だから「キレる高齢者」「暴走老人」が爆誕する…和田秀樹「怒りを感じたら直後3秒ですべきこと」
2025年3月11日(火)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan
※本稿は、和田秀樹『60歳でリセットすべき100のこと』(永岡書店)の一部を再編集したものです。
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■「自分」がないような「いい人」ではつまらない
他人の目に自分がどう映っているのか気になってしまう。周囲の人たちに白い目で見られるのが怖い。そんなふうに世間体を気にする人は大勢います。「世間の目」とは、いったい誰の目なのでしょうか?
それは、特定の誰かではない集団の「監視の目」といえるでしょう。人と違うことをして、「みんなと同じ」枠からはみ出していないか。そんな厳しい目で見られていると思うと、自分を主張しない「いい人」でいようとするのかもしれません。
でも、「いい人」と話をしていても、正直つまらないと私なんかは思ってしまいます。
「この前食べたラーメン、おいしかったんだ」「いいね」、「あの人の言うことは間違っていると思うんだけど」「そうだね」……ではなく、「私はね」と少しは自分の意見を聞かせてほしいものです。
「いい人」は人に合わせようとしてばかりいて、「自分」がないように思えます。「いい人」が自分の好き嫌いをうやむやにしてしまうのも、世間がつくった同調圧力がはたらいているからでしょう。
■60歳からは自分に素直になって生きていく
また、他人の目や評価を気にしている人は、自分以外の人にも「世間の目」を押しつけようとします。あなたも、そんな押しつけがましい人になっていませんか?
60歳にもなったら、もう人にどう思われてもいいと開き直ってしまいましょう。すると、これからは自分に素直になって生きていくことができます。自分が言いたいことを言えるようになって、人と話をするのもラクになるでしょう。
「世の人はわれをなにともいはばいへ わがなすことはわれのみそしる」(坂本龍馬/武士)——自分がやりたいことを、ほかの人に認めてもらう必要はないのです。
■「キレる高齢者」「暴走老人」が増える理由
60歳を超えたあたりから、感情を制御するのが難しくなってきます。そのため、だんだん怒りっぽくなってきます。その原因は、思考や感情を司(つかさど)る脳の前頭葉の萎縮にあります。
高齢になって急に怒り出す人が増えるのもそのせいで、「キレる高齢者」「暴走老人」と呼ばれてしまうのです。前頭葉は、脳の中でもっとも早く老化が始まります。その機能が落ちると、意欲や感情をコントロールする能力も衰えていくのです。
また、「感情」を持つことと「感情的」になることは違います。怒りの感情がわくのは自然なことで、感情的になるとその怒りを他人に向け、行動や言葉で相手を傷つけてしまいます。
感情的になっている時は感情に振り回されている状態で、怒りで判断が狂い、人に手をあげたり、暴言を吐いたりしてしまうのです。
写真=iStock.com/Gabrijelagal
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怒りの感情に振り回されないようにするには、怒りを「小出し」にするといいでしょう。小出しにするコツは、怒りを感じた瞬間に3秒だけ怒ること。
怒りの感情をぶちまけるのではなく、ちょっとだけぼやいたり、嫌味や皮肉を言ったりして言葉にするのです。その際は、怒った顔や不機嫌な態度にならないようにしましょう。
■感情爆発する前に、怒りを文章に起こす
また、怒りの感情を文章に起こすのもおすすめです。文字にする時にいったん冷静になって、自分の感情を分析できるからです。こまめに怒っていれば、突然、大爆発してしまう恐れもなくなります。
怒りは誰もが持っている感情です。怒りを抑え込んだり、怒りをなくしたりしようとせずに、上手に怒れるようになりましょう。
「怒気怒声を発するは其徳望を失する原由也」(五代(ごだい)友厚(ともあつ)/実業家)——怒りにまかせて感情をぶちまけたり、どなったりすると、徳望を失うことになるのです。
■「人と比べない」ことはできないから心の中で優位に立つ
定年を迎えて人間関係が変わっても、60歳になって精神的に安定してきたとしても、人と自分を比べずに生きていくことは難しいでしょう。
長年、競争社会の中で生きてきて、人と自分を比べることで成長してきた部分もあるでしょうから、比べてしまうのは仕方がないことなのです。自分ではどうしようもないことは、ポジティブにとらえるようにしましょう。
人は自然と劣等感や嫉妬心を抱くもので、誰しも心のどこかで人と自分を比べています。それなら、「比べ方」を変えてみるのもひとつの手です。
写真=iStock.com/Feodora Chiosea
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和田秀樹『60歳でリセットすべき100のこと』(永岡書店)
例えば、「Aさんは華があって目立つ人」。それに比べて「私は地味で目立たない人」ではなく、「Aさんは何をしても注目を集める人」だけれど、「私はわりと悪目立ちしない人」と考えてみる。目立って得をすることもあれば、損をすることもあります。
逆もしかり、目立たないと損をするばかりではないということ。マイナス思考に陥って自信をなくしてしまうより、自分が優位になるように比べたっていいと思うのです。
心の中で優位に立つことは、人を貶(おとし)めることではありません。優位に立とうとすると競争意識がはたらき、劣等感や嫉妬心が自分を高める原動力になるでしょう。
■友人や家族に「他己分析」をうまく活用する
また、自分では短所だと思えるところも、他人から見たら長所になることもあります。どうしても自分を認められないなら、気の置けない友人や家族に「他己分析」をしてもらうといいでしょう。
人と比べても自分のよい面を見てあげるようにすれば、これから生きやすくなるでしょう。
「六十にして耳順(したが)う」(論語)——60歳になると他人の意見に反発を感じずに、素直に耳を傾けられるようになること。「他己分析」をうまく役立てられそうですね。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)