画を見始め、急速に過激化し、犯行に及んだと見られている。男は過激化組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓っており、「(犯行中に)警察に撃たれることを望んでいた」とも供述している。


TikTokは、AIでユーザーが好みそうな動画をレコメンドするサービスだ。デマを好む人にはデマを、陰謀論を好む人には陰謀論を多く表示させることで、いわゆる「エコーチェンバー現象」が働き、ユーザーはそれだけが真実という思いを強くすることになる。


オーストリアの事件の場合も、イスラム教に関する過激な動画を見続けることで、行動が過激化した可能性が高い。アルバニアの事件も同様に、暴力的なコンテンツを見続けることで行動が過激化し、事件に発展した可能性は否定できない。


■ウソがどんどん拡散されていく弊害


TikTokでは、多くの誤情報が拡散されていることが分かっている。米格付け機関ニュースガードによると、TikTokで流れる動画のうち約2割に虚偽や誤情報が混じっている可能性があるという。


国内でも、NHKの調査によると2024年6月時点で誤情報を含む動画の再生回数は、合わせて少なくとも3億回以上になるという。TikTokのキーワード検索やおすすめに出てきた10万回以上再生されている動画のうち、誤情報を含む100万回以上再生されている動画は93件で、1件で960万回以上再生されている動画まであった。


写真=iStock.com/ViewApart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ViewApart

SNSでは、画像の加工が当たり前となっており、極端に痩せた写真が多く投稿されている。未成年がこのような画像や動画を見続けることで、摂食障害に陥るリスクが指摘されている。


TikTokでは、ダイエットに関心が高い未成年に対して過度なダイエット情報を表示し続ける仕組みがある。しかも、その中には医療的に問題があったり、健康に害悪を与える可能性がある情報が多く混じっており、問題を悪化させているのだ。


■「失神チャレンジ」「頭蓋骨破壊チャレンジ」


24年末、沖縄県浦添市から「SNS動画『スーパーマンチャレンジ』に関する注意喚起」が出された。中高生がTikTokで流行しているスーパーマンを真似たチャレンジをして、けがをしていることへの警告だ。


TikTokでは、チャレンジ系動画が人気コンテンツとなっており、中には筋トレの一種である「プランクチャレンジ」などの平和なものがある一方で、危険行為を行うチャレンジも少なくない状態だ。


過去には、自らベルトなどで首を絞めて失神し、意識を取り戻すまでを動画に撮影して投稿する「失神チャレンジ」、市販薬ベナドリルを過剰摂取して幻覚を楽しむ「ベナドリルチャレンジ」、ジャンプして着地する前に足を払って転倒させる「頭蓋骨破壊チャレンジ」などの危険チャレンジが流行し、入院、骨折だけでなく、死亡事故も報じられている。


■YouTubeに比べて「野放し」状態


YouTubeでも、洗剤入りジェルボールをかじる「タイドポッドチャレンジ」や、身体に可燃性の液体をかけ火を付ける「ファイアーチャレンジ」などの危険チャレンジが流行し、問題視された結果、そのような動画は削除され、ガイドラインも変更された。その結果、YouTubeではこのような危険系チャレンジ動画はほぼ見つからない状態だ。


ところがTikTokでは、危険チャレンジが世界的に流行しても、ほぼ対処されていない。死亡事故などが出て報道などで問題視されて初めて非表示になるなど、対応が後手後手なのだ。暴力および危険行為は利用規約で禁止されているが、削除・非表示などの対応が十分とは言えない。


TikTokが定める「暴力および危険行為」(TikTok公式サイトより)

■ショート動画を見るのは「最も無駄な時間」


TikTokなどのショート動画の中毒性の高さも、問題視されるようになってきた。元々TikTokは10代に特に支持されているサービスだが、短くてすぐに見終わってしまうショート動画形式にAIでのレコメンド力の高さが加わったことで、中毒性が増した。興味を持ちそうな動画が次々と表示されるため、長時間見続けてしまう若者が続出しているのだ。


NTTドコモモバイル社会研究所の「2024年一般向けモバイル動向調査」によると、TikTokの利用率は10代女性が64.1%、10代男性が45.7%、20代女性が38.9%、20代男性が28.4%と若者ほど高かった。


TikTokを「1日10回以上利用(閲覧)」しているのは、10代、20代で約3割に上る。10代に特に高い支持を受けている実態がよく分かる。


女子大生を対象としたRECCOOの「ショート動画」に関する意識調査(2024年11月)によると、約9割の大学生が毎日ショート動画を見ており、そのうち30%が一日1時間以上ショート動画を見ている。


ショート動画を見る時間を無駄と思うか聞いたところ、83%が「ショート動画を見る時間は無駄な時間だと思う」と回答。さらにスマホを使っている時間の中で最も無駄な時間であると思う時間について聞いたところ、半数以上が「ショート動画を見ている時間が最も無駄な時間」と回答した。これは、XやInstagramなどのSNSに2倍以上の差を付けている。


■中国の運営会社に「浄化」させる方法


アメリカでTikTok禁止法が施行されたのは、国家安全保障上の問題があるとされるためだ。中国のサービスのため、国家情報法によりユーザーの情報が中国共産党に収集・提供されていると考えられている。


TikTokは10代を中心に、2021年時点で月間アクティブユーザー数が10億人を突破するなど、世界中で高い人気を誇っている。一方で、誤情報が拡散されたり、暴力や危険行為を加速させたりする上、中毒性が高い点も問題視されている。


TikTokではペアレンタルコントロール機能が用意されており、1日の利用時間の制限や不適切なコンテンツの制限などができるようになっている。問題は、ペアレンタルコントロール機能の利用率が決して高くないことだ。楽しく中毒性の高いTikTokであえて保護者に制限してもらいたいと考える10代は多くない。


YouTubeでは危険チャレンジ動画などは規制対象となり、ペアレンタルコントロール機能を使わずとも見ないで済むようになった。同様に、TikTokでも問題ある動画自体を禁止することはできないのか。そのような対処がされなければ、他のさまざまな問題と相まってサービス禁止・制限の流れに歯止めはかからない。


ただし、日本は表現の自由を重んじる国であり、国としてSNSの規制に乗り出すとは考えづらい。また、中国などのように国で一律に規制することが必ずしもいいとも思えない。まずはユーザー側が声を上げていくことで、運営会社であるバイトダンス(字節跳動)を動かせる可能性があるかもしれない。


----------
高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。
----------


(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)

プレジデント社

「納得」をもっと詳しく

タグ

「納得」のニュース

「納得」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ